「ルフィ」を名乗る人物によって引き起こされた数々の強盗事件は、犯罪の凶悪化を意識させられ、日本中を震撼させました。特殊詐欺の犯罪グループが指示役との報道への当初の違和感が、指示役たちの居場所を知ることで解消したと語るのは、特殊詐欺に詳しいジャーナリストの多田文明さんです。今回のメルマガ『詐欺・悪質商法ジャーナリスト・多田文明が見てきた、口外禁止の「騙し、騙されの世界」』では、特殊詐欺が手間のかかる犯罪であることを解説。強盗に変化したのは犯人側の事情ではあったものの、今後も模倣犯を警戒すべきで、警察も国をまたいだ犯罪への対応がますます必要になると訴えています。
この記事の著者・多田文明さんのメルマガ
ルフィ強盗グループ指示役4人強制送還。なぜ彼らは詐欺から強盗に転じたのか?
2022年の特殊詐欺の被害額は8年ぶりに増加傾向へ転じました。いまだ詐欺の被害は深刻です。この事実からも明らかなように「詐欺が社会的に難しくなったから、犯罪組織が、強盗に転じた訳ではない」ことがわかります。
ある意味、詐欺は順調に推移しています。組織的犯行グループは効率的にお金をとることを考えますので、わざわざうまく行っている詐欺から強盗に変える必要はないからです。
最初に特殊詐欺から派生したと思われる、強盗事件を耳にした時に「なぜ、今?」という違和感がぬぐえませんでした。では、どうして詐欺から強盗に手口を移したのでしょうか。
週刊文春から、国内への強盗の指示がフィリピンの収容所からなされているということが最初に伝えられて、とても納得しました。今回の強盗は、全体的、社会的事情による手口の変容ではなく、あくまでも組織的犯罪グループの指示役側の事情によるものだったことがみえてきたからです。
電話での詐欺は、指示役の側での手間がかかる。ようやく指示役4人が強制送還されるが…今後の課題も露呈した形になった
電話で詐欺を行う場合には、電話をかける人(かけ子)や名簿を多く集めて、指示役の側で手間をかけて下準備をしてから、詐欺を行います。そうしたことが、自分たち指示役が収容所に入ることで、できなくなったから手口を変えたとみています。
強盗自体は2020年頃から出始めたといいますが、その背景とも一致しています。19年フィリピンで渡邉容疑者らが指示役として運営していた詐欺組織のメンバー36人が摘発されました。そして収容所に入りました。前回のメルマガでもお伝えしたように、収容所からも、詐欺の電話はかけられたといいます。
収容所では、Sという人物を中心に特殊詐欺の電話がかけられていたようですが、20年には徐々に詐欺犯らは強制送還されて、逮捕されていきます。
しかも、コロナ禍で日本から、かけ子を呼び寄せづらくなり、特殊詐欺自体がしづらい状況となります。その結果、指示役は悪知恵を回して、犯行と人集めの指示だけをスマホですればいいという形で、国内で強盗事件が頻発したと考えています。
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今後も、何かしらの理由で、詐欺ではなく、強盗を行うグループも出てくるとも限りませんし、グループの犯行にみせかけた模倣犯も出てくる恐れもあります。今後も、窓に防犯フィルムを張る。警報音が鳴るなどの対策が必要です。
今回は、何より、フィリピン政府の迅速な対応により、強盗グループの指示役とみられる4人が強制送還されて逮捕となりました。ただ、残念でならないのは、21年の春に渡邉容疑者らが逮捕されて、入管施設に拘束されており、それから一年半以上の長きにわたってスマホを自由に持てた環境だったために、国内では強盗事件が多発したことです。
警察はどうしても、組織的犯罪などの犯人が海外にいると「捜査は難しい」と言って、それで終わりにしてしまいがちです。実際に国際ロマンス詐欺の被害者からもその話を聞いています。しかし詐欺を行う者こそ、どんな悪事を考え出すかわかりませんので、一刻も早く、国内に連れてきて逮捕しなければなりません。
国境を越えた詐欺を、多くの犯罪組織がしているなかで、従来のような姿勢では、今後も同種の被害が増え続ける懸念もあります。ぜひとも、犯罪における海外政府(特に東南アジアや中国)との連携を強めてほしいと思っています。
(メルマガ『詐欺・悪質商法ジャーナリスト・多田文明が見てきた、口外禁止の「騙し、騙されの世界」』2023年2月14日号より一部抜粋)
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