公職選挙法違反の疑いで告発され一度は不起訴処分となったものの、再捜査の末に、立候補ができなくなる「公民権停止」3年の略式命令を受けた菅原一秀元経産相。今回の菅原氏の件を含め、この「公民権停止」について新聞各紙は過去1年の間に、どのような事件をどのような形で伝えてきたのでしょうか。今回のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』ではジャーナリストの内田誠さんが、朝日新聞のデータベースをリサーチして拾い上げた記事の中から、厳選した5本を要約し紹介。そこから見えてきたのは、「地方政治の実情」と、その構造と似通った「中央政治の実情」という、日本政治の嘆かわしい現状でした。
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菅原一秀前経産相に下された「公民権停止」を新聞各紙はどう伝えてきたのか?
きょうは《毎日》から。
菅原一秀前経産相に東京簡裁で罰金40万円と公民権停止3年の判決が下った件、各紙、記事を掲載しています。
「公民権停止」で《朝日》のデータペースを見てみると1年間の紙面掲載記事では17件にヒット。《朝日》は「公民権が停止」というような書き方をしている記事も拾ってくれています。この17件を対象に。
【フォーカス・イン】
まずは《毎日》22面掲載記事の見出しと【セブンNEWS】第7項目の再掲から。
菅原前経産相 公民権停止3年
東京簡裁 罰金40万円、略式命令
菅原一秀前経産相が選挙区内で有権者に現金を配ったとして公選法違反(寄付の禁止)で略式起訴された事件で、東京簡裁は罰金40万円、公民権停止3年の略式命令を出した。量刑は求刑通りの模様で、刑が確定すれば3年間、選挙に立候補できない。
以下、記事概要の補足。菅原氏はコメントを発表、「真摯に受け止め、改めて深く反省し、今後精進を重ねる」とした。
罰金刑以上の刑が確定すれば、国会議員は失職し、5年間公民権停止となって、その間は立候補できなくなる。ただし、裁判所は情状によって公民権停止期間を短縮することができるとの定めがあり、今回は、議員辞職したことを踏まえて3年に期間を短縮したと見られるという。また正式裁判を開かず、書面審査だけで済ませている。
東京地検特捜部は当初、香典名目で30万円が違法に寄付されたと認定したにもかかわらず、経産相辞任などを考慮して不起訴(起訴猶予)にしたのを、検察審査会が「起訴相当と議決」。再捜査では寄付金額が約80万円になったとして一転、略式起訴に至ったもの。
●uttiiの眼
検察が経産相辞任を「考慮」して起訴しなかったのを検察審査会でひっくり返されて再捜査し、やっと略式起訴して辛うじて罰金刑まで辿り着いたのに、今度は裁判所が議員辞職を「考慮」して公民権停止期間を大幅に割り引いてやるということでは、明らかに「考慮」のしすぎだ。菅原氏のコメントを見ると、「今後精進を重ねる」と言っているあたりに、「再出馬への意欲」が見えている。二度と議員にも閣僚にもならないというなら別だが、この場合の「考慮」はむしろ逆側に働くべきで、反省期間はフルで与えるべきだっただろう。
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【サーチ&リサーチ】
* 今回は、この間の公選法違反事例を辿ることになる。
2020年9月2日付
2017年衆院選で当選した自民党・谷川弥一衆院議員(79)の陣営が選挙運動員に法定限度を超える報酬を支払ったとして、2人が公職選挙法違反(日当買収)罪で起訴された事件で、現金を手渡しした運動員に懲役刑と「公民権停止5年」が求刑されたが、執行猶予のついた懲役刑のみ。
* 谷川弥一議員はIR法審議の際に質問時間が余って般若心経の紹介を始めた人として有名。
* 今年4月に行われた福島県の田村町町長選挙で落選した本田仁一前市長は、「中元の返礼」と称して支援者である有権者にハムを配っていた。
2021年2月5日付
タイトル「案里被告の有罪確定、検察側も控訴せず 当選無効、再選挙へ 県議買収」の記事。河井案里氏の執行猶予付き懲役刑と公民権停止5年が確定。
2021年3月5日付
河井案里氏を巡る事件について、元特捜検事の郷原信郎弁護士が取材に応じて、金を受け取ったとされる大勢の県議らについて、以下のコメント。
「本来は起訴され、公民権停止になるべき人たちが堂々と選挙活動をしようとするのは理解できない」と。
2021年5月21日付
タイトル「知事選違反「処分当然」 元宇都宮市議長ら3人略式起訴 /栃木県」の記事。知事選告示前、公職選挙法に違反して福田富一知事への投票を呼びかける法定外文書を送ったなどとして、宇都宮市の元市議会議長や元市議ら3人が11日、略式起訴された。
* 上記については、元市議会議長に罰金30万円、公民権停止4年、知事の次男を含む元市議2人に罰金20万円、公民権停止3年の略式命令が下っていたが、今月に入り、2人とも「公民権停止期間の長さ」が不服ということで、宇都宮簡裁に公判での審理を求めて不服を申し立てた。
* そして菅原氏の1件…。
2021年6月2日付
タイトル「公民権停止、短縮狙う? 菅原議員辞職へ、なぜ今」の記事中、次の記述。
「前経済産業相の菅原一秀衆院議員(59)が1日、選挙区内での違法寄付問題の責任を取り、議員辞職を表明した。検察審査会の議決を受けた東京地検特捜部の再捜査期限が迫る中、処分前に自ら辞職して『情状』を訴え、公民権停止の期間を短くする狙いがあるとみられる」
●uttiiの眼
菅原氏のことはいったん置くとして、これら地方の選挙違反に関する記事群から見えてくるのは、地方政治の実情といったところか。
金品を配る買収、事前運動などは日常茶飯事となっており、たまに摘発されると決まって「略式起訴」され、執行猶予のついた懲役刑と「公民権停止」が科される。ところが、当人たちは次の選挙に立候補が可能となるよう「公民権停止」への不服を申し立て、その結果、停止期間が短縮され、目出度く次の選挙で返り咲く。露骨な選挙違反行為でも、やらないよりやった方が得になる。有権者も分かっていて問題にしない。
菅原氏の場合は、国会議員として遙かに責任が重いが、裁判所に訴えるのではなく、判決前に議員を辞職することによって“恭順の意”を表し、見事「公民権3年」を勝ち取っている。構造は地方政治の場合と似たようなものだ。
「地方政治の実情」は「中央政治の実情」でもあったということになるか。
【あとがき】
以上、いかがでしたでしょうか。
五輪強行の先には選挙が待っています。次の選挙を通して、なお改憲勢力が3分の2を上回る状況だった場合、3回目の安倍政権が姿を現すのではないかと危惧しています。
image by: すがわら一秀 - Home | Facebook