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障壁は「昭和おじさん」か。男性と非正規の育休取得率が低いワケ

この10月に義務化された「産後パパ育休」。今回の改正で、男性の育休取得状況は改善されるのでしょうか。メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』著者で健康社会学者の河合薫さんは、2021年度の取得率が14%弱で、取得したとしても半数以上が1週間以内と低水準になっているのは、“昭和おじさん”が作る職場環境のせいと指摘。制度そのものは欧米諸国と比較しても手厚いにも関わらず、それが上手く機能しないところに問題があると、この国の未来を案じています。

プロフィール河合薫かわい・かおる
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

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日本が変わらない原因は「昭和おじさん」この国はどこへ向かうのか?

子どもが生まれた直後の男性向け「産後パパ育休」制度が、スタートしました。これまでどおり連続して育休が取得できる「育児休業」に加え、「産後パパ育休」では分割での取得が可能です。働き方に合わせ柔軟に取得できるようにするのが狙いだとか。

最近は、赤ちゃんを抱っこして電車に乗っている男性の姿も珍しくなくなりましたが、男性の育休取得率は13.97%で(2021年度)、女性の85.1%と比べ極めて低い状況が続いています。しかも、取得期間も「1週間」が半数以上。育児休暇というより、社会科見学というか、育児合宿レベルの少なさです。

その背景にあるのが、「昭和おじさん」です。厚生労働省の調査によると、取得しようとして上司などから嫌がらせを受けた男性は4人に1人もいるとのこと。「育児休暇?いいな~休んで遊べて」などと嫌味を言われたり、「取るのは勝手だけど、わかってるよな?」とその後の処遇を匂わせたり、「いなくなっても誰も困らないから、別にいいじゃんね」などと存在を否定されたり。

「んなことやってるから、日本は変わらないんだよ!」と突っ込みたくなるような“昭和の化石上司”が壁になっているのです。

今から10年ほど前の2013年。作家の曽野綾子さんが「出産したら女性は会社をお辞めなさい」と発言し、大炎上したことを覚えているでしょうか。

「彼女たちは会社に産休制度を要求なさる。しかし、あれは会社にしてみれば、本当に迷惑千万な制度。辞めてしまって、ずっといなくなるなら新しい人材を補填すれば済むけれど、そういうわけにもいかない。結局、産休で抜けた人の仕事を職場のみんなでやりくりしてカバーする。そういう制度を利用する女性は自分本位で、自分の行動がどれほど他者に迷惑をかけているか気付かない人」

…こう一刀両断したのです。当時は、講演会にいくと、雑談の中でよく出ました。この話題。で、「大きな声では言えないけど、正論ですよね」と、こっそりと話す“上の世代の男性”が意外と多く、驚かされました。

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あの頃から比べれば、子育てへの理解は進みました。しかし、男性の4人に1人が、“昭和の化石上司”の壁に涙しているという現実を鑑みると、日本社会に根付く「性役割」の闇の深さを感じずにはいられません。しかも、非正規で働く人たちが4割もいるのに、男性はおろか、いまだに女性でも育児休暇を取れない現実もあります。

雇用形態別に女性の育児休暇取得率をみると、正規雇用の場合8割を超えますが、非正規の育休取得率は、わずか28.8%です。しかも、この数字には「出産で離職した女性」は含まれていません。以前、私が20代~30代の非正規雇用の人たちを中心にインタビューした際、「産休を申し出たら、そんなものないと言われ、仕方なくやめた」と話す人が多いことにショックを受けました。

実際には、非正規雇用でも取得可能なケースがあるし、妊娠・出産を理由とする解雇・雇止めも男女雇用機会均等法で禁止されているにも関わらず、拒否するのです。

なぜ、この国の人たちは、「子供を産み、育てる」という尊い作業を、みなでやろう!サポートしよう!と協力しないのか。なぜ、いつまでも「24時間働けますか?」「はい!」と即答する人しか「会社員」として認めないのか。

日本の育児休暇制度は、先進国の中でも「優しい制度」です。あまり知られていませんけど、かなり働く女性に寄り添うように制度設計されているのです。例えば、日本の育児休暇は、子供が1歳になるまで休業でき(必要と認められる一定の場合最長2歳)、賃金は雇用保険から従前賃金の40%の給付がある。

一方、ドイツやフランスでは、3歳に達するまでの最長3年間の休業が可能ですが無給(所得制限などの要件を満たせば養育手当などの給付を受けられる)。英国では、産前産後も含めて52週間の休業を取ることができ、5歳に達するまで両親合わせて13週間の休業可能で、無給。

スウェーデンでは、子供が8歳に達するまで、両親合わせて最長480日間の休業が可能で、360日の従前賃金80%が保障され、残りは決められた額が支給。米国では育児休暇はなく、Family Leaveという、家族に何かがあった時に取ることのできる休暇の権利があり、子供が1歳に達するまでに12週間の休業の取得が可能。基本的には無給ですが、州の失業保険が給付される。…といった具合です。

ただし、他の先進国は日本と異なり、「空いた穴」を埋める人員をきちんと整備したり仕組みがある。また、欧州では基本的に有期雇用が禁止されているので、すべての人が公平に取れます。

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それだけではありません。多くの国では、「国のあり方の長期的なビジョン」が国民と共有されているのです。出産・育児、教育、老後など、それぞれのライフステージによって、国民のすべてが豊かになるための政策を進めてきた歴史がある、そのうちの1つが、育児休暇です。

つまり、豊かさはみんなで共有するもの、公平であるべきもの、という考えが浸透しているので、育休を拒否したり、取りづらい空気になったりすることがない。「すべての人の人権を尊重する」という当たり前が、根付いているのです。

日本でも、誰もが「子供は宝」といいます。子供は未来だと。なのに、その“宝“を産み、育てる機会を奪う人たちがあとを絶たない現実。超高齢社会なのに、社会のスタンダードが「バリバリ元気に働ける人」という不条理。

いったいこの国は、どこに向かっているのでしょうか。みなさまは、この問題についてどのようにお考えでしょうか?是非ともご意見、お聞かせください。

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image by: Shutterstock.com

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米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
「自信はあるが、外からはどう見られているのか?」「自分の価値を上げたい」「心も体もコントロールしたい」「自己分析したい」「ニューストッピクスに反応できるスキルが欲しい」「とにかくモテたい」という方の参考になればと考えています。

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