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元通信社ソウル特派員が明かす、韓国に溶け込む統一教会『世界日報』の存在

連日報道されている政治家と旧統一教会の関係を問う報道の中に、たびたび登場する「世界日報」なるメディア名。日本では「旧統一教会と関係が深いとされる」といささか回りくどく紹介されますが、旧統一教会の本部が置かれている韓国ではどのよう存在となっているのでしょうか。今回のメルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』では共同通信ソウル支局に勤務経験のある引地達也さんが、当時毎朝目を通していたという同紙の韓国社会での立ち位置を紹介。さらに韓国の宗教文化内における旧統一教会の受け止められ方についても解説しています。

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旧統一教会の「世界日報」の日常と日韓の位置づけ

毎朝、「世界日報」に目を通す。

それが17年程前の共同通信ソウル支局勤務時代の日課だった。

韓国では言わずと知れた当時の統一教会を母体とする報道機関が発刊する新聞である。

報道には基本的に宗教的内容はなく、根底の思想は「反共産主義」「反北朝鮮」が貫かれている。

この思想による社会の実現を目指す報道の中で、思わぬスクープを生み出すことがある。

思わぬ角度から、韓国のどの報道機関も報じていないものを先んじて報じることがあるから、翻訳記事を配信する立場の私としては目を通さないわけにはいかない。

北朝鮮の存在は日常で、その対応をめぐり人によって答えが違う韓国社会で、「世界日報」の他紙とは違う角度の報道に「なるほど」と思うこともあった。

そんな韓国の日常では、旧統一教会はわりと身近にあったことを思い出す。

安倍晋三元首相の事件を受けて、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と政治との関係をどう整理をすればいいのか、社会全体ではまだ焦点が定まっていないような気がしている。

世界日報は、日本のマスメディアの表現を借りると「旧統一教会と関係が深いとされる」との表現になる。

ややこしい話になってしまうが、この「世界日報」は韓国にも日本にも存在する。

別法人であり報道内容も違うが、どちらも旧統一教会と深いつながりがあり、ホームページではお互いのリンクが張られている姉妹関係である。

同様に米国では、旧統一教会が母体とされる保守系の新聞「ワシントン・タイムズ」がある。

これも米国の二大紙「ニューヨーク・タイムズ」と「ワシントン・ポスト」の名前を部分拝借したようで少々まぎらわしい。

そして、私が冒頭から話題にしているのは、韓国の世界日報である。

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当時世界日報の記事の中で印象的だったのは、秘密裡に北朝鮮に潜入させるために訓練された韓国の部隊の人たちが除隊後、不遇な状況に置かれているというルポルタージュであった。

この報道では、彼らが所属していたのは軍隊ではなく「秘密の部隊」だったために、除隊後も元軍人に対する恩給が貰えず、その過去も公表できずに就職が困難になっている方々の実態を赤裸々に伝えた。

記事をもとに私も「秘密の部隊」だった方々の取材をし、その問題を国会で取り上げようとする国会議員にも話を聞いた。

取材をする限り、やはりそこには宗教とは関係なく、純然たる社会問題が存在していた。

秘密の部隊だった方々は社会のアウトローとなり、一部は反社会的グループを形成し、反日デモにも積極的に参加している現実もいろいろと取材できたが、結局私が記事にすることはなかった。

出発点が「世界日報」であることは、日本ではアレルギー反応に近い対応となる。

一般紙が宗教系の「聖教新聞」や「キリスト新聞」の報道を引用しないようなもので、それは報道ではなく、宗教を背景にした布教の役割であるとの認識で収めていたのだと思う。

一方で韓国では少し日常化していて、キリスト教系とされる旧統一教会は、約4分の1がキリスト教信者であるという韓国の宗教文化の中で確実に根付いている。

近代国家となった韓国に浸透したキリスト教が西欧の宗教から「韓国の」宗教にする過程において統一教会は「カルト」と呼ばれながらも、確実に信者を増やしていった。

だから、世界日報も日常になれたのだが、それは時々、日本の通勤電車の中で「聖教新聞」を読む人を見かけるのを日常だと思うのと同様の話なのだろう。

もちろん、多額の寄付とトラブルの問題はそれも社会問題ではあるが、河村たかし名古屋市長が世界日報からインタビューを受けていたことが非難のニュアンスで報道される感覚はおそらく韓国とはギャップがありそうだ。

河村市長は「マスコミの取材に応じることは、当然の務めだと認識している」と話したというが、日本ではこれら宗教メディアの位置づけは実際のところ定まっていない。

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image by: Ki young / Shutterstock.com

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特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

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