世界的エンジニアの中島聡さんと株式会社KADOKAWA代表取締役社長の夏野剛さんの対談が「まぐまぐ!LIVE」で配信されました。対談のテーマは「ジャパン・テクノロジーの復活への道」。今回のクロストークの模様を一部だけテキストにて特別公開いたします。(司会進行は/内田まさみ)。
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中島聡×夏野剛 プーチン政権と日本企業は同じ問題を抱えている?
内田まさみ(以下、内田):お二人は久しぶりの対談だそうですね。
夏野剛(以下、夏野):すみません、僕がサボっていました。
内田:2021年の8月以来の対談だそうですよ。
中島聡(以下、中島):もっと前じゃないですか?
内田:こちらの情報では昨年8月以来になっていましたので、たくさんお話ししたいことがあるんじゃないかなと思います。今日のテーマは「ジャパン・テクノロジー復活への道」です。お二人にバッサリ斬られちゃいそうなテーマですね(笑)。サブタイトルは「メタバースの時代は本当に来るのか」と「テクノロジーの未来に日本は存在感を発揮できるのか」。このテーマでお話をお伺いしたいと思います。
夏野:僕、思うんですけど、今そんなことを話している場合じゃないんじゃないかな? だって、ウクライナの状況は「日本の企業が死にそうだ」とか、そんなくだらないことを語っている場合じゃないことになっているわけです。21世紀の今、こういう悲惨な状況を目にしなきゃいけなくなるとは想像もしていなかった。しかも、この戦争が「企業経営」にめちゃくちゃ関係があるんです。ロシアのプーチン大統領には、下の者が「忖度」している結果、正しい情報があがっていないじゃないですか? でも多くの日本企業もそうかもしれないし、もしかしたら海外企業もそうかもしれないんだけど。たくさんいる経営者も「疑似プーチン状態」にあるんじゃないかなと僕は思うんです。だって、忖度してるもん、みんな相変わらず。……という感じの話から始めたらどうでしょうか、中島さん。
中島:いいと思います。現実味が無いのも確かだけど、例えばチェチェン共和国(ロシア連邦北カフカース連邦管区に属する共和国。ロシアとの紛争が長年続いていた)が攻められた1994年当時とかは、西側メディアがあまり気にしていなかったじゃないですか。
夏野:それは、今回の紛争こそ「インターネットの力」が大きかったなと思っていて、第一次チェチェン紛争(1994-1996)の時は、マスコミにまったく情報があがってこなかったわけです。それに対して今回は、ウクライナのゼレンスキー大統領がすごいっていう部分もありますけど、ネットが大きく貢献している。人口4000万人の国家だと、いきなりネット回線を全部閉じるみたいなことができないんだけど、ここで衛星インターネットアクセスの「スターリンク」をいきなり提供しちゃったSpaceX社のイーロン・マスクはカッコ良かったよね。こういう「時代の違い」という部分もあると思うんです。だから、チェチェンの時との大きな違いは「情報量」。そこが今回の戦争とチェチェンの時とで、恐ろしいほどの違いが生まれている理由だなって感じるんです。
中島:そうですよね。Twitterが出てきた時、最初は「自分がやっていることを実況中継できる」っていうことを発見して、みんな喜んでやってたじゃないですか。それが、まさか戦争の現場で起こるとは思わなかったですよね。
夏野:そう。ただ、今回キツかったのは、ロシア軍が撤退した後の地域で、本当にリアルな死体の画像がソーシャルメディアにどんどんあがっているわけです。こうなることをプーチンはまったく意識していなかったんでしょうね。プーチンが「SNSの威力」を分かっているとはとても思えない。こういう「裸の王様」的なことが今回たくさん起きているなって感じるんです。
中島:そうですよね。今後ロシアがどうなっていくかっていうことを考えた時に、かなりの確率で「プーチン政権がクーデターで倒れる」っていうことがありうるじゃないですか。
夏野:ただ、それって怖いですよね。そうなると「核戦争」という話が出てくる可能性もある。
中島:プーチンが倒れる前に「ロシアが核戦争に走る」という可能性が、少なくとも1~2%はあるような気がする。その気持ち悪さと言ったらないですよね。そんな状況下で、こんな話をしている場合じゃないっていうことですよね。
夏野:この一年半ぐらいの間にフェーズが変わっちゃったなって。まずコロナで一旦フェーズが変わって、さらにこのウクライナ戦争でまたフェーズが一個変わったような感じがするんです。
中島:ウクライナ戦争ってまったく閉じていないですからね。
夏野:いや、「恐ろしいことが起こっちゃったな」っていう感じです。
プーチンも経営者も。独裁者は「忖度」が生み出す
中島:やっぱり独裁者って怖いですね、本当に。
夏野:ただ、独裁者も別に自ら望んでそうなっているわけじゃなくて、「周りの忖度」でこうなるという点が凄いなって思っているんです。
中島:でも、みんなで忖度してくれていれば、プーチンは自分がヤバいということに気がつかずに、ポンと殺されちゃうかもしれないですね。
夏野:殺されるんですかね?
中島:もし忖度しなかったら、「ヤバい、ヤバい」っていう情報がもっとあがってきて、プーチンは危機感を持つわけじゃないですか。
夏野:そう。下の者が忖度する方が、プーチンの死期を逆に早めるという。
中島:ですよね。要は、危機感を煽られると「窮鼠猫を噛む」で核のボタンを押しちゃうかもしれないから。
夏野:そういうことか。
中島:だから、忖度も悪くないかもしれません。
夏野:悪くないんだ(笑)。でもすごい話ですよね、本当に恐ろしいことが起こっています。僕も、この一年ぐらい、社長をやってみたけど、いろいろ思うこともあって。これは有料版になってから話そうかな。有料版になった後にじっくり「プーチンになっちゃいけない」っていう話をします。まったく規模感は違うんですけど(笑)。
中島:でも、そうですよね。今、夏野さんは「忖度されちゃう立場」じゃないですか。
夏野:だから、それが見える時と見えない時の違いをどうやって見分けるかみたいなことを今すごく考えています(笑)。
中島:人じゃないですか、結局。
夏野:……ということで、この話は有料版になってからします、すみません(笑)。
米国の一企業がウクライナ戦争に協力する「ありえない現実」
内田:ウクライナ戦争の話ですけど、今回みたいな戦争は本当に「情報」がすごく重要になっているじゃないですか。こういう時、エンジニアに出来ることって多いのかなと思ったりしたんですけど、その辺お二人から見てどうですか?
中島:ボランティアのエンジニアたちがロシアのサーバーを攻撃するということが今始まっています。あれは結構、面白いかも。僕もやろうかなと思って一応グループには入ったんですけど(笑)。そのグループは「このサーバーを叩け」みたいな、ただ単にサーバーのURLと、IPアドレスだけが送られてくる非常に不思議なグループなんです。
内田:それが送られてきて、みんなで攻めていくんですか?
中島:それなりに自分で考えた方式でサーバーにアタックするという。
内田:そういうやり方があるんですね。私からするとまったく訳わからない世界です(笑)。
夏野:今はシステムエンジニアだとか、コードを書ける人をエンジニアって言うイメージが強いんですけど、今までの歴史上、エンジニアってそもそもは「ハードエンジニア」が主体で、特に戦争においてはハードエンジニアが重要だったんです。でも、今回の戦争は完全に「ソフトウェアエンジニア」がものすごく重要になっている戦争だなと思います。特に兵器の種類も、ハードエンジニアが得意な戦車などが、どちらかというとソフトウェア的な「画像認識」に基づいているんです。上空から落下する「FGM-148 ジャベリン」(アメリカの歩兵携行式多目的ミサイル)による攻撃も、どちらかというと「ソフトの勝利」だと思うんです。今回、ソフトウェアエンジニアが主力になってしまった戦争が起きていて、それは「現代兵器にはソフトウェアが重要だ」という面もあるんですけど、もう一つすごいことがあります。例えば、Googleマップに「ウクライナコントロールマップ」っていう共有マップがあるんですよ。これはSNSで発信された情報に基づいて、今ウクライナの戦況がどうなっているのかっていうことを、Googleマップ上に落とし込んでいるマップなんです。きわめて正確に、今現在ウクライナの戦闘状況がどうなっているのかということを世界中に公表しちゃっているわけです。こういうものを情報機関でも何でもない人たちが情報提供できる戦争って、僕にとっては初めての体験だったので、そういった意味では、これからの戦争のあり方を本当に塗り替えてしまうような衝撃的な戦争になっているなという感じがします。
中島:そもそも、一企業であるSpaceX社が戦争している片方の国に協力するとか、今までではあり得ない話ですよね。
夏野:びっくりします。
中島:確かTwitterでイーロン・マスクに依頼が来たんですよね。
夏野:いきなりTwitterで依頼が来た後、何日か経ってウクライナ政府に通信機が届くっていうスピード感がすごいですよね。
中島:あり得ないですよね。
夏野:あり得ない。例えばマリウポリ(ウクライナ東部のドネツク州にある都市)からあがってくる映像って、大部分がイーロン・マスクの提供したスターリンク経由なんじゃないですかね? ウクライナ国内のインターネット回線は落ちているはずだから。
中島:周りを塞がれちゃったらダメですもんね。
夏野:恐ろしい時代の進化ですよ。しかもロシア軍の「進化についていけてなさ感」が、ものすごく日本企業に通じるものがあって。時代が変わっているのに「いまだに戦車でやっているの?」みたいな感じがヤバいです。
内田:本当にロシアって軍事大国なのかなって思っちゃいましたけどね、映像とかを見て。
夏野:でも、今までの軍事力っていうのは、戦車の台数とか、持ってる飛行機の機数とか、核弾頭の数とか、兵士の人数とか、そういったもので測っていたので、ロシア軍は強大なんです。ただ、占領戦と防戦ってまったく違うので、そういった意味では、その違いは勿論あると思います。
内田:今回、「世界中から個人が参加できる戦争」っていう感じのイメージがあって、戦争のイメージが変わりました。いろいろな所で多発してもおかしくないんじゃないかという怖さを感じますけどね。
夏野:いや、逆じゃないですかね。僕には、この情報網がかえって「戦争の抑止力」になる時代が来ている感じがしますけどね。つまり、偽旗作戦もそうだし、残虐な行為とかもそうなんですけど、今まではバレないから、前線でやったことは相手のせいにしてさらに攻め込むみたいな。そういう20世紀的な戦い方がまだ通用すると思ってたロシア軍に対して、情報がどんどん伝わることによって、彼らも窮地に追い込まれるわけです。しかも、電波が通じなくなっちゃったから、携帯電話で自分の母親との会話が傍受されるみたいな、もうめちゃくちゃ(笑)。「これは第二次世界大戦か?」みたいな事が結構起きちゃっていて。要は、これって完全にロシアが「情報戦争」についていけていないっていうことですよね。そういう通信機器も整備していないし、この新しい時代にまったく対応できていない。だから、今のロシア軍は、本当に敗戦直前の日本軍みたいな状況に陥っている感じがします。
中島:そうですよね。今回「相手がロシアでよかったな」みたいなことは思いました。この後、中国がこういうことになったら大変ですよね。彼らはどんどんソフトウェアが強くなってるじゃないですか。僕、少し前にアメリカのシンクタンクが対中国の防衛の話をまじめにしている会議に出たことがあるんです。その時にアメリカ政府の要人とか、そこから雇われたシンクタンクの人たちが本気で、アメリカ各地にいる中国人が裏切るって言うんですよ。例えば、Googleで働いている中国人だったり、大学で教授をしている中国人とかが、いざとなったらアメリカを裏切る可能性があるから、準備した方が良いって本気で言ってるんです。怖いでしょう?(笑) それって普通ありえないじゃないですか。中国からアメリカにほぼ帰化してGoogleで働いてる人は幸せなんだから、中国を応援するはずがないですよね。多分、大半の人はそんなことないんだけど、でも今何十万人といるわけで、そのうちの5%でも「実はスパイだった」とか「あとからスパイになりました」とかなると、アメリカ国内はグタグタになりますから、それは結構本気で心配しているみたいです、彼らは。
夏野:そこがアメリカの弱さですよね。だって、本当にスパイにするんだったら、そんな判りやすい中国系の人をスパイにする訳ないじゃないですか。それって第二次大戦中に日系の移民を強制収容所に入れたのだって分かりやす過ぎるでしょ。むしろ全然関係ないアングロサクソンの人間を金で買収した方が絶対いいですよね、バレないから。それはトランプ以来の馬鹿さ加減。そういう人ってどこの国にもいますよね。日本の政治家でも、本当馬鹿じゃないのっていう発言を大真面目にしている人がいっぱいいる。アホな選挙民に向けてのロールプレイな感じがします。そんなわかりやすいことしないでしょう。
中島:ちなみにイーロン・マスクですが、今度はテスラ社でもやったんですよ。ウクライナ人って結構いいソフトウェアエンジニアがいて、「テスラで働いているウクライナ人が国のために戦うんだったら三ヶ月間有給休暇をあげる」っていうアナウンスをしたんです、すごいですよね。
夏野:でも、三ヶ月は短いですね。
中島:三ヶ月は短いです。三ヶ月で勝てるかっていう問題はある。
夏野:行くのに二週間くらいかかるし、帰ってくるのに二週間ぐらいかかる。正味二ヶ月か。
中島:でも、一企業が「戦争休暇」を出すという。
夏野:ちょっといいですね。
中島:いいですよね。やっぱり決断の速さはすごいですよね、あの会社。
夏野:中国の話で言うと、やっぱり中国はエンジニア力もあるから怖いんですけど、中国ほどの「忖度」の国はどこにも無いんです。戦時中の日本もそうだったじゃないですか。前線はボロボロに負けているのに良い情報しか言わないとか、今回のロシアもそうだけど。でもよくよく考えると、昔の戦争って全部それで負けているんです。だから中国の怖さっていうのは「忖度」。日本企業の低いレベルの忖度から、ロシアの高度な軍事的忖度まで、この「人間の忖度が組織を滅ぼす」っていうことを、習近平は今めちゃめちゃ学んでいる感じがするんです。
中島:でも面白いですよね。じゃあ、忖度を出来ない、もしくは忖度しようとしたら分かってしまうような組織作りはどうしたらいいのかっていうことは、会社でも国でも大事な話になってきますよね。
夏野:そう、そこですよ。まだ有料版じゃないから、この後は言わない(笑)。
……と、ますます面白くなってきました。気になるこの続きは、気になるこの続きは2022年4月中にメルマガにご登録または、2022年4月のバックナンバー購入をいただくことでテキスト及びアーカイブ動画を全編ご覧いただけます。
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