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都心のオフィスがなくなる未来はすぐそこに?AIの進化で変わるもの、変わらないもの

AIによって人間の仕事が奪われていくかもしれない─。以前から言われていたことではありますが、ChatGPTなどを目の前にして、さらにそんな不安にかられている人も多いようです。メルマガ『j-fashion journal』の著者でファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんは、AIの進化によって変わること、変わらないことについて語っています。

AI進化で変わること、変わらないこと

1.人間の知識は凄い?大したことない?

人間の知識については、大きく二つの考え方があると思います。

一つは、人間の知識レベルは非常に高いというものです。現代科学、コンピュータ技術によって、現代人の知識は高いレベルに達しています。加えて、高性能のAIが登場し、更に人間の知識レベルは上がっていきます。人間の知能は地球環境に影響を与え、地球そのものを壊そうとしている。それほど、人間の知能の力は強いと考えているのです。

もう一つの考え方は、人間の知識レベルはそれほど高くはないというものです。

人間は自分の体についても十分に分かっていません。脳の働きとか、腸の働きとか、免疫についても分かっていません。自分の健康さえ十分に守れず、薬に依存しています。

また、宇宙や地球の多くの謎も解明されていません。台風や地震の予知もできません。植物や動物、昆虫についても、ほとんど知りません。

我々が知っているのは、我々の生活に必要なことのうち、ほんの一部分だけです。これほど何も知らない人間に、人間の知識を元に作られた人工知能が加わったとしても、大したことは起こらないのではないでしょうか。

2.あなたの仕事には価値があるか?

人は自分がやっていることに価値があると思うものです。そう考えないと自己否定につながるからです。

江戸時代の武士の教育は、古代中国の「四書五経」の素読が中心でした。そもそも四書五経とは、儒学者の朱熹(しゅき)が科挙の試験問題を前提にしてまとめたものです。

多分、江戸時代の武士は「四書五経」を。学ぶことは価値があると思っていたでしょう。現在の我々が受験勉強を大切だと思っているように。しかし、儒教の原理主義的教育には弊害もありました。受験勉強に全く価値がないとは思いませんが、もっと優先順位の高い勉強があるかもしれません。

大企業のビジネスパーソンも自分の仕事は価値があると思っています。しかし、本当にそうでしょうか。

製造業の工場は、「乾いたタオルを絞るようなコストダウン」をしてきました。機械のレイアウト、作業員の導線、カイゼン活動等により、徹底的にムダ取りをしました。

それに比較すると、日本の大企業には非常に無駄が多いと思います。まず、無駄な会議が多い。情報の共有化なら、データを共有すればいいし、担当者同士が5分か10分打ち合わせすれば解決するでしょう。

稟議とか上司の決済も大部分が形式的な業務です。業務フローと意思決定のルールを決めれば管理職を大幅に減らせます。欧米企業と比べても、日本企業の組織は多段階であり、中間管理職が多いのです。

AIがあってもなくても合理化は可能です。問題は、合理化したくない、仕事のやり方を変えたくない人が大勢いるということです。

AIの登場は、既得権で固まった組織を改善する動機にはなるでしょう。自分の仕事がなくなるという恐怖が改善を後押しするからです。また、AIと客観的に無駄な組織、無駄な人員、無駄な会議、無駄な業務を洗い出し、可視化してしまうかもしれません。仕事の価値が明らかになり、これまで価値ある仕事と思っていたものが、合理化対象になるかもしれないのです。

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3.都心のオフィスが消える

頭脳労働や知的労働は、機械化や自動化ができないと思われていました。しかし、AIの登場により、知的労働についても機械化の可能性が出てきました。

工場の機械化が進むと最終的には無人工場になります。無人工場は必ずしも最高の商品を作れるわけではありません。最高のアナログ商品を作れるのは、一流の職人です。コンピュータ計測では測れない微細な寸法の狂いやひずみを見分け、それを修正することができます。

しかし、多くの場合、無人工場の方が職人の工房よりはるかに多くの売上や利益を生み出します。一般の消費者は、一流の職人による完璧な商品でなくても、大量生産の商品で十分に満足できます。

これと同じことが頭脳労働でも起きるでしょう。かつて、合繊織物を生産する北陸産地は巨大な社員寮を持ち、千人単位の社員が働いていました。織機一台一台に織工さんがついていないと機械を制御できなかったからです。

現在のオフィスはパソコン一台一台に社員が張りついています。この光景は、私の目にはかつての織布工場と重複するのです。

現在の最新の織物工場は体育館程度の広さに数人の社員しかいません。全てコンピュータ制御で機械は動き、自動搬送ロボットが稼働しています。

おそらく、数千人規模のオフィスは消えていくのでしょう。都心のオフィス需要もなくなります。AIによる合理化は社員が半数になるという規模ではなく、社員が百分の一、千分の一になるでしょう。それでもビジネスは回っていきます。

4.アナログの生活は継続する

AIによって、知的労働の機械化が進み、デスクワーク中心のビジネスパーソンは百分の一以下になり、都心のオフィスが消えたとして、私たちの暮らしはどのように変わるのでしょうか。

産業革命で紡績が自動化されても、一般の消費者は変化を感じませんでした。紡績業で働く人が大幅に減少しても、商品の供給は変わりません。それに、生産効率が上がっても、需要が増えるわけではありません。市場規模は増えず、価格が下がります。競争力のない小規模企業は淘汰され、生産は大企業に集中しました。

同様に、デスクワークに従事する社員が減少しても、企業は商品やサービスを従来通り提供し続けます。どんなにAIが活躍しても、人口が減少すれば市場は収縮し、経済活動も減退します。

デジタル革命が起きても、我々の基本的な生活は変わりません。アナログな食事をして、アナログに身体を動かし、アナログに眠ります。男女がカップルとなり、子供をつくり、子育てをすることも変わりません。

産業革命以前の江戸時代、江戸の中で最もお金が動いたのは、魚河岸、芝居小屋、吉原だと言われています。現代風にいうなら、グルメ、エンタメ、芸能、風俗等の産業です。役者や花魁は当時のファッションンリーダーであり、浮世絵や絵草子等のメディア産業も盛んでした。人間の五感を刺激して楽しむ産業は今も昔も都市に集中していたということです。

一般の人々は、日本中に分散して自給自足を基本に生活していました。

AIが進化し、大企業の職場が消失しても、商品は生産され流通するでしょう。オフィスビルがなくなった東京の未来を考えると、江戸に近づくのかもしれません。

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編集後記「締めの都々逸」

「都心のオフィスが 空き家になれば 田んぼや畑をつくりたい」

都会には巨大な高層ビルが立ち並んでいます。その多くはオフィスビルです。しかし、デスクワークが機械化、自動化されれば、最終的に無人化が進みます。これは、紡績や織布で実際に起きたことです。

どんな大企業も少人数の経営陣で運営できるようになるでしょう。工場や物流倉庫、店舗やサービスセンターはなくならないと思います。いわゆる現場の仕事はそのままで、マネジメントの部分が自動化されます。つまり、都心の本社が必要なくなるということです。

高層ビルからオフィスが撤退したら、何に使えばいいのでしょうか。本社への通勤がなくなれば、生活者は環境の良い地方に分散して生活するでしょう。ですから、都心のマンションも空室が増えると思います。

そこで、田んぼや畑はどうでしょうか。水は高層階から順にしたに流せばいいので、巨大な棚田、段々畑ができるわけです。都心なので、農薬も使わず自然農法に挑戦してほしいですね。そうすれば、レストランや宿泊施設、エンタメ施設などもテナントとして入居してもらい、巨大な観光施設になるかもしれません。(坂口昌章)

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