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日本では不可能。フランスで「ワクチンパスポート」が利用拡大の訳

各国で導入が進む、新型コロナワクチンを接種したことを証明する「ワクチンパスポート」ですが、フランスではその提示義務の拡大が大きな論争を呼んでいます。今回のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』では、ジャーナリストの内田誠さんが朝日・東京の2紙の記事を引きつつ、同国がワクチンパスポートの導入・利用拡大に至った背景とこれまでの流れを解説。さらに日本でワクチン接種の義務化が議論されるタイミングについて、自らの考えを記しています。

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仏で「ワクチンパスポート」の利用拡大に反対する人たちが抗議の声をあげている理由

きょうは《東京》から。

「衛生パス」という見慣れない言葉が紙面に見えています。フランスで「ワクチンパスポート」のことを指す言葉だそうで、この「衛生パス」の利用拡大に対して反対する人たちが抗議の声をあげているという記事。

しかしこの「衛生パス」で検索しても、《東京》《朝日》ともヒットしません。そこでフランスにおけるワクチンパスポートの問題を探るために、「ワクチンパスポート」と「フランス」を掛けて検索すると、《朝日》のサイト内に7件、1年以内の記事で2件ヒットしました。これらの記事を観ていきましょう。

【フォーカス・イン】

まずは《東京》4面記事の見出しから。

仏「ワクチン証明」抗議拡大
提示義務 映画館や飲食店でも
偽造パス流通も問題化

以下、記事の概要。新型コロナウイルスワクチンの接種率を上げるため、接種証明書「衛生パス」の提示義務が拡大しているフランスでは、抗議行動も拡大。このところ沈静化していた「黄色いベスト運動」と連動し、各地でデモが発生している。

接種を拒む人々の間で密かな需要があるとされる「偽造証明書」も問題に。

マクロン大統領が今月12日に発表したのは、欧州連合の接種歴デジタル証明書を国内では「衛生パス」と呼ぶことにし、映画館や博物館でも提示を義務化すること。また8月からは飲食店など生活に欠かせない施設にも拡大し、医療従事者に対しては接種自体を義務化するもの。現在、法案が審議されている。

コロナ禍以前から一定数いた予防接種に対する反対者が先鋭化し、「黄色いベスト運動」や極右、急進左派政党なども反対を呼び掛け、デモが大規模化したという。24日は前週より5万人も多い16万人がフランス全土でデモに参加したと。

偽造パスポートが流通し始めていて、仏紙パリジャンの記者が試したところ、約3万8,000円で入手できたという。指定された接種会場の個別ブースで看護師に金銭を払い、偽の証明書を発行してもらうという。

●uttiiの眼

各種予防接種に否定的な考えの持ち主は、極端な陰謀論者から素朴な注射嫌いまで、日本よりもフランスの方が多いように思える。ところが、今回の「衛生パス」拡大策の支持率は76%(仏のニュース専門テレビBFMの世論調査)と高く、マクロン政権は「反対者は少数者」と見切ったうえで、かなり強行とも思える施策を打ち出したようだ。背景には、これまでに11万人を超えた死者数。感染力が強く高齢者でなくとも重症化する可能性があるデルタ株の感染拡大などのことがありそうだ。

しかし、日本では、フランスと比べてワクチン接種の進み具合が遅く、「衛生パス」の利用を拡大し、義務化の範囲を広げていくのは無理なことだろう。きょうから申請受付が始まる「ワクチン接種証明書」も特定の5カ国に入国しようとする際にだけ有効なものとなっているのは、当然と言えば当然のこと。それでも、やらないよりはよい。ただし、これで接種希望者が増え、オリンピックによって感染拡大リスクが上昇している中でも、感染拡大に歯止めがかかるとは思えないが。

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【サーチ&リサーチ】

* ギリシアは、観光地の島々で優先的にワクチン接種を進め、欧州内外からの観光客呼び込みを狙っているとの記事(2021年3月1日付)。カステロリゾ島は住民の8割が2度の接種を終え、島は「コロナフリー」を宣言。欧州連合に対しても「ワクチンパスポート」導入を提案。イタリアやスペインは前向きだと。ドイツやフランスはこの時点では消極的。

* 《朝日》は、ワクチンパスポートの必要性を条件つきで訴える塩原俊彦高知大学准教授(行動経済学)による論考を掲載。塩原氏は、ワクチンの接種希望者を増やすために政府が採りうる政策7つのうちの1つとして、「条件付け」を挙げ、「特定の娯楽への参加や、公的資金で運営されている医療サービスや学校への訪問をワクチン接種済みであることに条件づける」として、次のように言っている。「いわゆる『ワクチンパスポート』をひもづけして、ワクチン接種者とそうでない者とを区別しやすくすることで、接種者を優遇するのである。もちろん、『差別』につながるとの猛反対が出るだろうが、少なくとも海外旅行などではワクチンパスポートが採用されるのは確実だろう」と(2021年4月12日付「論座」)。

* その後、EUは「デジタル証明書(ワクチンパスポート)」を導入。デルタ株の急増などへの懸念も残る中、夏のバカンスに向けて観光が本格的に再開。「ワクチンパスポート」が始まった(2021年7月10日付)。

* そして、今日の記事の中でも説明されていた、マクロン大統領のテレビ演説(7月12日)が行われる。「マクロン仏大統領は12日、病院や介護施設などの職員に接種を義務づけると発表した。8月には、カフェやレストラン、病院、美術館、長距離列車などの利用にも、接種か陰性の証明の提示が必要となる」(2021年7月13日付)

* 14日の記事には、強化される「自由の制限」についての詳しい内容。「マクロン氏は「全国民の接種を目指さなければならない。それが普通の生活に戻る唯一の道だ」と強調。状況が悪化すれば、対象者拡大も検討するとした。さらに「ベラン保健相は、9月15日までに接種しなかった病院などの職員は『働けなくなるし、給料も払われない』と警告した。PCR検査を原則有料にする方針も、接種に向けた圧力の一環だ」という。

●uttiiの眼

フランスの感染者数は580万人。死者は11万人に上る。新規の感染者数も、デルタ株が広がるに連れ、およそ4,000人を数えている。世論調査では72%が医療関係者への接種義務化に賛成し、全国民の接種義務化に賛成する人も58%に。

今日の記事はマクロン政権の方針に反対する人たちの存在感の、それなりの大きさを反映するものだろうが、基本的な流れはマクロン氏の対策を支持している。

日本でワクチン接種の義務化が議論されるとしたら、それは、五輪によって感染拡大が加速し、東京都を中心に「医療逼迫」の状況が誰の目にも明らかとなった時だろう。そうならないに越したことはないが、昨日日曜日に新規に確認された感染者数は1,700超。前の週の日曜日を大きく上回っている。

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image by: NeydtStock / Shutterstock.com

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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