プーチン政権の後ろ盾として知られるロシアの新興財閥。しかしここに来て、国内第2の富豪がついに反旗を翻すという大異変が発生し話題となっています。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、ロシア有数の新興財閥インターロスグループを率いるポターニン氏が、公然と大統領批判を行なったことを伝えるニュースを紹介するとともに、ポターニン氏の行動が意味するところを解説。その上で、プーチン大統領の支持基盤の揺らぎを指摘しています。
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ロシア第2の富豪がプーチンに反逆
3月8日号で、「プーチンの支持基盤は分裂している」という話をしました。「まだ読んでないぞ!」という方はこちら。
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プーチンの主な支持基盤は三つ、
- シロビキ(軍、諜報、警察など)
- 新興財閥(オリガルヒ)
- メディアと、洗脳されている国民
新興財閥は、二つにわけることができます。
- 譜代新興財閥=プーチンが大統領になる前から忠誠を誓っていた
- 外様新興財閥=プーチンが大統領になった後忠誠を誓った
そして、外様新興財閥の有力者、たとえばデリパスカ、フリードマン、アレクペロフなどが反逆している。
今日は、「ロシア第2の富豪がプーチンに反逆した」という話です。
90年代ロシアを牛耳っていた7人の大富豪
90年代の末、ロシアでは、「7人の大富豪が、この国の富の半分を支配している」といわれていました。7人とは、
- ベレゾフスキー=クレムリンのゴッドファーザーと呼ばれていた。プーチンは彼の後押しで大統領になった
- グシンスキー=ロシアのメディア王、民放最大手NTV創設者
- ホドルコフスキー=石油最大手だったユコスCEO
この3人のユダヤ系新興財閥は、2000~03年、プーチンとの戦いに敗れました。
ベレゾフスキーは、イギリスに逃亡。グシンスキーは、イスラエルに脱出。ホドルコフスキーは、シベリア送りにされ、10年間刑務所にいました。2013年に釈放され、現在はイギリスに住んでいます。そして、今も積極的に反プーチン運動をつづけています。
この大物3人が敗北した。
それで他の新興財閥は、プーチンに恭順を誓い、「政治には口出ししません」と約束したのです。7人のうち残り4人は、
- フリードマンとアヴェン = アルファグループ
- アブラモービッチ 英サッカーチーム「チェルシー」のオーナーとして知られる
この3人もユダヤ系。つまり、90年代ロシアの政治経済を牛耳っていた7人の新興財閥のうち6人はユダヤ系。
唯一、ロシア系ロシア人の新興財閥だったのが、ポターニン。この方は、モスクワ国際関係大学を卒業した、私の先輩です。インターロスグループのトップである。そして、2021年時点で、「ロシア第2の大富豪」でした。
1位は、鉄鋼大手「セヴェルスタリ」株80%を握っているモルダショフ。資産額は291億ドル。2位が、ノリリスク・ニッケルCEOのポターニン。ちなみに、2020年時点では、彼は「ロシア1の大富豪」でした。
ポターニンがプーチンに反逆
CNN.co.jp 3月12日を見てみましょう。
ロシアで最も裕福な実業家ウラジーミル・ポターニン氏は10日、大統領府がウクライナ侵攻を受けロシア事業撤退を表明した企業の資産差し押さえを示唆したことに触れ、国を100年あまり逆戻りさせる措置だと警鐘を鳴らした。
これは、何でしょうか?
RPE3月9日付で、「ロシアから撤退する企業リスト」を掲載しました。「まだ読んでないぞ!」という方はこちら。
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これ、「欧米日の大企業は、ほとんど撤退」という感じで衝撃ですよね。これに対してプーチンは、「ロシアから撤退する外国企業の資産を没収する!」と宣言した。しかし、ロシア第2の大富豪ポターニンが反対している。
ポターニン氏は金属大手ノリリスク・ニッケルの社長で、同社の筆頭株主を務める。欧米企業や投資家に対して門戸を閉ざせば、1917年の革命以前の混乱した時代に逆戻りする恐れがあるとして、資産接収に関しては極めて慎重に対応するようロシア政府に促した。
ボターニン氏はテレグラムに投稿したメッセージで、資産接収に動けば「今後数十年にわたって世界の投資家からロシアに不信感が向けられる結果になる」と指摘した。
さらに、ロシア事業を停止するという多くの企業の決定はやや感情的なものであり、海外世論の圧力を受けた結果として下された可能性があると説明。撤退した企業はまた戻ってくる可能性が高いとの見方を示し、「個人的にはそうした機会を残しておきたい」と言い添えた。
「めちゃくちゃまともなことをいっている!」と思うのは、私だけではないでしょう。
ロシア政府が撤退した外国企業の資産を没収した。その後、ウクライナ問題が落ち着いた。その時、外国企業は戻ってきますか?
「なんかあったら資産を没収される。そんな怖い国には投資しませんぞ!」
となるでしょう。
ポターニン発言の理由
ポターニンは、「きわめてまともな意見をいっただけ」です。しかし、それが今のロシアでは許されないのです。中国と同じですね。
アリババ創業者のジャックマー。2020年10月、中国政府の金融政策を批判した後、消えたでしょう。今のロシアも、同じような感じです。
「戦争反対!」といえば捕まる。ウクライナから送られてきた戦闘シーンをSNSに投稿すると「フェイク情報を拡散した」罪で、最高15年の実刑判決になる。
ポターニンも、批判することのリスクをわかっていたはずです。
では、なぜ、彼はリスクを負ってこういう発言をしたのでしょうか?考えられる理由は、ポターニンが「プーチンを見限っている」ということです。
過去にも、優れた戦術家で、世界を恐怖させた人物がいました。ナポレオン、ヒトラー。プーチンもその類。世界的に孤立して、ウクライナだけでなく、ロシアを地獄に突き落とす。そして、結局は、戦略的敗北の道を進んでいきます。これは、ウクライナとの戦争に勝利しても、そうなるのです。
ポターニン、デリパスカ、アレクペロフ、フリードマン。有力外様新興財閥が、沈みゆく「プーチン号」から逃げ出しはじめました。プーチンの支持基盤が、どんどん揺らいできています。
(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』2022年3月15日号より一部抜粋)
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