どのように読んでも説明を受けても、到底受け入れることができない旧統一協会の教義。なぜ10万人とも言われる日本人信者たちは、かような教えに嵌まりこんでしまったのでしょうか。今回のメルマガ『小林よしのりライジング』では、『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』等の人気作品でお馴染みの漫画家・小林よしのりさんが、その理由を明快な論理をもって解説。さらに「マスコミは統一協会の共犯者」であると断言しています。※本稿では著者の意思と歴史的経緯に鑑み、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を「統一協会」と表記しています
この記事の著者・小林よしのりさんのメルマガ
なぜ統一協会の教義に嵌るのか?
安倍晋三が殺害されて間もなく2カ月になる。
月刊誌「WiLL」「Hanada」は先月に引き続き今月号でも、大々的に安倍の写真を表紙に配した特大追悼号を組んだ。
両誌とも表紙は同じ写真で、安倍の家族葬で飾られていた遺影を使っていて、必死に追悼ぶりを張り合っているようだ。
世間じゃ安倍晋三と統一協会の関係が明らかになるにつれ、追悼ムードというより、国葬反対で沸騰してしまっている。
安倍の国葬については、唯一賛成が反対を上回っていた読売新聞の世論調査でも、ついに逆転した(国葬実施を「評価しない」56%、「評価する」38%)。
岸田首相は国葬を決めた理由のひとつに「安倍元首相に対する諸外国の弔意と敬意」を挙げ、先月31日の会見でも「諸外国から多数の参列希望が寄せられている。国として礼節をもって応える必要がある」と言っていた。
ところが実際は、案内状の返事が8月中旬の締め切りを大幅に過ぎて9月になっても多くの国から届いておらず、外務省は困惑しているようだ。
米国のバイデン大統領、フランスのマクロン大統領、そしてドイツのメルケル前首相も参列を見送ることが決まり、中でもG7で一番長く一緒だったメルケルまで来ないことは驚きの目で見られているという。
この調子だと、「弔問外交」で安倍の権威付けを図った狙いも壮大な空振りになるのではないか。
国葬費用は2億5,000万円と発表されていたが、これには警備費用が計上されていない。ある見積りでは警備費用に35億円はかかるといい、昭和天皇の大喪の礼の警備費用24億円、今上陛下の即位礼正殿の儀の際の28億5,000万円を遥かに超えるのは確実だという。
この調子だと、オリンピックと同じでどこまで費用がふくらむかわかったものではない。昭和天皇の場合は葬儀と陵の造営までを含めて100億円だったそうだが、それを超えることだって起こりかねない。
左翼はあくまでも「国葬反対」でデモまでやったりしているが、安倍マンセー派は、どうせ「アベガー」の左翼が騒いでるだけと思っている。
わしとしては「勝手に国葬していいから、暗殺の原因を徹底究明して、統一協会を排除しろ」と言いたい。
暗殺の原因を徹底究明したら、浮上するのは安倍晋三本人だと判明するし、カルト団体が権力の中枢に入っているのは、国家の恥だとわしは主張している。これはあくまでも「保守」の追及の仕方であり、左翼と一線を画すことが出来る。
世間一般の安倍に対する冷ややかな反応に比べて、「WiLL」「Hanada」の相変わらずの熱狂的な「安倍マンセー」ぶりは、まるで別世界だ。
統一協会問題については、WiLL巻頭の櫻井よしこと門田隆将の対談で、櫻井が「天宙平和連合(UPF)なる統一教会の関連団体にビデオメッセージを寄せただけで、「広告塔」扱いされています」と、安倍を擁護。
「統一教会の関連団体にビデオメッセージを寄せただけで」って!
そういうのを「広告塔」っていうんだよ!!
これに門田はさらに、UPFにはトランプ前米大統領、フランス、インド元首相らもメッセージを寄せていて、安倍だけではないと擁護。
そのギャラは日本の女性信者から収奪したカネだというのに!
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ふたりとも、これで世間を論破できたつもりでいるところがすごい。櫻井は自分が統一協会系団体で講演していた関係があるから、何があっても「問題ない」ことにしなければならないのだろうが、保身のために必死で嘘をついているという様子もなく、むしろすっかりカルトの思考に染まっているようにも見える。
これが「Hanada」になるともっとすさまじくて、「総力特集 統一教会批判は魔女狩りだ!」というページを組み、しかもその筆頭の記事の著者がなんと「世界日報特別取材班」だ!
いまや政治家は、過去に世界日報にインタビューが載っていただけでも「統一協会とつながりあり」と見なされて針のムシロに座らなければならないというのに、わざわざ「世界日報特別取材班」を、堂々と名乗らせて執筆させているのだから呆れる。
編集長の花田紀凱という人物は、どんなに人間的にモラルを欠いても商売人の嗅覚だけは鋭かったはずだが、ついにその鼻もカルトの毒にやられたらしい。
しかもそうまでして招いた世界日報による記事が言っていることが、「世界日報は統一協会の機関紙ではない」という、些細な問題に終始している。
前号の泉美木蘭さんの記事にあるとおり、厳密にいえば世界日報は統一協会の「機関紙」ではないが、「統一協会系新聞」であることは間違いなく、協会と一体であることに変わりはない。もちろん、泉美さんが前号で紹介した世界日報の闇の部分などには、一切触れてはいない。
花田は、こんなどうでもいい記事を載せることと引き換えに、自ら月刊「Hanada」は「統一協会の友好雑誌」であると宣言したのである。
「WiLL」、「Hanada」の安倍マンセー両誌には「安倍元総理の遺志をつぐ覚悟」だの「われ安倍イズムの継承者たらん」だのといった文言が並んでいる。しかも、藤井聡の「表現者クライテリオン」までが、表紙にデカデカと「岸田文雄は、安倍晋三の思いを引き継げるのか?」と打っている。
だが、「安倍晋三の遺志を継ぐ」って、なんだ?
わしに言わせれば、「完全な自虐史観屈服」、「完全な戦後レジーム追従」、それこそが「安倍イズム」であり、「安倍の遺志」ではないか!
安倍は「自虐史観の見直し」「戦後レジームの克服」を旗印にしていたはずなのに、第一次政権で首相に就任するや、河野談話を踏襲し、村山談話を踏襲し、東京裁判を見直す立場にないと表明した。さらにはアメリカに行って慰安婦は「20世紀最大の人権侵害」だと世界に向けて認めてしまった。
自虐史観の見直しが戦後レジーム克服の第一歩なのに、安倍はその第一歩から早々に全てベタ降りして、第二次政権においても一切見直すことはなく、そのまま死んでしまったのだ。
安倍が自虐史観の見直しをやらなかったのは、統一協会の教義に従っていたからだろう。そう見られても仕方がない。
特に一度どん底を味わった後の政権返り咲きと、その後の長期安定政権はまさしく統一協会のおかげだったわけだから、統一協会の教義を否定することになる自虐史観の見直しなど、絶対にやるわけがなかったのだ。
日本は戦前・戦中、アジアに悪いことばっかりやってきたサタン国家だ。特に韓国は併合までしてしまって、とんでもない悪を行ってしまった。
だから日本はその贖罪のために、韓国に永遠にお金を貢ぎ続けなければならない、という歴史観を安倍は恩義ある統一協会のために守り抜いたのだろう。
それで戦後レジームからの脱却なんかできるわけがなく、実際に安倍政権は、戦後レジームの通りのことしかやらなかったのである。
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大将の安倍晋三が率先して統一協会と一体化していたから、自民党の議員はみんな平気で統一協会や関連団体と関係を結んでいたわけだし、一の子分の萩生田なんかは安心しきって統一協会の「家族」になっていたのだろう。そうして安倍晋三は自民党を、特に安倍派を統一協会とベタベタの関係にした。
そして、まさに統一協会の応援を得て戦っていた選挙戦の真っ最中に、安倍は凶弾に斃れたのだ。
こんな不測の事態さえなければ、今後も自民党と統一協会の関係は末永く蜜月の状態だったはずで、安倍が死んだからと言って、その途端にこれまでの関係を全て反故にしようというのは、それこそ安倍の遺志を蔑ろにする行為じゃないのか?
突き詰めれば、安倍の遺志とは「統一協会と癒着し、韓国に国を売ることと引き換えに権力を維持すべし」というものだ!安倍の遺志を継げというのなら、そうするべきじゃないか!
つまり、統一協会信者に雑誌を買ってもらって部数を維持しようと、全力で統一協会を擁護する「WiLL」や、世界日報記者の記事まで載せてしまう「Hanada」こそが、最も誠実に安倍晋三の遺志を継いでいることになるわけだ。
一方、さすがにそんな「保守」メディアとは違って、一般マスコミは統一協会の悪事に対する追及を続けているし、今後もその手を緩めないでほしいところではあるが、しかしそんなマスコミにも不満がある。
なぜ統一協会の信者たちはその教義にたやすく騙されたのかという、その肝心な部分を、マスコミは曖昧にして隠しているのだ。
なぜ統一協会の教義に人々が騙されたのかといえば、それは日本全体が自虐史観だからだ。
戦後の歴史観が「韓国に悪いことをしました」「日韓併合は悪いことでした」「日本は罪を負っています」と統一協会の教義そのままであり、これを日本中で教育によって子供のうちから刷り込んできたからである。
戦中派の人が日本社会の大勢を占めていた時代にはまだそこまで極端な歴史観ではなかったが、それを次第に歪めて空気を変え、文部省攻撃のキャンペーンなどを通じて歴史教育も自虐史観一色に染めていったのが、朝日新聞を始めとするマスコミだったのだ。
いわば、マスコミは統一協会の共犯者とも言えるのである。
マスコミ報道の中には、統一協会の教義が自虐史観であることを指摘し、なぜ安倍政権は歴史観では全く逆のはずの統一協会を支持していたんでしょうかと皮肉っぽく言っているものもあるが、そう言っている自分たちこそが統一協会の教義に賛同する「共犯者」であることからは、必ず目をそらしている。
未だに一般マスコミは左翼色が強く、自虐史観を見直そうとはしない。そして、自分たちが統一協会の洗脳に最も適した素地を作っているという都合の悪い事実については口をつぐんでおいて統一協会を非難するという、欺瞞を行っているのである。
このままでは、今後も「反日カルト」に簡単に騙される者は跡を絶たない。日本は悪いことしたもんなあ、戦中悪いことばかりやって韓国に迷惑をかけたからなあという刷り込みが残っている限り、統一協会の教義に触れた途端にガッチリ嵌って、あっという間に洗脳されてしまうことになるだろう。
産経新聞や「WiLL」、「Hanada」などの自称保守メディアは、そんな左翼メディアに対するカウンターとして存在しているはずだった。
さすがに「朝日新聞は廃刊しろ」とまで言い出したのはあまりにもヒステリックで、言論の自由を守るという立場からも全く賛成できなかったし、偽史まで使った「日本スゴイ史観」に嵌り込んでしまう危険もあったが、少なくとも自虐史観を否定し、自虐史観論者と戦うという姿勢だけは揺らがないだろうと思っていた。
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ところが自称保守メディアは、極限の自虐史観を教義とする統一協会と癒着した安倍政権を全力で支持していたし、そのことが明るみに出ても一切反省もしないし、安倍を非難することもしない。
むしろ安倍を最大限に称賛し、統一協会を擁護しているのだ。
結局は、保守論壇の奴らもネトウヨも全員、別に自虐史観が嫌いなわけでも何でもなかったわけだ。
ただ安倍晋三が好きなだけで、安倍晋三が洗脳されて自虐史観だったら、自虐史観が大好きになってしまうのだ。
そんな連中が、自分を「保守」だと思っている。
そしていまでは「保守」はみんな、統一協会と「オール自虐史観」の連帯を組んでしまっている有様だ。
一貫して自虐史観とずっと戦い続けているのは、わしだけになっていた。
左を見れば、一応は統一協会を追及する報道をしてはいるけれども、元はといえば統一協会の共犯者。
右を見れば、なんと統一協会と一体化した「統一連合」となってしまっている。
「なぜ統一協会の教義に嵌るのか?」と問われれば、「戦後日本そのものが『統一協会の教義』だからだ!」と答えるしかない。
しかしそう言える保守は、プロではわし以外にはいないようである。(『小林よしのりライジング』2022年9月6日号より一部抜粋・文中敬称略)
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