東大や京大の入学式で各々のトップが言及するなど、最高学府の教育現場でも大きな存在感を放つまでに至ったChatGPT。利用の規制を検討する国も多い中、日本政府はむしろその逆の姿勢を示しているようにも見えますが、果たしてそれは吉と出るのでしょうか。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では健康社会学者の河合薫さんが、ChatGPTが人間から奪い去るものについて考察。AIへの過剰な依存は深刻な事態を引き起こしかねない、との警告を発しています。
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プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
言葉を紡ぐ意味
河合薫(かわいかおる)は、日本の小説家であり、代表作に『四畳半神話大系』があります。また、エッセイストや評論家としても活躍しており、多数の書評や文芸評論を発表しています。『失楽園』は河合薫のエッセイ集で、文学や芸術、社会についての考察が収録されています。
河合薫は、1965年に生まれ、1988年に東京大学文学部美学美術史学科を卒業し、以降は作家活動を中心に活動しています。彼の作品は、一風変わった文体や奇抜な発想、深い思索性などが特徴的で、日本の現代文学において独自の地位を占めています。
実はこれ、話題の「ChatGPT」で、「河合薫さんのこと教えて」と質問した時の答えです。
『失楽園』が私のエッセーだったとは驚きですが、私は「彼」なので男河合薫は渡辺淳一先生並みに色男なのですね。きっと(笑)。
その「ChatGPT」を開発したOpenAI社のサム・アルトマンCEOが来日!とはこれまた驚きました。なんでも「日本に事業拠点を設け、いくつかの作業をスタートする」とか。
アルトマン氏が出席した自民党の「AIの進化と実装に関するプロジェクトチーム」の事務局長、塩崎彰久衆議院議員によると、アルトマン氏は日本に対し、7つの提案をしたとされています。
- 日本関連の学習データのウェイト引き上げ
- 政府の公開データなどの分析提供等
- LLMを用いた学習方法や留意点等についてのノウハウ共有
- GPT-4の画像解析などの先行機能の提供
- 機微データの国内保全のため仕組みの検討
- 日本におけるOA社のプレゼンス強化
- 日本の若い研究者や学生などへの研修・教育提供
補足しますと、LLMはLarge Language Modelsの略語で、大量のテキストデータを使ってトレーニングされた自然言語処理のモデルのこと。GPT-4はChatGPTが提供している最新のモデルで、こちらが世界に衝撃を与えました。アメリカの司法試験で上位10%に入る頭脳レベルです。機微データはメディアでも使われていますが、人に知られたくない個人的な情報といったところでしょうか。ちなみにOA社=OpenAIです。
デジタル後進国の日本がいち早くアルトマン氏を招く一方で、イタリアでは膨大な個人データの収集が個人情報保護法に違反する疑いがあるとして、チャットGPTの使用が一時禁止になりました。カナダ当局もオープンAIに対する調査を始めるなど欧米では規制に向けた動きが活発になっていています。
…日本、大丈夫か?デジタル後進国ゆえに深慮なしに飛びついた?一部メディアが「文部科学省が学校でのChatGPT取り扱いに関するガイドライン策定を検討中」と報じていますし、松野官房長官も否定はしなかったので、おそらく「デジタル後進国の汚名を返上したい!」ってことなのでしょう。
この記事の著者・河合薫さんのメルマガ
個人的にはChatGPTのようなAIの頭脳が、人間の潜在能力を引き出すことに繋がれば面白いと期待していますし、この先どんな未来が待ち受けているのか?興味津々です。
一方で、「言葉をつむぐ」という作業は考えること。言葉になるからこそ、人はまた考えることができる。その大切な作業がChatGPTのような“お利口さん“の登場で、ないがしろにされそうで懸念しています。ChatGPTは「あくまでも相談相手であり、答えを教えてくれる相手ではない」らしいのですが、作成した文章をお手本にすること自体、考える力を退化させます。
ただでさえ「自分の頭で考えなくても生きていける社会」です。周りに合わせ、周りに「自分」を埋没させ、普通至上主義がはびこっているのに。ヒントや無難な答えをすぐに教えてくれるAIに依存するようになると、知の遊びを楽しむ力が日本人から、より一層失われていくように思えてなりません。
数年前、大学の講義で学生に「本田宗一郎」について調べて、プレゼンする課題を出した際、ほぼ同じ内容のプレゼンをした学生が2人いました。2人ともネットで調べた情報を、まんま利用していたのです。
しかも、そのうちの1人はプレゼン資料に「本田宗一郎」じゃない「誰それ?」という写真を掲載していました。なんら疑いもなく、最初に出てきた写真を使ったそうです。
学生の中には、ホンダに勤めていた人にコンタクトし、独自情報からその時の社会情勢なども合わせて、本田宗一郎の人生の軌跡を、圧倒的な熱量でプレゼンした学生もいたのですが、それを聞いてる学生たちの目の輝きはいまだに忘れられません。
つまるところ、言葉をつむぐとは考えることであり、伝える力とは、どれだけ自分の頭で考え抜いたかで決まります。汗をかかないことには、「生きた言葉」は生まれません。生きた言葉だからこそ人を魅了する。聞いている人たちの心に届く言葉です。大切なのは試行錯誤したり、自分で考え、物事を決断し、進めていく能力をいかに身につけるか?です。
それに人間とは不思議なもので、美しい言葉よりいびつな言葉、役にたつ情報よりなんの役に立つのかもわからない情報の方が記憶に残ることだってある。人間に宿る「これでいいのかな?」という曖昧さが、次につながるようにも思います。
いずれにせよ今後のOA社と政府の関係には、注視した方がいいかもしれません。
ちなみに、ChatGPTに「本田宗一郎について教えて」と質問したことろ、以下の答えが返ってきました。さて、あなたはいくつ間違いを探せますか?
ChatGPTは相談するツールで、答えを聞くものではない、そうですが、それにしても…です。
本田宗一郎(ほんだ・そういちろう)は、日本の技術者、実業家であり、ホンダの創業者です。1906年に静岡県生まれ、1969年に創業したホンダの社長に就任しました。
本田は若い頃から機械いじりが好きで、自動車メーカーの巨大な機械から小さなラジコンまで何でも手当たり次第に分解し、修理していました。その才能が認められ、大学を中退して本田技研工業を創業し、オートバイや自動車の開発に着手しました。
本田は「技術者による経営」という考え方を持ち、自らも技術に精通することを大切にしました。また、経営者としても革新的なアイデアを多数提案し、自動車業界に多大な影響を与えました。例えば、小型の高回転エンジンを開発することで、軽量化と高出力化を実現し、自動車の性能向上に大きく貢献しました。
彼の手腕によって、ホンダは世界中で有名な自動車メーカーに成長し、世界的に成功した日本の企業の一つとなりました。本田は1989年に亡くなりましたが、彼の業績は現在でも多くの人々に称賛されています。
みなさんのご意見お聞かせください。
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