MAG2 NEWS MENU

中国軍の関与は本当に無いのか?自衛隊ヘリ墜落の謎と「日中軍事衝突」の可能性

4月6日に沖縄県の宮古島周辺で発生した、陸上自衛隊のヘリコプターが行方不明となった事故。懸命の捜索作業が続く中、13日夜に機体と見られるものと隊員らしき姿が確認されたとの報道がありましたが、事故の詳細は未だ明らかになっていません。この件について我々がどう受け止めるべきなのかを考察しているのは、外務省や国連機関とも繋がりを持ち、国際政治を熟知するアッズーリ氏。アッズーリ氏は今回、米中対立の激化が自衛隊機墜落のドミノ現象化を招く原因を解説するとともに、「日本国民は事件としての自衛隊機墜落」をより現実的に考えるべきとの警告を記しています。

自衛隊ヘリ墜落は事故か事件か?高まる「日中軍事衝突」

台湾や尖閣諸島で緊張が続くなか、4月6日、九州熊本の基地から飛び立った陸上自衛隊のヘリコプターが宮古島周辺で突然消息を絶ち、乗っていた陸将など自衛官10人の行方が分からなくなっている。周辺の海域からは機材などが発見され、防衛省は事故との見方を示している。

だが、事故と断定されたわけではない。ヘリコプターが宮古島周辺海上を飛んでいた当時、天気は曇りだったが全く雨も降らず風も吹かず落ち着いており、自衛隊が最近実施した点検でも異常は見つからなかったという。この摩訶不思議について、インターネット上では、中国人民解放軍が遠方からヘリコプターを無力化できるサイバー攻撃を仕掛け、突然ヘリコプターが機能停止に陥り墜落した、また、自衛隊の中に中国当局と繋がるスパイが潜伏し、そのスパイが墜落させたなど様々な憶測が飛び回っている。

同日、中国の軍艦が墜落直前に沖縄本島と宮古島の間を通過していたことから、同軍艦が何らかの関与をしているのではないかとの懸念も聞かれた。これについて、7日の衆院安全保障委員会で浜田防衛大臣はそういった情報は入っていないと関連性を否定した。

「事故」だけで片付けてはいけない陸自ヘリ墜落

一方、ここで重要なのはこれがたとえ事故だったとしても、我々はそれだけで片付けてはならず、こういった自衛隊機の墜落が事件として起こるリスクが高まっていると認識することだろう。2010年の尖閣諸島における中国漁船と海上保安庁の船舶の衝突事件のように、日中の間では実際に衝突が起こっている。しかし、2010年当時の中国の軍事力と今日の軍事力は全くの別物であり、仮に今後何らかの衝突が起これば、中国は10年前以上により強硬な対応を取ることになるだろう。

それは数字からも想像できる。たとえばストックホルム国際平和研究所の分析によれば、2021年の米国の国防費は8,010億ドルで世界全体の38%あまりを占める一方、中国の国防費は2,930億ドルと世界全体の14%を占めるに至っている。しかし、2021年の中国の国内総生産は既に米国の70%にまで達しており、今後も中国が欧米よりは高い経済成長を維持することを踏まえると、中国が経済力と軍事力で米国を追い越すのは時間の問題だろう。

2033年あたりには米中の力の逆転が起こるとの見方もある。しかも、米国は今日対ロシアに時間や労力を割く必要性に迫られており、対中に全神経を集中できる状況にはない。中国は東シナ海や南シナ海、台湾などに全ての労力を割くことも習氏の意思次第で可能であり、沖縄や台湾周辺での米中逆転は時間の問題だろう。

米中対立激化がドミノ現象化させる自衛隊機墜落という「事件」

中国はそういった時間の到来を静かに待っている。むしろ、米中対立で危機感を強めているのは米国の方であり、米国内での対中警戒論は高まる一方だ。米国の調査会社ギャラップは3月、中国に関する世論調査の結果を公表し、中国に対して良いイメージを抱いていると回答した米市民が15%にまで下落した。これはギャラップ社が1979年から同調査を実施して以降で最低となった。また、同調査では米市民の6割以上が中国の軍事力と経済力が明らかな脅威と認識していることも明らかとなった。こういった現状打破が可能になる時を待つ中国と、現状維持が難しくなり焦る米国との対立がいっそう激化すれば、今回のような自衛隊機の墜落が事件としてドミノ現象化する恐れがある。

米中の力の逆転が明白になれば、中国は政治的に勢いをつけ、台湾や沖縄周辺での軍事活動をさらに活発化させるだろう。台湾侵攻や尖閣諸島の奪取、西太平洋での米軍けん制など中国には様々なオプションがあるが、米中の力の逆転の時が台湾有事のトリガーになる恐れもある。4月に入り、中米訪問の帰りにカリフォルニアに立ち寄った台湾の蔡英文総統がマッカーシー米下院議長と会談したが、それに合わせるように、中国海軍の空母山東が台湾南方のバシー海峡を通過し、台湾南東沖を航行し、西太平洋での航行演習を初めて実施した。

自衛隊が中国軍と衝突するリスクを高めるもの

また、中国軍は4月10日まで3日間の日程で台湾周辺海域において軍事演習を行い、中国軍機の中台中間線超えや台湾の防空識別圏への進入が相次いだ。これらは米中の力の逆転でさらに激化する。そして、それによって焦る米国は統合抑止を進める自衛隊に対して、これまで以上に最前線で体を張るよう強く求めるようになる。自衛隊が米軍との一体化を進めることは、裏を返せば自衛隊が中国軍と衝突するリスクが高まることを意味する。それが台湾有事か尖閣諸島奪取の時かは分からない。しかし、この海域周辺での軍事バランスの変化、逆転は日中軍事衝突の可能性を高めている。事件としての自衛隊機墜落、これを今回のケースからもっと現実的に考えるべきだろう。

image by: viper-zero / Shutterstock.com

アッズーリ

専門分野は政治思想、国際政治経済、安全保障、国際文化など。現在は様々な国際、社会問題を専門とし、大学などで教え、過去には外務省や国連機関でも経験がある。

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け