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小栗旬が黒幕?『鎌倉殿の13人』で描かれなかった実朝暗殺の真実

三谷幸喜氏の脚本と俳優陣の個性あふれる演技の相乗効果で、大好評のままに最終回を迎えた大河ドラマ『鎌倉殿の13人』。遡ること43年、同時代を扱った『草燃える』に若き日の三谷氏が感銘を受けたことは、番組HPでも語られています。そんな2作品を取り上げているのは、時代小説の名手として知られる作家の早見俊さん。早見さんは『歴史時代作家 早見俊の無料メルマガ」』で今回、両作で描かれ方が異なった「実朝暗殺」を徹底解説しています。

北条義時の思い出

北条義時、今年のNHK大河ドラマの主人公でしたね。『鎌倉殿の13人』は源平合戦、鎌倉幕府成立を北条義時の成長と共に描いていました。伊豆の小豪族の息子、純情青年が日本最初の武家政権を主宰し、朝廷と戦って三人の上皇と二人の親王を配流、時の天皇を廃位にするという日本史上前例のない承久の乱に勝利しました。

若き日の義時が純情で誠実な青年であったというのがミソですね。そんな若者が陰謀、謀略渦巻く魔都、鎌倉の勝利者となってゆく、つまり、権力の権化となってしまう有様を視聴者は楽しむわけです。演じた小栗旬さんの素晴らしい演技に魅せられました。父時政を追放するあたりから笑顔がなくなり、陰鬱な表情で斜に構える姿が印象的でした。

筆者が高校生の頃、永井路子原作の、NHK大河ドラマ、『草燃える』が放映されていました。岩下志麻さん演じる北条政子が主人公で源頼朝を石坂浩二さんが演じ、北条義時は松平健さんでした。松平健さんの義時も若き日は純情爽やか青年で女性ファンに好評でした。

日本史の授業で鎌倉幕府成立を学んだ際、義時が権力抗争に勝ち抜いてゆく過程を知りショックを受ける女子生徒がいました。あんな好青年が権力の権化になってしまうのか、と信じられない様子であったのが記憶に残っています。三代将軍実朝暗殺の描き方は、『鎌倉殿の13人』と、『草燃える』では異なりました。永井路子は実朝暗殺の黒幕を三浦義村と考え、公暁に実朝と共に義時を殺させようとした、と考えました。

ドラマでも永井説に則り三浦義村の謀略を描き、義時は義村の企てを察知して仮病を使って太刀持ちを源仲章に代わってもらい難を逃れます。鶴ケ岡八幡宮の石段を上る実朝一行を見守る藤岡弘さん演じる三浦義村の前に義時が現れます。驚きの表情を浮かべる藤岡弘さんの義村に向かってニタリと笑いながら体調不良で太刀持ちを代わってもらったと語りかける松平健さんの義時、この時の笑みが忘れられません。おまえの陰謀はお見通しだ、さあどうする、おれと勝負するか、というふてぶてしさに満ち、若き日の義時とは別人でした。

史書、「吾妻鏡」では義時が仮病を使って難を逃れたのを想像させる記述になっています。このことから、永井説以前は義時黒幕説が有力でした。日本史の授業でも先生は義時が実朝暗殺を企てたのだろうとおっしゃっていました。女子生徒のショックは大きくなりましたね。

『草燃える』から年月が経ち、実朝暗殺事件の研究が進み、源仲章に着目されました。実朝の和歌の指南役であり、後鳥羽上皇が実朝を取り込む為に鎌倉に送り込んだ男であると判明します。実朝は頼朝に勝る官位を授けられ、和歌を通じて後鳥羽上皇に心酔、鎌倉の武士団から浮いた存在となっていました。

せっかく、朝廷、都の頸木から解き放たれた関東の武士団にとって実朝の後鳥羽上皇への傾倒は裏切り行為でした。そこで義時は仲章もろとも実朝を葬り去った、と従来の義時黒幕説を補強する学説が提示されました。非常に説得力があると思ったものです。

『草燃える』も『鎌倉殿の13人』もあくまでドラマ、史実ではありません。史実を踏まえながら、あるいは史実をネタに面白いドラマを描く三谷幸喜氏の手腕は凄いですね。

ドラマが完結し、筆者の脳裏には高校時代が浮かびました。

純情青年義時が権力の亡者になってゆく姿のショックを受けた女子生徒の姿がまざまざと蘇りました。

image by: CAPTAINHOOK / Shutterstock.com

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【著者】 早見俊 【発行周期】 週刊

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