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今こそ学ぶべき渋沢栄一の「日本型資本主義」そこに隠された本当の意味とは?

「日本資本主義の父」といえば、現在放送中のNHK大河ドラマ『青天を衝け』の主人公・渋沢栄一です。そんな渋澤が提唱してきた“日本型資本主義”が最近見直され始めているといいます。なぜそのような風潮になってきたのでしょうか?渋沢栄一の子孫で、世界の金融の舞台で活躍する渋澤健さんが解説していきます。

プロフィール:渋澤 健(しぶさわ・けん)
国際関係の財団法人から米国でMBAを得て金融業界へ転身。外資系金融機関で日本国債や為替オプションのディーリング、株式デリバティブのセールズ業務に携わり、米大手ヘッジファンドの日本代表を務める。2001年に独立。2007年にコモンズ(株)を設立し、2008年にコモンズ投信会長に着任。日本の資本主義の父・渋沢栄一5代目子孫。

日本型資本主義を壊す「日銀ETF問題」

謹啓 ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。

最近、「日本型資本主義」や「新しい資本主義」への関心が政界でも高まっていて、国会議員の勉強会などの講師としてお招きいただいています。様々な側面で時代が激変する現代において、150年程前の激動の時代に資本主義を通じて未来を拓いた渋沢栄一の思想を勉強したいという考えが経済界だけでなく、政界でも広まっていることに時代の潮流を感じます。

しかし現在、資本主義は「格差を生む」「環境を破壊する」悪であるという考えを抱く若者世代が少なくありません。

特に感化されやすい若い時期に2011年3月11日の東日本大震災および福島原発事故を体験し、「日本の社会システムが壊れている」と感じた世代が、今は30代になってきています。

どの世代も豊かな生活や社会を望んでいますが、資本主義でそのような未来を描くことへの失望が特に多い世代なのかもしれません。

「日本資本主義の父」は「一滴一滴が大河になる」ことで日本の豊かな社会が実現する未来を描きました。それぞれが未来に希望を抱き、一滴一滴の金銭的資本、人的資本を合わせる「合本」によって、より良い明日をみんなでつくること。

これが、「日本型資本主義」の原点であり、そこに回帰し「日本発資本主義」として世界に提示することで、失望を希望へと再び転換するためには、まず「壊れている」ところから直すべきでしょう。

日本型資本主義が最も顕著に「壊れている」ところは日本銀行の株式ETF(上場投資信託)買いではないでしょうか。

先進国の中央銀行が間接的にも株式を保有することに2013年から違和感を抱いていましたが、当時の一般的な意識は「株が上がれば良いんじゃない」というものでした。

アベノミクスへの期待が高く、その主たる「矢」であった日銀の「バズーカ砲」に異議を問いかけることすらタブーであったかもしれません。

GPIFは株式市場の「クジラ」かもしれませんが、日銀のETF買いは異質です。2016年に公開された映画にかけて、人為的に生まれた異次元な「シン・ゴジラ」とでも呼びましょうか。

けれども「出口なき」状態が長年続き現在に至り、日本銀行はGPIFを超えて、(間接的に)日本企業の最大な株主になっています。

株主は企業へガバナンスを行使することが必然ですが、その最大株主が「国」になる日本型資本主義では問題となります。

また、国の中央銀行のバランスシートに莫大なリスク資産を抱えている状態で予期せぬ大ショックが起こり、歯止めが効かない市場の大暴落が起こった時、どのようなリスク・シナリオが考えられるのか。

日本銀行の純資産(2020年9月末)は4.2兆円です。一方、株式ETFだけでも(同)簿価ベースで34.2兆円を保有していて、現在の時価総額ベースでは45兆円から50兆円程度で推移していると思います。自己資本と比べて8倍?12倍の超高レバレッジです。私は90年代後半に大手のヘッジファンドに勤めていましたが、株式というリスク資産をヘッジ無しで、これほどレバレッジをかけているファンド(で破綻していないところ)は聞いたことがありません。

もちろん政府機関である日銀はヘッジファンドや企業とは異なります。資産が痛んでも政府が借金を増やして資本注入すればすみます。

ただ、通貨の番人であるはずの中央銀行に資本注入が必要となるシナリオにおいて、通貨の価値はどうなるのか。著しく価値を棄損するはずです。エネルギーや食糧を輸入している国の通貨が大暴落したら、物価急上昇に賃金上昇が全くついていけず、国民生活が困窮に陥ることは明らかです。

渋沢栄一が提唱した「日本型資本主義」を立て直す

「出口がない」日銀ETF問題に、友人のファンドマネージャーが妙案を提唱しています。

ETFを日本銀行のバランスシートから外して特別基金に移管し、現物株式へと交換します。現物株式のアセットオーナーになりますので、企業へのガバナンスもきちんと行使できます。

そして、仮に50兆円の株式ポートフォリオの配当利回りが1%だった場合、年5000億円の財源が生じます。

この財源を、去年から浮上している「大学ファンド」に活用すれば一石二鳥です。「大学ファンド」構想への反対は、日本政府の財投(借金)を財源としていることとリスク資産を増やすことです。

ETF残高を日本銀行のバランスシートから外して特別基金に移管することで、大学基金の財源は既に確保できることになります。

また、日本政府(国民)が新たなリスクを抱えることもありません。日本銀行が既に抱えているリスクですから。

前例のない考えなので、多くの「出来ない」理由が挙がることでしょう。ただ、異次元の金融政策の「出口」は、異次元であってもよいのではないでしょうか。日銀だけで決定できることではなく、政治主導が必至です。

福島原子力発電所において非常用電源を浸水しかねない場所に設計し、かつ放置してあったことは、明らかに日本のシステムが「壊れている」状態でした。日銀ETF問題も、明らかに日本型資本主義が「壊れている」状態です。

でも、今ならば、直せます。株式市場が大きく下落して、大問題として表面した時では、致命的に遅すぎます。

□ ■ 付録:「渋沢栄一の『論語と算盤』を今、考える」■ □

『論語と算盤』経営塾オンライン 

『渋沢栄一 訓言集』一言集

一般市民の困らぬよう国運の進歩を
つとめて行くのが善政である。

日銀のETF残高が増えても、一般市民が困らないじゃないかという意見があるかもしれません。むしろ、株式市場の底上げになっているので、喜んでいるかもしれない。しかし、短期的にそう見えても、長期的に過剰なリスクが積み重なっている状態が国運の進歩を導く善策とは思えません。

『論語と算盤』動機と結果

志が善でも行為が悪になることもあり、
また行為が善でも志が悪なることおるように思われる。

単に志が善ならその行為も善という説よりも、
その志と行為をくらべあわせて考えた上に
善悪を定めるという説のほうが確かである。

間違いなく、志は善です。ただ、異次元の金融政策であったはずのETF買いが長年続いている行為が善と思えません。最近、日銀のETF買いが減少していることから、志と行為が比べ合わせて考え始められているようです。

謹白

image by: 公益財団法人渋沢栄一記念財団 - Home | Facebook

渋澤 健(しぶさわ・けん)

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