会社に制度としてある「長期休暇」を突然取り消され、旅行をキャンセルせざるを得なくなった時、そのキャンセル料は会社が支払ってくれるでしょうか。今回の無料メルマガ『「黒い会社を白くする!」ゼッピン労務管理』では著者で特定社会保険労務士の小林一石さんが、そのような裁判結果が実際にあったことを紹介し、判決について詳しく語っています。
長期休暇取り消しによる旅行のキャンセル料を会社は負担する必要があるのか
「長期休暇が取れたら何をしてみたいか」みなさんはいかがでしょうか?
私はほぼ一択で「旅行」です。長期休暇の期間にもよりますがもし1週間以上とれるのであれば海外旅行なども良さそうですね。
とは言え、今の私は有給休暇という制度も無く(会社員では無いので)、日々、絶えずメールや電話がくる状態なので現実的には中々難しいかも知れません。
そこで今回は、私にとっては非常に身近では無い、長期休暇についてのお話です。
それについて裁判があります。
ある航空会社で社員が長期休暇を取り消されたことで「行く予定だった旅行のキャンセル料がかかった」としてそのキャンセル料を払うよう会社を訴えました。
その会社には「長期休暇制度」があり、最長で連続16日取得できることになっていました。ただし、この長期休暇を取るにはある条件がありました。それは「長期欠勤者ではないこと」です。
実はこの社員は長期休暇を取得予定だった前月に怪我で長期の欠勤があったのです。そこで会社は長期休暇の取得を一度は認めていたのですが、その後にそれを取り消しました。
すでに旅行の予定をいれていた社員は旅行代金を支払ってしまっていて、その取り消しによってキャンセル料が発生してしまったのです。
では、このキャンセル料は会社が負担すべきなのか?
裁判所は、「会社がそのキャンセル料を支払うべき」と判断しました。
ポイントは会社の「時季変更権」です。ではまず、そもそも「時季変更権とは何か」についてお話します。
社員には有休を取る日を指定する権利があります(例えば、「来月〇日に有休取ります」みたいな感じですね)。これを「時季指定権」と言います。
これに対して会社には社員が指定した日を変更する権利があります。これを「時季変更権」と言います。例えば、社員が取りたいと言っていた日にどうしても取らせられない事情があれば日にちを変更することができるということです。
ただし、なんでも変更できてしまうと社員は有休を取りづらくなってしまうため「どうしても取らせられない事情」があるかどうかが厳しくみられます。
今回の裁判では「どうしても取らせられない事情は無いでしょ」と判断されたのです。具体的には次のような点からでした。
- いったんは長期休暇を承認しており、その時期に取得しても問題が無いと判断している
- その後になんらかの事情が発生してその時期に取得が難しくなったことの説明が無い(そういった事情が発生したとも思えない)
- よって会社が長期休暇を取り消す(時季変更権)ことは認められない
この「時季変更権」というのは私もよくご相談をいただくのですが通常は認められることはほぼありません。
「その日は忙しいから別の日にしてくれ」というのはよくある話ですが「忙しい」くらいで認められることはまず無いと思ったほうが良いでしょう。(もちろん、本人が「同意」すれば変更してもらうことも、そうお願いすることも問題はありません)。
いかがでしょうか?有給休暇ほど、経営側と社員側で意見が対立する制度はおそらく無いかも知れません。
経営側は「取らせたくない」。社員側は「取りたい」。
これに対して今までは社員側が不利でした。「なんとなく(有休を)とりづらい」という謎の雰囲気から「有休は取らないのが当たり前」になっていたからです。
それが今では大きく変わりつつあります。ちょっとネットを検索すれば「有給休暇は社員の権利です」「アルバイトは有休無いは嘘!」などいくらでも出てきますし、法律も「5日間は強制取得」に大きく変わりました。
「有休を取らせたくない」はもはやほぼ詰んでいると言って良いでしょう。であれば、今後はいかに有給休暇の取得を「戦力化していく」かが大切になります。
半日や時間単位での取得を可能にして利便性をあげるとか、長期で連続して取得できるようにして(今回の話のあとにこう言うのもなんですが)リフレッシュ効果をあげるとか、家族やパートナーの記念日を有休に指定してプライベートを充実してもらうとか。
いずれにしてもその効果は仕事にも良い影響を与えるはずです。
有給休暇を経費ではなく投資と考えるといろいろと工夫の余地があるかも知れませんね。単に「消化」してもらうのではない、「取得の戦力化」を目指してみてはいかがでしょうか。
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