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A protester against the state funeral of Shinzo Abe holding up a message board with "Oppose the state funeral" = 27 Sep 2022, Tokyo, Japan

日本らしくない光景が目の前に。安倍氏の国葬で見えた「内巻現象」

安倍晋三元首相の国葬が9月27日に行われましたが、世論は反対が圧倒的多数のなか「強行」という形になりました。国葬当日の九段下の様子について、中国出身で日本在住の作家として活動する黄文葦さんが自身のメルマガ『黄文葦の日中楽話』の中で、語っています。

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国葬から見る日本社会の「内巻現象」と政治家のリーダー像

日本社会の分断はますます深刻になっている

9月27日、元首相安倍晋三の国葬の日。当方は午後2時頃、九段下駅に着いた。20年以上日本に住んでいて、初めて、あのような激しい対立場面を目撃した。九段下駅の近くで、見たこともない光景が目に入った。

国葬賛成派と反対派が非常に接近して互いに叫ぶ。両派の間には2列の警察が立ちはだかり、一生懸命に二陣営の人に接触させないように制圧していた。通行人は、警察の間を通り抜けていた。唯一の救いは、激しい争いの中で、多くの花を持っている人たちがただただ静かに歩く…。

直感的に、これは日本らしくない風景だと痛感した。品格の欠けた過激な言動、体の衝突、警察に暴言…いつから日本はこういう風になったのか。民主主義の国では、人々がさまざまな異なる意見を持つことは当然だが、今回の国葬について、対立する激しさは異常だと言わざるを得ない。

周りの人たちでも、SNSの友達でも、国葬について、賛成と反対の意見が分かれている。日本社会の分断がますます顕著になっているに否めない。今回ばかりではなく東京オリンピック・ワクチン接種についても激しく対立していた。たとえ対立していても、侮蔑や憎悪ではなく、お互いに建設的なことを言うべきだ。

以前、多くの外国人が日本に来る前に、日本人が排外ではないか、と心配していた。実は、この数年、日本では、排外ではなく、「排内」の傾向があるとみられる。キャンセルカルチャーみたいなもので、一斉に有名人を糾弾する。このような状況にいつも違和感を覚える。内向きの傾向がますます強くなってくる。

無駄な争い、内部対立に時間を費やすことは中国のネット用語で言えば、「内巻」だという。競争の激しさのあまり、内部までも競争が及び、内部での損失も大きくなり、誰もが力を尽くし、最終的には、何も得られていない状況を指す。日本社会の「内巻現象」も顕著だろう。

日本社会の分断はますます深刻になっている。さらに、分断について、意見も分断している。「分断は悪くない」と主張する学者もいる…どうしようもなくなった。

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追悼の辞から考える日本政治家のリーダー像

国葬では、官房長官として安倍前首相を支えた菅義偉前首相が、友人代表として追悼の辞を読んだ。その中のいくつかのエピソードが多くの人を感動させたという。国葬の中で一番評価された人は前首相の菅義偉だと言っても過言ではない。

国葬に賛成するか反対するかは別として、追悼の辞から見る政治家の友情はクラスメイトレベルのようなものだと感じた。第一次安倍政権の際、「お友達内閣」が出来上がったことを克明に覚えている。親しい人、価値観が一致する人だけ付き合うことは一般人には個人自由だが、政治家なら確かに物足りないと言わざるを得ない。

青木理氏の著書の『安倍三代』の中、一代目と二代目は庶民目線の政治家で、戦時中に反戦を唱えた祖父・寛、その志を継ぎ、リベラル保守の政治家として外相も務めた父・晋太郎。そして、三代目としての安倍元首相は「悲しいまでに凡庸」な人物だと描き出した。

世襲制の功罪・日本政治家のリーダー像について考えさせられた本だと実感した。どんなに人柄がよい人間とはいえ、一国のリーダーとして「いい人」だけでは確かに足りない。

追悼の辞から見る安倍前首相と菅義偉前首相の友情と価値観が確かにピッタリなものだと信じる。ある程度、長期政権の内部構造がはっきり見えてきた。友人同士・価値観一致同士が支えあってきたのだろう。

ただし、政治にも多様性と包容力が必要ではないか。日本の外交においても、価値観を共有する国との親密さも重視しているようだ。価値観の異なる国同士も対等に付き合う必要があり、価値観だけで判断せず、知恵を絞って国同士を和解させる必要がある。なぜなら、現代では人と人との交流が国境を越えて行われるようになっているからだ。例えば、中日両国の政治的関係は、民間の交流に比べればかなり遅れている。

日本の政治家は世襲制でプロフェッショナルすぎて、誰が首相になってもほとんど変わらず、官僚体制はいつも通常通り運転し、現職の首相はどんな時でも原稿を棒読みするだけの象徴のような印象を海外に与えているらしい。経済が停滞している今日、日本には、異なる価値観を持つ人々を見下したり拒絶したりせず、理解し包容していき、リーダーシップと寛容さを持った政治家予備人材が必要だ。

しかし、理解しがたいのは、なぜ優秀な人材が政治家になりたがらないのか、ということだ。 日本中の政治家を見ても、次の総理大臣にふさわしい人はいないようだ。それにしても、社会分断を融和し、日本の未来を切り開く人が必ずいると信じたい。日本がもっとよくなってほしいと祈念するばかりだ。

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image by: YuichiMori / Shutterstock.com

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在日中国人作家。日中の大学でマスコミを専攻し、両国のマスコミに従事。十数年間マスコミの現場を経験した後、2009年から留学生教育に携わる仕事に従事。2015年日本のある学校法人の理事に就任。現在、教育・社会・文化領域の課題を中心に、関連のコラムを執筆中。2000年の来日以降、中国語と日本語の言語で執筆すること及び両国の「真実」を相手国に伝えることを模索している。

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【著者】 黄文葦 【月額】 ¥330/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎月 第1月曜日・第3月曜日(年末年始を除く) 発行予定

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