母親が子どもや夫に抱く罪悪感、「マミーギルト」。これがコロナ禍を機に社会問題化しているようです。在宅の時間が増えることで、母親として妻として家事や育児を完璧にこなさなければならないのになぜ私はできないんだろう…という家庭における「罪悪感」を持つことですが、この「家庭が大事」という思想こそが旧統一教会の教義に通じるものがあると指摘するのは、メルマガ『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』の著者でジャーナリストの伊東森さん。伊東さんは、統一教会の問題がクローズアップされている今こそ女性が「家庭が大事」という呪縛から解放され、この考え方を見直すべきだとして、多くの事例とともに「マミーギルト」の問題点をあげています。
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母親が抱く罪悪感「マミーギルト」コロナ渦で深刻化
コロナ禍の今、私たちは「マミーギルト」という言葉とあらためて向かい合わなければならない。
「家事や育児がきちんとできず、申し訳ない。私はダメな母親だ──。」(1)
母親が、子どもや夫に抱く罪悪感を、英語で「マミーギルト」と呼ぶ。とくに新型コロナウイルス禍における在宅勤務の普及や相次ぐ休園・休校などを背景に、問題となりつつある。
マミーギルトという言葉は英語圏でも。アメリカでは、
「母親は父親に比べ、自分の仕事が家族に与える影響について多くの罪悪感を持つ」(2)
といった調査結果も。
働く女性のキャリアコーチングを行うボーク重子さんは、日本にも「母乳神話」などの言葉があるように、
「米国では以前から一般的に広く知られる概念だ」(3)
と説明する。
マミーギルトは離職理由にもなる。
「仕事を辞めたいと家計相談に来る女性らから『子どもを犠牲にしている』という言葉を呪文のように聞く」
と日本経済新聞の取材に答えたのは、ファイナンシャルプランナーの内藤真弓さん。
内藤さんは、数年前に子どもを持つ女性医師26人に聞き取り調査をした際も、この「呪文」を多く聞いたという。
コロナ禍で深刻化
マミーギルドは、コロナ禍で深刻化する。これまでは、母親たちは保育園や学童保育などを利用し、自ら仕事に集中できる環境を整えてきた。
しかし、それらの利用が制限され、さらにコロナ禍における子どもの健康管理という負荷も加わる。結果、「在宅勤務」と「家庭保育」との両立が生じた。
母親自身の仕事のみならず、子どものオンライン授業のフォローもせねばならない。
今年1月下旬から2月に日経ウーマノミクス・プロジェクトが実施したアンケートで、小学生以下の子どもを持つ女性461人の回答を集計したところ、74%が、
「家事や子育てと仕事を両立するうえで、子どもや夫、周囲に対して罪悪感を感じることがある」
と回答。
さらに罪悪感を感じる人のうち35%がコロナ禍で「罪悪感が深まった」と答えた。
「子どもが話しかけてくるのに、仕事中だと突き放さなければならない」(神奈川県・40代)
「在宅勤務中、子どもに動画ばかり見せてしまう」(東京都・30代)
などの声が寄せられる。
一方、子育て世代向け女性誌「VERY」(光文社)は2021年から22年に4号にわたり、「そんなの、かまへん!」特集を掲載。
「ご飯を作りたくない日は吉野家へ。牛皿買って夕ご飯。そんな夜があったってかまへん!」
「『ママも部屋着で登園』だってかまへん!」
と良き「手抜き」を訴える。
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「専業主婦」という遺物
マミーギルトの問題が深刻化する背景には、日本社会に根強く残る性別役割分担意識の影響も。恵泉女学園大学学長の大日向雅美さんは、日経新聞の取材に対し、
「母親が子育てに専念しないと子どもに悪影響がある、とする50年前の考え方を引きずっている」(4)
と指摘。
専業主婦が”誕生”した大正時代の育児書は「子育ては母親が1人ですべき」と説いた。
さらに、1950年代以降の高度経済成長期、男性が仕事に専念し、女性に育児や介護を託す動きの中で、この考え方が一般家庭にも浸透、家事や育児が女性の”責務”となる。
大日向さんは、
「男女平等の教育を受け平等に仕事をしても、遺物を引きずったまま。この格差が苦しさの原因」(5)
と話す。しかし、現代はそもそも収入が増えにくいなか、子どもの教育など求める生活水準は逆に上昇。
「女性が出産後も正規雇用にとどまり共働きを続けないと、豊かな生活がしづらい」(大和総研の是枝俊悟主任研究員)(6)
という時代になる。だからこそ、「マミーギルト」という罪悪感を手放さなければならない時代がやってきた。ボーク重子さんも、母親に対し、
「まずは1日15分、自分の時間を作ること」(7)
ことからすすめる。
「家庭が大事」という、統一教会の呪縛を解き放て
そもそも、安倍晋三元首相の銃撃事件が起きた今こそ、日本において「家庭が大事」と主張し続けた勢力こそが、旧統一教会であったという現実を、私たちは直視しなければならない。
自民党が制定を目指した「家庭教育支援法案」は、伝統的な家族観を重視してきた安倍元首相らの肝いりの政策であり、さらに保守系団体や旧統一教会の関連団体が後押しをしてきた。
「今こそ家族を守れ」「『家庭教育支援条例・基本法』で絆を取り戻せ」(8)
教会の関連団体「国際勝共連合」の月刊誌「世界思想」の2018年2月号に、こう特集が組まれている。記事では、家庭について、
「人間の心に腹の底からの幸せ感を体験させることができるようにする『愛の学校』なのだ」(9)
とし、家庭教育支援の重要性を説く。
このような、長年の教会の”教え”が効いているのだろうか。日本は世界的に見ても少子化対策にかける資金が乏しい。要は子育て支援が、極端に”家庭任せ”となっている。
社会保障関係支出のうち、日本の子育て支援などに使われる「家族関係社会支出」の国内総生産(GDP)に対する割合は、OECD(経済開発協力機構)加盟国でのトップクラスの国からすると半分以下のレベルだ。
ソース:
(1)日本経済新聞朝刊、2022年2月21日
(2)日本経済新聞、2022年2月21日
(3)日本経済新聞、2022年2月21日
(4) 日本経済新聞、2022年2月21日
(5)日本経済新聞、2022年2月21日
(6)日本経済新聞、2022年2月21日
(7)日本経済新聞、2022年2月21日
(8)太田理英子「安倍元首相と旧統一教会系が共鳴した『家庭教育支援法案』の危うさ 地方でも推進し10県6市では条例化」東京新聞 2022年9月3日
(9)太田理英子、2022年9月3日
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