2025年には国民の4人に1人が後期高齢者となり、世界一の超高齢化社会を迎える日本。しかし厚労省の試算では約40万人の介護人材の不足が見込まれるなど、課題は山積状態と言っても過言ではありません。そんなもはや先送りできない喫緊の難題を論じているのは、健康社会学者の河合薫さん。河合さんは自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で今回、日本社会が直面している介護を巡る問題の数々を取り上げ解決策を探るとともに、政府に対して「介護庁」の創設を提言しています。
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プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
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世界トップだからの“介護庁”構想
保育士や介護職員、看護師などのエッセンシャルワーカーの賃上げが決まりました。保育・介護職員は来年2月から月額3%程度(9,000円)引き上げになるとされています。
詳細な配分ルールについては、今後も検討を深めていくとのことですが、日本は世界一の超高齢社会です。11月30日に公表された2020年国勢調査の確定値によると、総人口に占める65歳以上の人口の割合は28.6%で、前回15年調査から2.0ポイント増え過去最高を更新しました。
日本の介護システムは世界でも高水準にあるとされていますが、一方で介護する側への待遇や支援が欠けているので、せめて賃金だけでも一般の労働者並みに上げてほしいものです。
厚生労働省の昨年6月時点の賃金構造基本統計調査によると、従業員10人以上の事業所で、介護職員の月給は25万2,300円。全産業の平均は33万600円とかなり低い設定です。
しかも、過去の対策では、保育士の賃上げ費用を受け取ったものの、賃金改善に充てなかった施設が300以上あったことが明らかになっています。介護施設での詳細な数字は把握されていませんが、介護職は深夜勤務がある上に、頼みの綱であるICT利用も、あまり進んでいません。
慢性的な人手不足で、現場は常に負担を強いられているのはご承知の通りです。
介護する人が健康でないかぎり、高齢者の心を労わる介護は難しいので、賃上げも含めて包括的な支援の議論をしてほしいです。
一方で、「認知症の人たちが安心して暮らせる社会を作ろう!」というスローガンを、最近目にすることが増えてきました。
先日、他界された精神科医の長谷川和夫先生が「認知症にならないのは1割しかいない。超エリートなんだよ」と常々話していたように、年を取れば一部の「選ばれた人」以外は認知機能が低下し、一人でできることが限られるようになります。
認知症=アルツハイマーじゃないし、80代前後から始まる「当たり前にできていたことができなくなる」プレ認知症状態は、家族がケアする以外に方法がないのが現状です。
安倍政権では、「介護離職ゼロ」を掲げていましたが、総務省によると、介護や看護で離職した人は12年には10万1,100人、17年は9万9,100人とほぼ横ばい。厚生労働省の調査では、19年まで9万~10万人程度の横ばいで推移しゼロにはほど遠い状況が続いています。
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団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる「2025年問題」を控えた今、介護離職を防ぐための議論も欠かせません。
だって加齢によるプレ認知症状態は、ちょっとだけ支えてあげれば一人でできる。家族と一緒であれば、介護施設に入らなくても生活が可能です。
しかし、一人の「職業人」としての生活をしていると「一緒に住む」という選択は物理的に極めて難しい。となると、高齢の親は配偶者の他界で一人暮らしになったり、親が子どものそばへ引っ越すしかなくなるわけです。
それは「自分だけのコミュニティ」を高齢になっても作れるという利点がある一方で、ケアする側=子どもは限られた時間を親のために使うしかなくなります。仕事と親のケアを両立するためには、自分の時間を削るしかないのです。
その最悪の顛末が、親への暴力だったり、介護殺人といっても過言ではありません。
この問題の解決には、度々本メルマガでも発信している「認知機能のリハビリ」ができる専門家の育成ということになるのですが、日本には身体的なリハビリはできても、精神面のリハビリができる専門家の育成はほとんど行われていません。
「傾聴」だけでもダメ、「優しく接する」ことは分かっていても家族だと難しい場合もある。なのに、その議論は「認知症でも住みやすい街づくり」という大きな枠でくくられ、結局は「そこから落ちる人」を見捨てることになっています。
ましてや「ケアできる家族がいない」高齢者は完全にスルーです。
どんなに「子供には世話にならない。自分達でなんとかする」と考えていても、老いれば、誰もが例外なく「他者の世話」が必要になります。
と同時、ちょっとだけ支援してもらって、「自分でできる」という自信が、認知機能の低下の進行を確実に遅らせます。
「こども庁」の創設に向けて、野田少子化担当大臣は記者会見で機能や権限などについて時間をかけて十分な検討を行う考えを強調しました。その上で政府は、再来年度に「こども庁」を設置する方向で調整を進めていると報じられました。
しかし、介護問題は待ったなしです。
できることなら早急に「介護庁」なるものを創設していただきたい。超高齢社会の世界のトップバッターとして、日本がハード面でもソフト面でも、輸出できる技術やノウハウを蓄積して、「おじいちゃん、おばあちゃんが幸せな国」の代表になってほしいです。
みなさんのご意見、お聞かせください。
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