全国の児童・生徒一人ひとりにパソコンやタブレットを貸し出し、それを使えるようにするという文部科学省の「GIGAスクール構想」。この取り組みについて、現役小学校教諭で無料メルマガ『「二十代で身につけたい!」教育観と仕事術』の著者である松尾英明さんは、スマホが我々に与える影響について解説した本を引きながら「十分な議論が必要である」と説いています。
子どもを「スマホ脳」にしない─GIGAスクール構想の推進について
今回は次の本から。
『スマホ脳』
アンデシュ・ハンセン/著 久山葉子/訳 新潮新書
最新の研究を数多く集めて分析し、スマホが我々に与える影響についてわかりやすく解説してくれている。PTA講演会でこれと関連した脳の話を聞いたが、やはり同じことを述べている。
結論から言えば
「スクリーンタイムが長いほど脳の働きが悪くなる」
ということである。もっと平たく言うと
「スマホをもつと頭が悪くなる」
ということである。
「スクリーンタイム」とはその名の通りスクリーンを見ている時間である。テレビ、ゲーム、ネット動画、スマホ、タブレット、PC、その他全てがそれに当てはまる。
スマホのすごいところは、それが置いてあるだけで集中力も成績も落ちるという点である。自分のではないものが「置いてあるだけ」でもである。これは、スマホのもつ「通知」機能が関係しているようであるが、詳細は割愛する。
では、GIGAスクール構想はこれによって真っ向から否定されるものになるか。
無条件に子どもに与えれば、そうなる。リアルに登校した時まで授業も全てタブレットを使うような世界になれば、悪影響は免れない。全てがスクリーン上で行われる世界を想定すれば、脳がハッキングされるのもある意味当然である。現に、我々の生活は既にスマホに十分にハッキングされている。
道具は、使い方次第である。車だって非常に便利な道具だが、全てそれで移動となれば、害悪が数多生じる。だからといって自転車が万能な訳でも一番速いジェット機が全て解決する訳でもない。どれもあくまで使い方次第である。
今の時代、スマホほど便利なものはない。だからこそ、意識しなければ、確実に使いすぎになる。
GIGAスクール構想のタブレット端末も同じである。子どもに「魅力的なおもちゃ」と認識されれば、虜になって出てこられないこと必至である。
何の目的で渡すかである。目的は子どもにも共通理解されるから意味がある。目的を伝えずにあんな便利なものを渡せば、それがやがて害悪を垂れ流すことは目に見えている。
与え方である。目的の理解や機能制限等も含め、どうやって子どもがそれに出会うのか。どうやって使うものと認識するのか。
そして、使い方。スクリーンタイムを意識せずに画面を長時間凝視し続けるような使い方をするのか。別に教科書や筆記用具がある状態で、あくまで補助的に見たり質問したりするような使い方をするのか。
端末や環境整備の不備ばかりが話題になるが、その先に大きな問題が控えている。GIGAスクール構想の推進を止めないためにも、その使い方については十分に議論が必要である。
image by: shutterstock.com