伝説の「昭和の名人」落語家五代目古今亭志ん生。大河ドラマでは最近ビートたけしが演じて話題となりました。今回のメルマガ『歴史時代作家 早見俊の「地震が変えた日本史」』では時代小説作家の早見俊さんが、関東大震災や太平洋戦争の真っ只中で志ん生が起こした「酒にまつわるエピソード」を紹介しています。
歴史時代作家 早見俊さんの「地震が変えた日本史」メルマガ、詳細・ご登録はコチラ
二人のごとうが創った関東大震災後の東京「関東大震災の時代背景」
先週は凄惨な事実、事件ばかりを綴りましたので、不謹慎かもしれませんが、今週は古今亭志ん生に関する微笑ましいエピソードを記します。
落語家五代目古今亭志ん生、落語ファンにはお馴染み、昭和の名人です。2019年の大河ドラマ、『いだてん』でビートたけしが演じ、ドラマの語り役でしたので、落語ファンでなくてもご存じの方は多いと思います。
その志ん生は大の酒好きでした。関東大震災が起きた時、志ん生は、「東京中の酒が地べたに吸い込まれてしまう」という強烈な危機感に襲われます。居ても立ってもいられなくなり、「かかあ、貸せ!」と身重の奥さんから財布をふんだくり、近所の酒屋に飛び込みました。酒屋の主人に酒を売ってくれと頼みますが、酒屋は大混乱、とても商売などできる状態ではありません。主人は、「欲しけりゃ、勝手に飲め」と相手にしてくれませんでした。
志ん生は、「ありがてえ」と酒樽の前に腰を据え、桝に注いでぐびぐびと飲み始めます。すっかりいい気分になり、帰ろうとすると割れていない一升瓶が転がっていました。「こりゃいいや」と志ん生は一升瓶を提げ帰宅しました。道々、身体が揺れます。酔っているせいなのか余震のためなのかわからなくなって、「さのよいよい」と鼻歌を口ずさみながら帰宅しました。
家では身重の奥さんが柱にしがみついていました。貧乏暮らしにも、志ん生の破天荒さにも不満を言わなかった奥さんも、さすがに呆れて志ん生に平手打ちを食らわせたそうです。
歴史時代作家 早見俊さんの「地震が変えた日本史」メルマガ、詳細・ご登録はコチラ
志ん生と酒にまつわるエピソードをもう一つ。
太平洋戦争末期、志ん生は慰問で満州を訪れました。内地よりも食糧事情が良い、つまり酒が飲めると聞いたからです。ところが、日ソ中立条約を破棄してソ連軍が攻め込んで来ました。志ん生は這う這うの体で逃げ、親切な中国人に匿われました。中国人は志ん生が酒好きと知り、ウオッカを6本くれます。その際、大変に強い酒だから、一日1本までしか飲んではいけない、それ以上飲むと死んでしまう、と釘を刺しました。
その言葉に従い、3本までは日に1本ずつ飲んでいた志ん生でしたが、4本目を飲んでいる時、このまま日本に帰れなきゃ落語はできない、落語ができなきゃ死んだ方がましだ、と前途に絶望し自殺を図ります。
自殺の方法はいかにも志ん生らしく、ウオッカのがぶ飲みでした。酒で死ねるのなら本望だと、中国人の忠告を無視して3本を飲み干してしまいました。
結果、猛烈な二日酔いには悩まされたものの、命は無事、幸いにして日本への引き揚げ船に乗ることができました。博多港に着いた志ん生は無事を心配する奥さんと家族に電報を打ちます。
「〇日帰る、酒頼む」
生還した志ん生は超売れっ子の落語家となってゆきました。(メルマガ『歴史時代作家 早見俊の「地震が変えた日本史」』2022年1月7日号より一部抜粋。この続きはご登録の上、お楽しみください)
歴史時代作家 早見俊さんの「地震が変えた日本史」メルマガ、詳細・ご登録はコチラ
image by: Shutterstock.com