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映画『TOKYO MER』に登場する「ERカー」が実際の医療現場で使えないワケ

興行収入が約35億円と、大ヒットとなった映画『TOKYO MER~走る緊急救命室~』。同作に登場する「ERカー」は、車内で緊急手術も可能な特殊車両で、実際に医療現場から「欲しい」と希望があるそう。しかし、現実的にそうはいかない事情があるのです。作家でユーチューバーの顔も持つ、ねずさんこと小名木善行さんは自身のメルマガ『ねずさんのひとりごとメールマガジン』の中で、その理由について語っています。

ヒット映画『TOKYO MER~走る緊急救命室~』の不思議

いま封切り中の映画に『TOKYO MER~走る緊急救命室~』という映画があります。もともと2021年にTBS系「日曜劇場」枠で放送されたテレビドラマシリーズで、これを映画化したものです。

ドラマの方は、現在動画配信で全話を観ることができます。ドラマも映画も、緊迫感があり、ものすごくできの良いドラマです。ものすごく面白いです。

ただ、不思議な部分もあります。男性の俳優陣には、主演の役者さんだけに笑顔があって、他の男性の俳優陣に、番組中の笑顔がまったくないのです。つまり、かなり意図的に主人公だけに人物の魅力が集中するように描かれています。

さらに不思議なことがあります。男性の俳優さんたちが、なぜか下唇にだけ口紅付けています。

とてもおもしろい番組であり、映画であり、そのことは良いのですが、どうも韓流ゴリ押し的なものが強すぎるきらいがあって、その点がせっかくの役者陣の熱演や、ドラマのできの良さを半減させているように思います。

あくまでもドラマですので、そのあたりは割り引いて観なければならないものなのでしょうけれど、どうにもゴリ押しというものは、臭味になってしまうものです。あまり感心できません。

現実に「ERカー」が使われない理由

さて、この映画に「ERカー」というものが登場します。車内で緊急手術も可能な特殊車両で、多くの緊急医療機関が、ぜひ、この種の車が欲しいという声もあがっている車両なのだそうです。

けれど実は、こうした医療カーは、日本では世界に先駆けて戦前から用いられていたものです。

陸軍は、戦地において負傷したり疫病に感染した病人やけが人に対し、即座に手術が可能なように、特殊な医療用車両を開発し、これに医師を乗せて稼働させていました。つまり当時の日本には、最先端の医療車両があったのです。

現在でも、東京消防庁には、特殊救急車(スーパーアンビュランス)といって、災害現場でボディを左右に拡張することにより、最大約40m2のフラットな床面になり、最大8床のベッド数を備えることができる車両や、応急処置が可能な特殊救急車などが備えられていますが、車内で医療処置そのものを行うことを目的とした車両は、ありません。

一方海外では、ドクター・カーといって、医師や看護師が同乗し救急現場などに駆けつけて初期治療を始め、救命率を向上させることを目的とした車両が稼働しています。つまり、海外の諸国では、日本がかつて運用していたドクターカーを、採用し運用しているわけです。

ところが戦後の日本でこれが稼働しないことには理由があります。それは、自動車内での緊急治療のコストをどのように負担するかの仕組みが整っていないことです。

車内で行われる医師や治療の費用には、もちろん医療点数が計上されることになっています。けれど、それらの点数は、3割が患者に費用転嫁されること、そこでの収入だけでは、ドクターカーの購入、メンテナンス等の費用を賄いきれないのです。

結果、日本ではドクターカーはほとんど普及していない。

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これが何を意味しているのかというと、すべての仕組みが「国内の平時を前提としている」ということです。けれど、大規模災害などの発生に際しての活動や、被災者対策は、平時においては、まったく役に立たないものでありながら、いざというときには、ものすごく重要性が増すものです。

そして本来、国の機関は、そうした平時にはコストの合わない非常時対策のためにあるものということができます。

非常時というのは、何も戦争だけではありません。大規模災害もまた同じですし、テロ対策や要人警護もまた同じです。

もっというなら、携帯電話の通話確保も、民間企業は、コスト制限のために、平時を前提としますが、このために災害時には電話がつながらない。要するに、世の中には、国や地方自治体が運営しなければならないものというものがあるのです。

そしてそれらは、緊急時への対応が図られていなければなりません。

そうしたことを、戦後の日本は、まったく考えずにやってきました。

新しい日本では、そのあたりが、しっかりと行えるよう、国の形を決めて行かなければならないと思います。

日本をかっこよく!

ではまた来週。

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image by: Shutterstock.com

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静岡県出身。国史研究家。倭塾塾長。日本の心をつたえる会代表。日本史検定講座講師&教務。インターネットでブログ「ねずさんのひとりごと」を毎日配信。 著書に「ねずさんの昔も今もすごいぞ日本人」第1巻~第3巻。「ねずさんの日本の心で読み解く百人一首」がある。

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