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ウクライナ戦争で露呈。戦争が「極めて下手」なロシアという軍事大国

一進一退の激戦が続いているウクライナ東部戦線。しかしながらもはや地上戦闘においては、ロシア軍に勝ち目がないとする見方もあるようです。今回のメルマガ『uttiiジャーナル』ではジャーナリストの内田誠さんが、そう判断せざるを得ない根拠を解説。さらにウクライナ戦争を通じて抱いた、ロシアという国に対する率直な思いを綴っています。

ネットにあがる無惨な映像。ロシア軍に「地上戦闘」で勝ち目はない

今、ウクライナの戦争の状況ですけれども、ついこの間までバフムートというところ…。これ、順番に説明しますと、プーチン政権は、プーチンさんが大統領選を控えて政治的な得点になるような戦果が欲しかった、のではないかと想像されますが、3月末までに東部ドネツク2州、これを完全に制圧をしろと、完全にそこからウクライナ軍を追い出せということですね。そういう目標を提示して、これは1月でしたけれども、ゲラシモフさんという参謀総長、軍のトップですね、この人をウクライナ侵攻軍の総司令官に任じた。それまでの人は色々ミスを犯したり、あるいは犯さなかったり色々なんですが、そういう人たちは排除されていきました。

で、ゲラシモフさんが総司令官となり、その目標のためにロシア軍は全力を尽くすことになった。何をやったかというと、東部の各戦線において少しでも前に出ようとして、人海戦術なるものを採用した。これ、本当に悲惨なやり方で。なぜそうなったかについては、もしかしたら合理的な説明が可能なのかもしれないのですが、ちょっと信じられないような…。

ロシアの軍隊は内部が色々分かれていて、正規軍があり、動員兵がおり、ワグナーその他の私兵集団がいる。ワグナーに関しては持ち場が多分あって、一番厳しいところを担当させられているのだと思いますが、東部戦線のすべてのところで攻撃を仕掛ける。その仕掛けるやり方も、とにかくその場で使える道具を持って突撃する。中にはシャベルを持って突撃させられた人もいたという話まである。真偽のほどは確かではないですが、しかしハッキリしているのは、その間にロシア兵の大変な数の人が亡くなったということです。

トータルすると、これらに加えてこれまでにロシア側で亡くなったり怪我したりして「損耗」した人数は2万2,000人と、イギリスの国防相が推測した数字を出している。とんでもない数の犠牲者を出し、なおかつほとんど前に進めなかった。

で、3月31日までという期限が過ぎ、結局ダメだった。もう陥落間近という言われ方もバフムートについてはされていたし、もう少しでウクライナ軍守備隊は包囲されてしまうのではないかと。それくらいしつこく攻撃をしていたし、ワグナーの人たちは実戦経験のある人たちですから、その意味ではウクライナ軍とまともに戦える質を持った軍隊なわけですね。そういう人たちに包囲されて、これはもうバフムートからウクライナ軍は撤退するしかないのではないかという話になっていた。

ところがゼレンスキーさんは撤退ではなく、断固、死守すると言った。大丈夫なのか、そんなこと言ってしまって。戦略的な撤退は必ずしも負けたことにならないから、アリなのではないかという人もいた。でもとにかく守るのだと言って、今もまだ激しい戦争をしながら守っている。ワグナーの方も相当な損害を出しているのが現状だと思います。こういう攻撃を受けてウクライナ軍は一つ一つ全部防御していたわけですね。

これ、ある意味ではウクライナ軍の思惑通りで、ロシア軍はどんどん戦死し兵器もなくなり、士気も落ちて…というふうになっていったと言われています。結局、兵士不足、弾薬不足、兵器不足となって、また40万人の動員をかけようとしている。ただし今度は志願兵…今更志願する人とはいないのだと思いますが。何かで釣ってね。志願させるのかもしれませんが、それもうまく行くとは言えないのではないかと思います。

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もはや地上戦闘で勝ち目のないロシア軍

今、ネット上で公開されている映像を見ると、前線にロシア兵が残され、塹壕にこもらざるを得ず、そこをウクライナの戦車隊が襲って排除すると。ちょっとすさまじい映像…。ロシア兵(多分、動員兵)たちは怖いものだから、自然と一カ所にまとまってしまうんですよ。これって、格好の餌食になってしまうので。15メートルくらいの至近距離からロシア兵が固まっているところに戦車砲を撃たれて、その瞬間、映像にはモザイクが掛かるわけですが、10人近いロシア兵の遺体が散乱する状態ができあがってしまう。そんな映像が何種類もネット上に出ています。

これ、ちょっと、色々な紆余曲折があるのでしょうが、この状態、ロシア軍に地上戦闘で勝ち目はないのではないかという気がします。おそらく砲兵は周到に精密砲撃、精密爆撃で壊されていて、支援するシステムが壊されている。というふうなこと、そんな感じがします。結局、3月末までにドンバス攻略の命令は実行できなかった。

また東部を管轄していた司令官が交代させられるのではないかという噂が出ているのだそうです。ただ交代して新しい人が来てまた同じ戦いをするのかと考えると、今度はそれでは終わらない。これで泥濘期が終わり、戦車がハイスピードで駆け回れるようになったときに、ウクライナ軍には、まだゼレンスキーさんが要求した300両という数字からすると少ないですが、100数十両の西側主力級戦車、これが集まってくる。これも機種がバラバラだったり、グレードがちょっと落ちたり、あるいは予定の量数に満たなかったり、中には、実は送れませんという国もあったりして、そんなアクシデントがありながら、少しずつですが、実際にどんどん増えつつあることも確かなわけですね。

そうすると、この状況はロシア軍にとっては真っ青という状況になるのではないかという気がします。勿論、紆余曲折はあるでしょう。これからも予想外のことが起こるかもしれませんし、妙にロシア側有利に進む場面だって、絶対ないとは言えませんけれど、ただ全体の戦況を見たときに、もう少なくともこの戦いにロシアが勝つというのは無理ではないかという気がしてきます。

いまこそ停戦をという話があり、きょうも番組の中でご紹介するのですが、伊勢崎さんのイニシアチブですかね、多分、マスターが撮影したのだと思いますけれど。そのような動きもありますけれど、停戦要求は、ウクライナ側はそれを呑むのはあり得ないでしょうね。

何らかの譲歩をする意味があるのかということですから。ロシア側も何ら成果がない中、「長引くよ」という感じのことを言う政府関係者もいたりして、なかなか要求に応じる要素がないですよね。一つ、もしかして希望があるとすれば中国?これも、あまりそういう意味で信用できる人たちかなという気がするので…なんとも言えないのですが、中国政府ね、今の。

まあ、ロシアを潰さないように援助しながら、こっそりとね、仲介役をするような動きをこの間、しておられますが、でも、プーチンさんには大恥をかかされていますからね、ベラルーシに戦術核を配備すると言ってしまいましたね。あれ、習近平さんと核兵器を絶対拡散させないという約束をした直後のことなので、これは怒っただろうということがあり、これも想定外のことなんで分からないですが、ただ、仮に中国のお勧めがあり、両者ともに丸く収まるような解決案があったとして、それがあるかどうか考えてもありそうにないですね。戦場で決着を付けるしかないと、どちらも思っているのではないでしょうか。まあ、悲しいですが、まだ人が大勢亡くなるのかなという気がします。

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戦争に向いていないロシアという世界第2位の軍事大国

ウクライナ軍の方は最新とは言えないまでも強力な西側の兵器を次々と獲得して、今月末から来月中旬くらいにかけて前線に投入され、火を吹き始めるわけですね。場合によっては、対抗してロシアからまた核の脅しがもう少し具体的なところで出てくるかもしれませんね。

もう一つ、ウクライナ側には大変な兵器というか。この間、ウクライナ軍が実際に行ったとはなかなか言いませんが、ロシアの国内で色々な兵站に関わるところが炎に包まれているではないですか。大変な数だと思います。かなり重要なところで、モスクワに近いところでもありましたね。ウクライナは西側が供給した兵器でロシア領内を攻撃するのは、ロシア側を過剰に刺激するのでダメだということはありますが、ウクライナ側が独自に開発したドローン、これで攻撃する分には自衛権の行使そのものなので良いよといいますか、西側の兵器を使うのとは訳が違うということで。これ、モスクワとは言わないでも、どこかの軍事施設を大量のドローンで飽和攻撃を仕掛けるという方法がある。かつて国籍不明ですけれども、サウジの油田が飽和攻撃されたことがありましたよね。あのようなことが起こる可能性もある。

今度はウクライナ軍としては、うちがやりましたという風に言っても問題はない、そのような戦い方になっていくと、プーチンさん、大変ですよ。本当に。飽和攻撃でなくても、今これだけおそらくウクライナが自分で開発したドローンによる爆撃なのだと思いますが、そのようなことが可能になりつつある。ここから先、防空の施設を拡充すれば防げるかもしれないということがあるかもしれませんが、逆に言えばそうせざるを得ない状況にロシアは追い込まれている。

そんなことがあるのですが、この1年間、戦争の状況を見ていて思ったのは、ロシアという国は結局、戦争が下手なのではないかと。世界第2位の軍事大国というような言い方をしますよね。多分、正規軍がこれだけいて、核弾頭が何発あって、ということで比較されればアメリカに次いで2位という論が成り立つのかもしれませんが、この戦争のやり方を見ていたら、戦争に向いていない人たち。本当はもっと平和的にしか行動しなてはならない人たち。いや、戦争が向いている人たちがいるかいないか分からないのですが。

ウクライナの軍隊の洗練のされ方というか、いわゆる西側の武器援助が背景にあったとしても、それ以上のものがあって。宣伝戦から情報戦から、まさにハイブリッドの戦いを遂行していく部隊として、この戦争を通じて妙に強い、軍事の扱いもうまい強国が一つできあがる、という感じがしてきたんですよ。そういうたとえがいいかどうか分かりませんが。例えばイスラエルのようなね。まあ、色々な意味で違いますけど、色々な意味で違いますけれど、そういう国ができあがってしまう。それがウクライナ侵攻の結果としてそのようになるという印象があります。こんなのも紆余曲折があり、想定外の出来事をいくつもくぐり抜けた先にどうなるのかということです。まあ、予言するつもりなどないのですが、どうやらそのことはウクライナの人も意識しているのではないかと思うのですよ。

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ウクライナのテレビ局経営者が恐れていること

ウクライナのテレビ局の30代の経営者が、これ、NHKのドキュメンタリー番組で見たのですが、恐れていることは何かというような質問だったと思うのですが、なんと答えた方というと、これで、うちの記者たちがウクライナ政府を忖度するようにならなければ良いがと言った、そのような意味のことを言ったんですね。つまりウクライナ政府関係者の中に問題が起きたり、不都合が生じたり、ケシカランことがあったときに、それはロシアに対して国民もメディアも一致して戦ってきたときのままに、忖度して諸悪を追及しないというふうになったらまずいと言ったんですよ。偉いでしょ、これ!戦争もしていないのに忖度ばかりしているどこかの国の…いや、そんなことしていないかもしれないけどね、そういう人がいたら困りますよね。だからそれをNHKでやっていたというところがね、素晴らしいと思うのです(笑)。そういう危険がどこかに生まれるということになると。

よく、これは自由と民主主義を守る戦いで、専制国家と民主的な国家の戦い…勿論、それは間違ってはいないと思うのですが、そのことを過剰に意識してしまうと、自由と民主主義の側にいたはずの国家も、割と簡単に反対物に転化する可能性もあって。それくらい権力は美味しいのでしょうから、そういうことも。本来なら、弾を撃ち合っているときに話すことではないのですが、この先の先のまた先くらいに考えておいて損はないのではないかと思っております。戦争の下手なロシアと戦争が上手なウクライナという話になりました。

(『uttiiジャーナル』2023年4月9日号より一部抜粋。全てお読みになりたい方はご登録ください)

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image by: Drop of Light / Shutterstock.com

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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