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Asian family are going out of the house , Parents and children were walking hand in hand together a happy in garden.

AIには真似できない、日本人が今こそ身につけるべき立ち振るまい

私達は日々当たり前のように「歩行」していますが、歩き方を学校などで習ったことはありません。果たして正しい歩き方を身に着けているでしょうか。メルマガ『j-fashion journal』の著者でファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんは、日本人が今こそ身につけておくべき所作について語っています。

武士の素(もと)

1.日常以上武道未満の武士の素(もと)

私は中学校、高校と剣道を続けていました。その後は仕事が面白くなり、剣道からは離れていました。それから運動らしい運動はしていません。還暦を過ぎた頃から、身体が固まってきて、「このまま放置したら、最後は身体が固まって死んでしまうのではないか」という恐怖にとらわれ、「何か運動をしなくては」と思いました。

と言っても、剣道を再開する体力はありせん。そこで出会ったのが「杖道(じょうどう)」でした。杖道とは、古武道に近い型武道(かたぶどう)で、樫の杖で真剣を制圧するというものです。

剣道同様に剣道着と袴を着用しますが、防具は付けません。裸足でもいいのですが、滑りを良くするために足袋を履くことが多いようです。運動量もそれほど多くはなく、型を演じるので腕力は必要ありません。そういう意味では、女性や高齢者にも適しています。

剣道は防具を付けて、互いに有効部位を竹刀で打突する競技です。剣道にも型はありますが、昇段審査の時に行う程度であり、圧倒的にスポーツに近い競技が主です。

相手より早く打つことで勝負が決まるので、瞬発力とスピードが重要です。剣道の構えは、いつでも瞬時に動けるように重心は高く、爪先立ちに近い姿勢で立っています。

剣道は竹刀で素早く打つので、小手や面を打つ時は、手首のスナップを効かせて最小の動きで強く打てるように練習します。あくまで竹刀競技の動きです。

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杖道は白樫の木刀と杖を使いますが、木刀は真剣の代わりですので、真剣で斬るように木刀を振ります。剣道のように早く打っても、人は切れません。包丁で肉を切る時も、押しながら切る、あるいは引きながら切ります。刀も同様に、押し切りと引き切りがあります。

長い包丁で巨大な肉を切ろうとすれば、重心を低くしっかりと地面を踏みしめて立ち、包丁を振り上げて包丁の重さを利用して切り下ろすことになります。

しかし、立ち会いの場合、ゆっくりと動いていたのでは相手に斬られます。真剣は薄い鉄ですから、空気抵抗が少なく竹刀よりも早く振れますが、重いので、途中で動きを止めることは困難です。

ですから、チャンバラのように刀と刀で何度も打ち合うことは少なく、一太刀、二太刀で勝負は決したと思います。

さて、もう一つ重要なことは、江戸時代はほとんど真剣で切り合うことはなかったという事実です。武士は刀を腰に差していますが、それを抜くことは禁じられていました。市中で刀を抜けば、厳しい罰則が待っていました。

刀を持ち、刀の使い方や人殺しの技術を磨きながら、それを使わないのが江戸時代の武士でした。ですから、町人や農民も剣術の道場に通い、身体を鍛え、精神性を鍛えていたのです。

武士が暗殺者やテロリストで、武道が人殺しの技術ならば、武士も武道も世の中から抹殺した方が良いでしょう。しかし、いざという時の防衛力を持ちながら、自分から相手を攻撃することはないという専守防衛ならば、それは現代にも役に立つと思います。

国単位で兵器を装備することも重要ですが、個人単位でも、脅迫や暴力で支配されないような強さを持つことは重要だと思います。あるいは、買収されたり、違法行為を行うことのないような精神的強さも必要です。

現代人も武士の作法、心得、所作を身につけることは有効かもしれません。何よりも、古来から続く日本人として、一本芯が通ります。

例えば、立ち方や座り方、歩き方といった日常の動作の中にも、武士は常に他者からの攻撃に備えていました。立つことも構えです。直ぐに身体が動くように立つ。そして周囲に目を配る。そうした日常以上武道未満の要素が武士の素(もと)だと思います。

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2.日本人はきちんと歩けているか?

日本に洋装が普及した頃、日本人の女性はきものをベースにした歩き方をしていました。内股で歩幅の小さな歩き方です。文化服装学院の図書館にある昔の「装苑」には、洋式の歩き方という特集がありました。大股で蹴り上げるように歩きましょう、というような説明だったと記憶しています。

洋式の歩き方は、骨盤で歩きます。できるだけ大股で歩くには、股関節だけの運動ではなく、骨盤も回転させます。右足を踏み出す時には、骨盤の回転運動と股関節の運動が加わるので、大股で歩けるわけです。

後ろ足を蹴ることで前に進み、着地するときには踵から地面につきます。蹴ってから踵がつくまでの間は、脚は伸びた状態になります。

上半身は左手が前に出ますが、これも肩から動くので、左肩が前に出ます。前に腕を振る時も、後ろに腕を振る時も、腕は身体の内側に振られます。

背筋が伸びた状態で、一歩ごとに上半身と下半身が捻じれ、まさに全身運動としての歩行ということになります。

洋式の歩き方に対して、和式の歩き方もあります。

まず、立った時に、洋式では背筋も膝も伸ばして立ちます。和式では膝を軽く曲げ、腰をやや落とし、上半身を垂直に保ちます。そして基本的に摺り足で歩きます。摺り足とは、常に踵と爪先が地面に接しているということです。室内では完全に摺り足で、屋外では摺り足気味に歩きます。

屋外で歩く時には、草履の裏を見せないように歩き、前足は爪先からつきます。

立った姿勢では、足は前を向き、適度な間隔を保ちます。そして、滑るように片足を摺り足で前に踏み出し、その脚の膝を曲げて、上体をその膝の上に移動します。そして、後ろに残った足の踵を地面に付けたまま、前に出した足に追いつかせます。

歩行中は上体を動かさず、両手は腿の上に置き、手を振ることはありません。上半身と下半身の捻じれもなく、最低限の運動だけで歩きます。歩行中に膝を伸ばすこともありません。

このように見ていくと、現代の日本人の歩き方は、和洋折衷であることが分かります。洋式の歩行のように、骨盤を回転させながらダイナミックに歩くこともなく、上半身と下半身が捻じれることもありません。腕の振りも前方だけが大きく、歩幅も小さく、膝が曲がったまま歩いている人も少なくありません。

一方で、きものを着ている時も和式の歩行を理解していないので、着崩れを起こしたり、草履の裏を見せて歩いても平気なのです。

我々は学校で歩き方を教わったこともありません。歩き方がどうでも、勉強や仕事にも関係ありません。しかし、歩行の方法とは、服や履物の文化に基づく所作なのです。

一度、自分の歩き方をチェックし、洋式と和式の歩き方を身につける日本の文化として見直して見るのも悪くないでしょう。

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3.立って座って礼をする

WBCでは、日本人選手が整列してお辞儀をする姿が礼儀正しいと報道されていました。しかし、私たちはお辞儀をすることは教えられましたが、どんな姿勢が正しいのかまでは教わっていません。一口に「お辞儀」といっても首を曲げるだけの人もいれば、背中を丸める人もいます。上半身は曲げずに、腰を使って美しいお辞儀をする人は滅多に見ることはありません。

歩き方にも洋式と和式があるという話をしましたが、実は立ち方にも洋式と和式があります。

洋式の起立は、軍隊のような「気をつけ」の姿勢です。踵を付け、脚を伸ばし、お尻を引き締め、腰を前に出し、胸を張り、顎を引き、身体全体に力を入れて棒のように真っ直ぐに立ちます。両手は体側につけ伸ばし、指も真っ直ぐに揃えます。

和式の立ち方は、意識的に身体を伸ばそうとせず、股関節と膝を軽く曲げ、やや腰を落とした姿勢です。日本人にとっては、これが自然で楽な姿勢です。力を入れずに上半身は真っ直ぐに伸びます。腰の緊張を解き、腰に負担の掛からない姿勢となります。

次に座り方と立ち方について説明します。立った姿勢からする場合、あるいは、座った姿勢から立つ場合、どちらも途中に「跪座(きざ)」という姿勢が入ります。

跪座は、両膝をつき、足を爪先立てて、腰をおろした姿勢です。正座から立ち上がる時には、右足から立ち上がります。これは武士が刀を抜く時の動作が基本になっており、男性の基本動作です。

腰を浮かせて、右足の爪先を立て、次に左足の爪先を立てて、跪座の姿勢を作り、右足を踏み出し、左膝だけが下につく片膝の姿勢となり、そのまま腰を浮かせ、左足を引き寄せながら立ち上がります。その間、手は腿の上に置かれたままで、上半身は真っ直ぐ姿勢を保ちます。

「よっこいしょ」と勢いを付けて立ち上がるのではなく、前後左右に身体を揺らすこともなく、静かにすっと立ち上がるのが理想です。

立った姿勢から座る時には、左足から座ります。男性は左足を半歩引き(女性は足を半歩出し)、静かに上体を沈め、左膝が下についたら、その膝を前に進めながら、右膝を下に付け、跪座の姿勢になります。(この間、爪先は常に立っています)そして、片足ずつ寝かせて正座になります。

立つ動作、座る動作は股関節、膝、足首、中足の関節だけを使い、腰は使いません。

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次はお辞儀です。お辞儀には立ったまま行う立礼(りつれい)と座って行う座礼(ざれい)があります。

立礼は「浅い礼」と「普通の礼」、「深い礼」があります。剣道で「互いに礼」という場合は「浅い礼」です。上半身は伸ばしたままで、背中を丸めずに、腰から約15度で身体を折ります。この角度なら、上目づかいに相手を確認することができるので、もし、突然切りかかられても対応できるということです。

「普通の礼」は約30度の角度で礼をします。剣道で立った姿勢で「神前に礼」「正面に礼」という場合は「普通の礼」をします。視線は自然に下げます。

「深い礼」は、約60度でお辞儀します。お客様をお見送りする場合などに使われる深々としたお辞儀であり、武道ではあまり使われません。

次に座礼について説明します。小笠原流の座礼は「九品礼(くほんれい)」といって、9種類の礼があるとされています。剣道などで使われる座礼は、その中でも最も深い合手礼(ごうしゅれい)と呼ばれる最敬礼です。

座礼は、正座の姿勢から、背筋を伸ばしたまま、上体を前傾させていきます。このときに、使うのは股関節だけです。頭は真っ直ぐに上体に乗せたままで、首を曲げたり顎を上げたりしません。

上体を折りながら、腿の上の手は自然に前に押し出され、膝の横に添って、膝の前で両手の人指し指の先が接し、正三角形を形成します。両手はぺったりと床に付けるのではなく、手のひらに自然な丸みを持たせます。

屈体しきった時には、胸は自然と両腿につき、頭は顔面が床と水平になるように保ち、床から5センチくらい離します。また、腕は手から肘までが床につくようにします。両脇は軽く締めて、両肘を横に張らないようにします。両腕の前腕は両膝の外側につけます。

座礼で手を出す順序については諸説あります。剣道では左手から出して、右手から上げるとすることが多いようです。杖道では両手を同時に出して、同時に上げます。小笠原流では右手が少しだけ先行し、上げる時には左手が先行するとされています。

個人的には、両手が同時に動くより、少しだけ左右の動きをずらした方が美しいと思います。また、左手が先行して床につけてしまうと、脇差しを抜く時に左手で鯉口が切れない、ということで、小笠原流のように右手を先行して出し、左手を先行して上げる方が理にかなっていると思います。

しかし、あえて刀を簡単に抜けないように、左手から出すという考え方もありますし、左手は右手の上位にあるので、左手が先行するという考え方もあります。

最終的にはその場のルールや解釈を確認した方が良いでしょう。

お辞儀の時間は、深い礼でも、浅い礼でも同じです。「礼三息」といって、吸う息で身体を折り、吐く息だけ姿勢を維持し、吸う息で起き上がります。

座礼では、息を吸いながら上体を屈体し(2秒半)、吐く息で静止し(3秒)、再び吸う息で上体を起こしきります(4秒)。

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編集後記「締めの都々逸」

「常に備えて 稽古を積んで それても刀は抜きません」

昔の侍は、常に敵の攻撃に備えていました。道を歩く時も、周囲に目を配り、攻撃されたらすぐに対応できるように備えています。そして、相手を倒す技を身につけようと、稽古に励んでいました。

しかし、平和な江戸時代では、刀を抜いただけで大きな罪となりました。ですから、往来で刀を抜くことはありません。剣術の稽古も、木刀や竹刀を使います。実際に刀を抜くのは稽古のためであり、他人に迷惑をかけない場所を選びました。

人殺しの技を身につけ、本当に人を殺すのはテロリストです。武士は人殺しの技を身につけていても、人を殺さない。日本は江戸時代から専守防衛なのです。

個人の一人一人がいつでも相手を倒せるように稽古を積み、日常生活の中でも隙のない行動をしていれば、事件に巻き込まれることもないでしょう。国際時代だからこそ、再び武士の所作や礼儀、武道について学ぶのも良いと思います。

これはAIに代わることもないはずです。(坂口昌章)

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