試用期間を延長された挙げ句に、会社から解雇された…これは法的には問題ないのでしょうか? 今回の無料メルマガ『「黒い会社を白くする!」ゼッピン労務管理』では、著者で特定社会保険労務士の小林一石さんが過去の判例をもとに試用期間延長の際のポイントについて語っています。
試用期間の延長、規定が無くても同意があれば認められるのか
その「同意」は本当の「同意」なのか。
例えば、ネットでいろいろなサービスを利用しているとよく出てくるのが「〇〇に同意します」にチェックをする画面です。
この画面がでたら本当に同意しているかはほとんど関係がありません。
仮にチェックをしなければそれ以上はそのサービスを使うことができないわけで、使うのを止めるか、なかば強制的に「同意」をさせられるわけです。
これははたして本当の同意と言えるのか?
この「同意」は労務管理においても、たびたびトラブルになります。
それについて裁判があります。
ある会社で、試用期間を延長されたあげくその延長期間中に解雇されたとして、社員が会社を訴えました。
延長自体が違法なわけではありませんが、実はその会社の就業規則にはそもそも試用期間延長の規定がありませんでした。
そこで会社は延長通知書を発行し、その社員から同意をとって(署名、押印ももらって)試用期間を延長していたのです。
では、その裁判はどうなったか?
試用期間の延長については、裁判所は、「規定が無くても、同意があればできる」と、判断しました。
ただし、結論としては、会社が負けました。
その理由は以下の通りです。
・試用期間を延長することは、社員を不安定な地位に置くことになるから(就業規則等の)根拠が必要となるが、同意も根拠に当たると言えるため、社員の同意を得た上で試用期間を延長することは許される
・(試用期間の延長は)社員の利益のために、職務能力や適格性を見極める必要がある場合等のやむを得ない事情があるときのみ、社員の同意をとって認められる
・やむを得ない事情等が認められない場合は、社員の同意をとっていても延長は無効になると解すべきである
・会社は、面談を実施するなどして職務能力や適格性を見極める取組みをしたと認めるに足りる証拠は無い。よってこの試用期間の延長は無効である。
・よってこれは普通解雇となり、解雇にあたる事由も無いため、解雇権を濫用したものとして無効である
いかがでしょうか?
実はこの試用期間の延長については私もよくご相談をいただきます。
延長自体に反対するわけではもちろんありませんが、適性等の何らかの問題があって延長をするわけなので、延長後に本採用へスムーズにいかないケースも想定されます。
そうなると延長期間の対応は相当慎重に行う必要があるでしょう。
実務的にはポイントは以下の3点です。
まず、「試用期間を延長する可能性がある」と規定を作ることです。
今回の裁判では「規定が無くても同意があればOK」とされましたが、必ず同意がとれるとは限りません。
事前に就業規則や雇用契約書に入れられるのであれば間違い無く入れておいたほうが良いでしょう。
次が、試用期間に行うべきことの確認です。
試用期間中にすべきことは職務能力や適格性の見極めと、もしそれを満たさなかった場合の改善を促す働きかけや育成です。
もちろんみなさんの会社でもほとんどの会社でそれらを行っているとは思いまが、
どこまで「確実に」「具体的に」行っているでしょうか。
また、万が一の際には、客観的にそれらを証明できる面談記録などを残しておくことも重要です。
最後が、「それでも、(試用期間の社員が)いけてなかった…」場合の対応です。
その場合に退職勧奨することを全否定ではありませんが、当然ながらリスクはあります。
会社によっては試用期間を延長するどころか、試用期間中に退職勧奨に切り替えているような会社もあったりしますが、相当リスクは高いと言わざるを得ません。
確かに、試用期間の主旨は「見極める」期間ではあります。
ただ、そうなると「いけてない=退職勧奨(解雇)」と成りがちです。
ちょっと見方を変えて「見極めと育成」の期間と捉えてみてはいかがでしょうか。
#試用期間は慎重に
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