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目指すは韓国料理版の町中華。養老乃瀧が新業態で打って出る挑戦

ドラマや音楽にグルメと、すっかり日本に定着した感のある韓流。そんな中、大衆居酒屋チェーン大手の養老乃瀧が打って出た韓国料理の新業態「大衆食堂 韓激」が注目を集めています。女子高生までもが訪れるというその人気の秘訣はどこにあるのでしょうか。これまでもさまざまな飲食店の成功ストーリーを紹介してきた、フードサービスジャーナリストでフードフォーラム代表を務める千葉哲幸さんが今回、同社取締役の谷酒匡俊氏への取材を通して「韓激」の魅力を分析・解説しています。

プロフィール千葉哲幸ちばてつゆき
フードサービスジャーナリスト。『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)両方の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しい。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

居酒屋チェーン「養老乃瀧」の韓国料理屋「大衆食堂 韓激」の新たな挑戦

“韓流ブーム”と言われて久しい。それは『冬のソナタ』が日本で放映されるようになった2003年からとされている。今では東京・新大久保がコリアンタウンとなり、社会風俗やフードサービスともに“韓流ブーム”を支えている。一方、食文化としての韓国料理は根強く定着してきた。豚肉を鉄板で焼いて野菜と一緒に食べる「サムギョプサル」は珍しいメニューではなくなった。

これまで定着してきた“大衆韓国料理店”は、このサムギョプサルをディナーの看板メニューとして、ビビンパやチゲ等を食事や副菜としてラインアップしているのが常だった。しかし、ここに新しい試みを行うところも出てきた。

それは養老乃瀧株式会社(本社/東京都豊島区、代表/矢満田敏之)が昨年11月より展開を進めている「大衆食堂 韓激」(以下、韓激)である。養老乃瀧は創業が昭和13年(1938年)長野県松本市、大衆居酒屋「養老乃瀧」1号店が昭和31年(1956年)神奈川県横浜市にオープンという具合に、外食企業の草分け的存在である。現在は「養老乃瀧」「一軒め酒場」など大衆居酒屋を全国に約350店舗擁している。

南砂町駅前店は路面にあり、外から店内を見渡すことができる。ロゴは現在統一されているが色使い等は現状さまざま(筆者撮影)

その同社では昨年11月より「韓激」の店舗展開を開始した。南砂町駅前店(東京都江東区)を皮切りに、京成曳舟店(東京都墨田区)、月島店(東京都中央区)、そしてこの3月に新潟駅前店(新潟市)とオープンした。これまでは既存の業態から転換したものであるが、近く初めて新規に巣鴨北口店を出店し、さらに池袋本社ビル3階での出店も計画されている。同社取締役の谷酒匡俊氏によると「この2~3カ月で数店舗を展開していきたい」という。

南砂町駅前店の店内。「養老乃瀧」からリニューアルしたものだが内装は至ってシンプルだ(筆者撮影)

“韓流”に引かれて女子高生も利用する

「韓激」の特徴は、“メニューの絞り込み”と“低価格”である。前者に関しては、「冷菜 サラダ」7品、「キムチ」6品、「のり巻」5品、「炒め物」5品、「熱旨!韓国風餃子」3品、「韓式 餅料理」3品、「シェア飯」2品、「逸品料理」14品、「韓式 麺料理・ご飯 スープ」8品、「デザート」3品で五十数品となっている。後者では、品目数が多い順で述べると(税別表示)、200円代23品目、300円代15品目、400円代13品目となっている。

ビルの3階に出店している月島店では、1階で看板メニューの画像をアピールしている(筆者撮影)

酒類も同様の発想。ビール、ウイスキー、ワイン、サワー、日本酒ともメジャーな酒類は全部そろっている。これにマッコリやチャミスル、美酢といった韓国のアルコール、ノンアルコールをラインアップ。一例を挙げると「角ハイボール」330円(税込、以下同)、日本酒(白鶴)「熱燗・冷酒」209円、「いつものレモンサワー」209円となっている。

フードメニューの中から「韓激 おすすめ」として「スンドゥブチゲ」352円、「石焼ビビンバ」528円、「チャプチェ」319円、「キンパ」385円、「ケランチム」(韓国風茶碗蒸し)528円、「ニラチヂミ」495円がセレクトされている。

谷酒氏によると、客単価は当初2,300円を想定していたが、現状は2,200円となっているという。原価率は30%。「鳥貴族」「串カツ田中」といった客単価が2,000円代半ばのチェーンと同等ないしはそれよりも低い。

メインターゲットは30代~50代の男性客を想定していたが、実際に開けてみると30代~40代のママ友的な女性グループや、20代カップルの利用が多い。オープンしたばかりの新潟駅前店では女子高生の利用が見られ客単価は1,900円となっている。“韓流”は若い女性にとって人気を博していて、それが日常的にはまだ少ない地方都市では強烈なコンテンツとなっているのであろう。

客層は現状、中高年男性よりも30代~40代に女性、20代カップルが多い(筆者撮影)


大皿の伝統に対しスモールポーションで提供

「韓激」が開発された経緯について谷酒氏はこう語る。

「コロナ禍にあって新しい業態をつくる必要性を感じていた。そんな中で“韓流”は流行っていたが、われわれは“健康的”という発想から韓国料理に入っていった。お酒もさることながら野菜を中心とした食事処となることを想定した」

このアイデアの元となったのは2021年の春、養老乃瀧が西武球場(埼玉県所沢市)に出店した店舗「コリアンダイニング 韓激」であった。「特製プルコギ丼」「韓国冷麺」「特製キンパ」といった弁当を800~900円で販売。この店は人気を博し、市中のリアル店舗で“食事もできる酒場”に可能性を見出すようになった。

「われわれもK-POPの人気ぶりを見ていて“韓流”の飲食店は繁盛すると思っていた。ただしK-POPの映像を流したり、内装にネオン管をつかったりするアプローチでなく、韓国料理をしっかりと食べていただきたいというメニュー構成にして、店名にも“大衆食堂”とつけた」(谷酒氏)

「韓国料理店」は、伝統的に料理が“大皿”で提供され“単品価格が高く感じられる”ということが共通している。スモールポーションで提供するのは日本特有のもののようだ。その点、養老乃瀧はわが国における大衆居酒屋チェーンの草分けであり、ディナー帯で大衆業態に求められているメニュー設計については熟知している。同社ならでは“大衆韓国料理店”に新しいトレンドを呼び起こすのではないだろうか。

現状で五十数品目という品揃えはついてどのような発想を抱いているのだろうか。

「これ以上増やす必要はないと思っている。必要とされるメニューは、チヂミ、ビビンバ、サムギョプサルといったメジャーどころ。この中からスンドゥブ専門店といった展開もできるが、今の段階では韓国料理に総合的な立ち位置で展開していく」と谷酒氏は語る。西武球場での実績もあり、ECでのスポット販売なども行い売上をつくっている。

“町中華”の大衆韓国料理版を想定する

「既に“町中華”という存在があるが、日本の大衆韓国料理はこのような世界になっていくだろう。そこで『韓激』の展開にあたって“和コリアン”という言葉をつくった。韓国そのままの味付けではなく日本のテーストを取り入れてメニューを定着させていく」(谷酒氏)

月島店の店内。16時オープンでディナー帯に近づくと予約客の来店が多くなる(筆者撮影)

「韓激」が特にアピールしたいメニューは前述した「韓激 おすすめ」の6品。これらをはじめとしたメニューの多くは店内調理を行っている。この丁寧なメニューづくりはお客にダイレクトに伝わる。これらの中で人気ナンバーワンは「ケランチム」(韓国風茶碗蒸し)。小鍋に出汁と魚介類の具材を入れ、卵3個を入れて直火でボリュームたっぷりの茶碗蒸しの状態に整えていくというものだ。現状ラインアップしているメニューの中でも最も手間暇がかかっているという。

現状コロナ禍にあって、「韓激」は養老乃瀧の業態の中でも立ち上がりは早いという。それは大衆居酒屋の空間の中に、前述したとおりの新しい客層を呼び寄せる力を持っているからであろう。それは養老乃瀧が定義するように「韓国料理」が「和コリアン」として定着しつつある証ではないか。

image by: 千葉哲幸
協力:養老乃瀧株式会社

千葉哲幸

プロフィール:千葉哲幸(ちば・てつゆき)フードサービスジャーナリスト。『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)両方の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しい。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

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