昨年末にローンチされた「ChatGPT」はすぐさま注目を集め、全世界で多くのユーザー数を獲得しています。しかし、その凄さの裏にある闇と限界について、メルマガ『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』の著者であるジャーナリストの伊東森さんが明かしています。
ChatGPTの凄さと限界 ChatGPTを支えるマンパワーの闇 問われる人間側の学習
米企業OpenAIが開発した「ChatGPT」という対話型AIが注目を集めている。ローンチからわずか2カ月後の今年1月に、月間のアクティブユーザー数が1億人に達す。
史上最速の消費者向けインターネットアプリケーションとなった(*1)。
ChatGPTは人間がコンピューター上で入力した自然言語を理解し、それに応じた回答ができる。
ChatGPTのモデルは、人間と対話しているような自然な文章が生成されるよう訓練されており、その精度の高さから注目を集め、爆発的にユーザー数が広がった。
ChatGPTは、全世界でユーザー数を獲得するのに、ローンチからわずか5日しかかからなかった。
この数は、iPhone(74日)、Instagram(75日)、Spotify(150日)、YouTube(260日)、Facebook(310日)と比べても圧倒的な早さだ。
GoogleやMicrosoftなど、他のIT企業も追随する。Googleは、2月6日に「Bard」という独自のAIチャットボットを発表。CEOであるサンダー・ピチャイ氏は、
「Bardは、世界の幅広い知識と大規模言語モデルの能力・知性・創造性を組み合わせることを目指している」(*2)
とTwitter上でツイート。
Microsoftも、ChatGPTを支える技術を搭載した検索エンジン「Bing」の新しいバージョンを発表する。
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ChatGPTの凄さと限界
ChatGPTの凄さは、その並外れた言語処理能力だ。政治、経済、文化、歴史をはじめ、あらゆる分野に対し、おおむね適切で筋の通った回答を返してくれる。
また、ユーザーのリクエストに対し、小論文や小説、脚本を書いたり、作詞・作曲、短歌や俳句、コンピューターのプログラミングやデバッグ(誤りを訂正)したり、数学や物理の問題を解くことが可能(*3)。
一方、その限界もみせる。
「ChatGPTは、一見きちんとしたプログラムを書くようだが、実際には「雰囲気でプログラミングのようなものを見せている」だけで、文字通り全く創造性がない。」(*4)
「ChatGPTは、一見するともっともらしい答えを返せるように、うまく調整されている。」(*5)
ただChatGPTがもたらしたインパクトは大きい。Googleでは、ChatGPTの登場により、社内に「警戒警報」が出されたという(*6)。
検索エンジンに連動した広告ビジネスは、Googleの大きな収入源となっている。こうした状況を打破すべく、Microsoftは、ChatGPTの技術を同社の検索エンジンであるBingに搭載した。
ChatGPTを支えるマンパワーの闇
AIといえども、多くの人力による“マンパワー”で成り立つ。アメリカの「タイム」誌はChtaGPTの“闇“を暴き、大きな話題に。
ChatGPTの生みの親であるOpenAIが、そのパートナ企業を通じ、時給2ドル以下でケニア人労働者を雇っていたことが分かった。
OpenAIが外注先として依頼していたのは、米サンフランシスコのサマ社。この会社は、ケニアやウガンダ、インドなどの人材を雇い、Googleやメタ、Microsoftなどの顧客向けに有害なネット情報を選別し、取り除く
「データのラベリング作業」
というものを実施していたという。
とくにケニア人の労働者たちは、データのラベリング作業の過程において、処刑や性的虐待など極めて暴力的なコンテンツを閲覧し続けることを強いられた。そのなかには、かなりの精神的な傷を負った者もいたという。
なぜ、このような作業が必要だったのだろうか。ChatGPTの前身となる自然言語処理モデルの「GPT-3」は大きな問題を抱えていた。
インターネット上の数十億ものページから収集されたデータをもとにシステムが構築されていたため、GPT-3はしばし差別的で暴力的な文章を生成してしまう。
そのため、OpenAIはChatGPTを立ち上げるにあたり、あらかじめデータから有害だと思われる表現をすべて取りのぞくことを必要としていた。その作業に当たった人たちは、
「あれは拷問でした」
と語る。
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問われる人間側の進化 問われる人間側の“学習” 問われる「低学歴国家」日本
AI全盛の時代において、むしろ我々人間側の“進化”が問われている。機械学習という概念がある。AIの一分野であり、コンピューターがデータから学習をし、問題解決を目指す技術や手法のこと。
機械学習はAIを実現するための一つの手法である。つまりAIの進化に私たちが抗うことができる唯一の方法は、私たちに人間の学習だ。
ところが、驚くべきことに、日本の大学進学率は世界と比べても低い。日本の大学進学率は54.4%、短大を含めると64.1%。この値は韓国では95%にもなる。アメリカでも88.3%の高さだ。
基本的に諸外国では高等教育は無償の場合がほとんどで、さらに奨学金であっても、返済の必要性はない。つまり、“日本だけ”大学も出ていないバカが溢れている状況だ。
大学教育の重要性は人間力を高めることだけでなく、それはすなわち、この社会の“強さ”を高めることにつながる。さらに問題解決能力とクリティカル(批判的思考)を養うことで、インフォディック禍の中でのデマやフェイクニュースに抗うことができる。
思えば、日本は“論破”が得意な“自称”インフルエンサーのひろゆきや、高齢者差別発言が炎上した成田悠輔など“おバカな”「自称」言論人がやたらもてはやされる。これも低学歴国家の成れの果てだ。
■引用・参考文献
(*1)「チャットGPT、ユーザー数の伸びが史上最速=UBSアナリスト」REUTER 2023年2月2日
(*2)中島由弘「ChatGPT対抗サービスが続々リリース──マイクロソフトとグーグルも追従 ほか」INTERNET watch 2023年2月13日
(*3)小林雅一「“宿題を解くAI””が現実に登場『ChatGPT』凄い中身」東洋経済ONLINE 2023年1月6日
(*4)清水涼「チャットできるAI、ChatGPTが『そこまですごくない』理由。見えてしまった限界」BUSINESS INSIDER 2022年12月8日
(*5)清水涼 2022年12月8日
(*6)森田宗一郎「『ChatGPT』の爆発的な人気が招く懸念と大競争」東洋経済ONLINE 2023年2月5日
(『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』2023年3月4日号より一部抜粋・文中一部敬称略)
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