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突如現れたプーチン。なぜ独裁者は深夜にクレムリンを訪れたのか

4月30日、兵士たちを前にした演説で近い時期の反転攻勢開始を示唆したゼレンスキー大統領。29日にはロシアが実効支配するクリミア半島で大規模火災が発生するなど、より一層きな臭さが増しています。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、両軍の現状と最新の戦局を紹介。さらに習近平国家主席がゼレンスキー大統領と電話対談を行った裏事情を解説するとともに、今後の戦争の行方を予測しています。

ウクライナ軍ドニプロ川東岸に大攻勢も現地は雨で泥濘、ロシア軍との戦いの行方は

ロ軍は、バフムトとアウディーイウカの2拠点の攻撃に絞り、ザポリージャ州とヘルソン州は防御の方向になっている。

ウ軍はバフムト市から撤退しながら、ワグナー軍とロ軍空挺部隊の損耗を多くすることに価値を見出している。ワグナー軍は郊外のワグナー軍を市内に移動させて、攻撃を市内に絞り、市内中心部を確保しバフムト駅を占領して、郵便局までどんどん西側に前進している。

北側では、貯水池を抜けて遊園地まで前進したし、南側ではバフムト工業大学まで前進し、T0504号線を超え始めている。ウ軍は、撤退しながら、ワグナー軍が前進した地点を砲撃でビルごと潰している。

このため、ワグナー軍の損耗は激しく、プリゴジンもワグナーは消えてなくなり、歴史的な存在になると弱音を吐いている。この原因は弾薬が与えられないからで、このまま弾薬が与えられない場合、バフムトから撤退するとショイグ国防相を脅した。ワグナー軍が居なければ、この戦線も維持できなくなる。

郊外ではワグナー軍が抜けて、ロ軍空挺部隊だけで、クロモベ方向だけに攻撃して、O0506地方道を遮断して、バフムト市内への補給ができなくなることを狙っている。しかし、ウ軍は、無数の広範な塹壕陣地により、ここを固く守っている。

他には、オリホボバシュリフカにロ軍が攻撃したが、簡単に撃退されている。ワグナー軍とロ軍では、練度が違い過ぎるので、ロ軍だけになった郊外は、ウ軍優勢である。イワニフスクでのロ軍が攻撃しているが、ウ軍が撃退している。

どうもワグナー軍兵やロ軍空挺部隊兵士は、麻薬を打ち突撃してくるようだ。この麻薬は長い間眠らずに起きていることができ、恐れや痛みもなくなるらしい。そして、砲撃で手足を吹き飛ばされても、麻薬のために痛みを感じず、歩き続けられるようだ。手足から出血してるため、血がなくなるまで続けられ、それでも本人は何が起こっているのかわからないという。ゾンビの正体が分かってきた。

郊外では、ウ軍は、運河を渡河してクリシウカを奪還している。ウ軍は東部でも大攻勢をするとしたが、どうも、ここを越えて、バフムト包囲作戦をしているロ軍背後に前進して、逆包囲するようである。しかし、報道管制が引かれていて、これ以上は分からない。

ワグナー軍がほとんどの市内を抑えたようであるが、ウ軍が市内を撤退しているのは、逆包囲作戦を見ている可能性がある。

プリゴジンも、5月にはウ軍が攻撃してくるので危ないと述べるが、プーチンは、バフムト攻略を諦めないことで、ワグナー軍をウ軍攻勢阻止に回さないようであり、今回も負けた時点で、対応を取ることになりそうであるが、高練度なワグナー軍はなくなっている可能性が高い。プーチンの意向が、ロ軍やワグナー軍の足かせになっている可能性もある。

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各方面でウクライナ軍に撃退されるロシア軍

アウディーイウカ方面では、要塞にも攻撃しているが、失敗している。セベルネ、プレヴォマイシケにもロ軍は攻撃しているが、ウ軍に撃退されている。ここのロ軍の攻勢も弱まっている。

その他の地域でのロ軍の攻撃は、なくなっている。

ロ軍は、28日未明ウクライナの首都キーウなど各地を巡航ミサイルや無人機で攻撃し、集合住宅に着弾したウクライナ中部ウーマニでは、住民の死者が23名に上った。ウ軍によると、ロ軍が発射した巡航ミサイル23発のうち21発を撃墜した。

ロ軍は2023年3月以降初めての大規模な同時多発的巡航ミサイル攻撃を実施したことになるが、冬の間の攻撃と比べて投入されたミサイル数が少なく、攻撃目標はウ軍予備部隊と最近ウクライナに供与された軍事補給物資を捕捉して攻撃することであったようだ。

反転攻勢の準備を整え終えたウクライナ軍

ウクライナのレズニコフ国防相は28日「ほぼ反攻作戦の準備は整っているため、神の意志、天候、指揮官の決断があれば直ぐ実行に移す」と明かし、周到に準備を進めて、「ロシア軍との決戦」が近いことを示唆した。

オースティン米国防長官はラムシュタイン会議後「230輌以上の戦車や1,550輌以上の装甲車両をウクライナに届け、新しい9個旅団の編成が可能になった」と言及、NATOのストルテンベルグ事務総長も27日「約束した戦闘車輌の98%以上が提供済みだ」と明かした。

その他、無人機購入募金プロジェクト「無人機軍」を通じて、すでに3,800機以上の無人機の購入をして、既に反攻作戦で利用可能にした。

レズニコフ国防相は、米M1エイブラムスについては「我々の兵士は既に訓練を受けるため出発したが、今回の反攻作戦には参加できないだろう」と付け加えている。

国防省情報総局キリロ・ブダノフ少将も「ウクライナとロシアの決戦は近い」とし、「天候が安定する」という確信が得られれば、いつでも反攻作戦の発動になるかもしれないという。

不安材料もある。EUは3月「今後12ヶ月間で100万発の155mm砲弾をウクライナに供給する」と合意したが、21日時点で2.8万発しかウクライナに到着しておらず、フランスとポーランドは砲弾の購入方法で揉めており、反攻作戦の砲弾供給は米韓に依存している格好だ。ということで砲弾不足の可能性がある。

レズニコフ国防相は、月平均で11万発の155mm砲弾をウ軍は消耗しているが、ロ軍は月平均45万発もの152mm砲弾を撃っているという。ウ軍はロ軍の1/4しか砲撃できない。米国が供給する155mm砲弾(累計150万発以上を提供=月平均11万発以上)とは別に「月25万発の155mm砲弾」が必要で、それをEUが提供するはずが、できないでいる。

このため、ドイツはウクライナにEUが供与する予定の100万発の砲弾のうち25万発を製造する意向であり、ウ軍の弾薬不足を解消したいようであるが、すぐにはできない。

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夜闇に紛れて音もなく渡河するウクライナ軍特殊部隊

しかし、ウ軍の大攻勢は既に始まっているとも言える。ウ軍は、ドニプロ川東岸の南北20kmの橋頭保を確保したようであり、東岸のオレキシーに拠点を作ったともいう。このオレキシーは、E97道路でクリミア半島に繋がり、M14道路でメルトポリに繋がる。その起点の町である。

ウ軍はドニプロ川を渡河するため、特殊な対暗視装置カバーを着けたカヤックを使用して、ウ軍特殊部隊は対岸に渡ったようである。夜闇に紛れて音もなく渡河するので、ロ軍は発見できないようである。

このため、ロ軍のドニプロ川近くのコザチヘリのロ軍監視所が、ウ軍のジャベリンで攻撃され破壊された。カホフカ、レイオン、コルスンカの北、リバルチェの北東などのロ軍陣地が攻撃されている。ドニプロ川のデルタ諸島もウ軍に占領されたようだ。

ノバカホフカダムも攻撃されたのか、停電状態になっているというが、ロ軍が発電所を破壊して、損傷部分から強力に放水させて、ドニプロ川下流を氾濫させ、ウ軍の進撃を止めるようだ。デルタ諸島も冠水することになる。

クリミアのセヴァストポリの石油貯蔵庫もウ軍の自爆ドローンにより炎上したが、OSINTの分析によると全損は6基、大破は7基で、5基が炎上を免れた。しかし、ドローン攻撃をウクライナ側は否定している。しかも、ロ軍の周囲の厚い防空システムが反応してないことも謎だ。パルチザン活動やウ軍特殊部隊の可能性もある。

現在の兵員数は、ロ軍兵37万人と重火器5,900門で、ウ軍兵60万人以上であり、欧米から多大な武器供与があり、ウ軍優勢である。

ウ軍戦車部隊は、ドニプロ市近郊とミコライウ市郊外の2つの地域に集結している。何処を攻めるのかは、まだ確定していないようだ。

しかし、ウ軍は、報道管制を引いているのでよく見えないし、ロシア軍事ブロガーたちもロ軍兵の士気維持のために書かないので、見えない。

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深夜に突如クレムリンに現れたプーチン

プーチンが26日、深夜に突如、クレムリンに来たという。この行動が話題になっているが、南部ヘルソン州ドニプロ川東岸にウ軍が拠点を作ったということで、早朝会議の前に状況の報告を受けるためにクレムリンに入ったとみる。

状況報告は、ロ軍からFSBに入り、パトリシェフ安保書記に入り、プーチンに報告されることになり、その報告を聞いてからロ軍幹部を含めた戦略会議で、今後の作戦をどうするのかを決定するはずである。

ウ軍のドニプロ川東岸の攻撃をどう見るかであろう。この攻撃を陽動とみるか、本格的攻勢とみるかで違うことになる。

現時点では、メルトポリにロ軍を集結させていて、ザポリージャ州に攻めてくるとみている。このロ軍をヘルソン州に向かわせる可能性もある。

ロ軍は冬攻勢で、手元に兵力があればすべて投入で攻勢し、予備兵力が乏しくなると攻勢を停めるという単純な攻撃の繰り返しをしてきた。

このような状態でウ軍の反攻を迎えることになった。プーチンには、プリゴジンも早くから、バフムトに固守せずに、ワグナー軍をウ軍反転攻勢ために残しておくべきと忠告していたが、プーチンは聞く耳を持たなかった。

しかし、準備として、クリミア半島の北部ジャンコイ基地から多数の装甲車すべてを移動させ、空の状態にしたようだ。この装甲車両が何処に行ったのかは不明であるが、南部ヘルソン州やザポリージャ州に配備されたようである。

そして、ザポリージャ州のロシア占領地区に構築された、ロ軍の三重防御ラインでは、一番手前に対戦車壕(戦車が乗り越えられない)があり、真中に「龍の歯」でコンクリート製障害物が来て、最後に歩兵が入る塹壕というような防衛線である。これを航空機とドローン、砲兵、戦車などが後方から支援する。ここをウ軍は突破する必要がある。

もう1つが、ウクライナ国民であった占領地の住民対策として、プーチンは28日、ロシア支配地域の住民にロシア市民権取得の道を開く法令に署名した。しかし来年7月1日までにロシア市民権取得を拒否もしくは取得に向けた行動を取らなければ、国外退去処分となる。また、ロシア国籍を取得した人がロ軍の信用をおとしめる行為などをした場合、国籍を剥奪できる改正法案にも署名した。

ヘルソンとザポリージャ州の住民が対象であり、ロシアは同化政策に出てきた。泥縄政策のような気がする。

逆に、ザポリージャ州とヘルソン州のロシアに協力的な住民を避難させ始めた。

もう1つ、反逆罪に対する刑罰に最高で終身刑を導入し、国際刑事裁判所(ICC)など、ロシアが非加盟の国際機関の執行などに協力した場合、禁錮刑や罰金を科す刑法の改正案に署名した。

外交では、インドのシン国防相とロシアのショイグ国防相が会談し、防衛パートナーシップを強化することで合意した。具体的な内容は不明である。

ロシア経済から見ると、今年のガス輸出がブレジネフ政権以来の低水準に落ち込むと予測され、ガスプロムが海外で販売できる量は、1980年よりも少ない500億立方メートルにとどまるようだ。政府の石油生産量は国家秘密であるという。それで少ないことがわかる。戦争継続の国家予算が続くのかが問題になっている。

ロシアは、ウクライナ産穀物輸出を止める方向でいることで、ウクライナ産穀物が東欧に流入して、東欧諸国が自国内への流入を防ごうと、東欧諸国が輸入禁止などの措置を取っていた。この問題で、欧州委員会は28日、ポーランドなど東欧5カ国と解決策に基本合意した。欧州委によると、東欧諸国は「一方的な措置」を取り下げるといい、ウクライナ産穀物などの輸出ルートが確保されるという。

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習近平がゼレンスキーと電話対談を行った裏事情

中国の盧沙野・駐仏大使は21日、旧ソ連からの独立国に関し「主権国としての地位を具体的に示す国際合意は存在しない」との認識を表明した。24日にルクセンブルクで開かれた欧州連合(EU)外相理事会に出席した各国外相の間からは、「全く受け入れられない」(リトアニアのランズベルギス外相)と改めて非難する声が相次いだ。

これに対して、中国外務省は24日に、駐仏大使が旧ソ連から独立したウクライナなどの国家主権に疑義を呈したことについて「中国は(旧ソ連諸国の)主権国家としての地位を尊重している」と釈明した。盧大使の発言は「個人的見解」だったとの声明を出した。

この発言で東欧との関係が不味くなり、習近平国家主席が修復する必要になり、ゼレンシキー大統領と26日、習近平国家主席は電話会談した。ロシアの侵攻開始後で初の会談となる。

習主席は、ウクライナに特別代表を派遣し、全ての当事者と協議し危機の解決を目指す方針を示した。習主席は、中国が和平交渉の推進に注力し、可能な限り早急な停戦に向け努力すると言明。さらに「国連安全保障理事会の常任理事国として、さらに責任ある主要国として、傍観することも火に油を注ぐことも、ましてや利益を追求することもない」と語ったという。

ゼレンスキー大統領は、「領土の妥協や犠牲の上に平和はあり得ない」と言明した。「ウクライナの領土保全は1991年の国境に基づき回復されなければならない」と述べた。

ロシア外務省は26日、習近平国家主席とゼレンスキー大統領との電話会談を受け、中国がウクライナの平和プロセスに関与する意向であることに留意するとした。

しかし、ウクライナの領土保全は1991年の国境だとなると、中国がそんな条件で交渉をすることはできない。結局誰がやってもこの和平交渉は難しい。

当分、戦争は続くことになり、ウクライナもロシアもヘトヘトになるまでは、和平交渉はないと見た方が良い。あと数年は戦争が続くことになる。

さあどうなりますか?

(『国際戦略コラム有料版』2023年5月1日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by: Rokas Tenys / Shutterstock.com

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【著者】 津田慶治 【月額】 初月無料!月額660円(税込) 【発行周期】 毎月 第1〜4月曜日 発行予定

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