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タクシー運転手が交通事故を会社に報告せず。雇い止めは妥当?

会社の規則は業種によって異なります。A社では問題にならない行為も、異なる業界のB社では解雇扱いになるということも珍しくありません。しかし、厳しい規則が原因でトラブルに発展するケースも……。会社が定める規則は、どの程度まで厳しくしても良いのでしょう? 無料メルマガ『「黒い会社を白くする!」ゼッピン労務管理』の著者で特定社会保険労務士の小林一石さんが、過去の裁判事例からその線引を探っています。

「交通事故を未報告で雇い止め」は認められるのか

軍隊の厳しさには訳がある、という話を聞いたことがあります(冒頭から物騒な話で大変恐縮です)。

軍隊では上司の言うことは絶対です。

これが会社であれば、場合によってはパワハラとも受け取られる場面も出てきそうですが軍隊の現場では上司に口答えすることは許されません。

これがなぜかというともし戦闘の現場で上司の指示に従わないことはその本人や他の隊員の命にも関わるから、という話でした(確かに、上司が「右へ進め!」と言っているのに「いや、僕は左の方がいいと思うんですよね」なんて言う人がいたら大変なことになりますね)。

これは会社の業種などよっては同じようなことが言えます。

例えば、「社内でタバコを吸ったら懲戒解雇」という規定があったとします。

いくら健康意識が高まっている時代とは言えさすがに厳し過ぎるだろうと感じる人もいるかも知れません。

ただ、もしこの会社が「花火の製造工場」だったらどうでしょうか。

タバコの火が、万が一の場合は人の命に係わる大惨事になる可能性もあるため、決して厳し過ぎる規定とは言えないでしょう。

また、例えば食品会社であれば当然ながら衛生に関しては厳しい規定があるでしょうし、その他の業種についてもおそらくその業種ならではの厳しい規定があるでしょう。

ただ、そこには注意すべき点もあります。

それについて裁判があります。

あるタクシー会社で、その会社のタクシー運転手が仕事中に起こした交通事故を会社に申告しなかったとして契約期間満了を理由に、会社が雇い止めを行いました。

その会社では、運転手に対して教育を徹底し、事故が起こった際の報告を義務付けていました。

ところが、その運転手は運転中に事故を起こしたにも関わらず、直ちに警察や会社に報告をすることもなく、タクシー営業を続けていたというのです。

この雇い止めに対して、その運転手が納得がいかないとして会社を訴えました。

ではこの裁判はどうなったか。

会社が負けました。

その理由は以下の通りです。

・この事故の直後、あるいは遅くとも乗客がタクシーを降りた後に警察や会社に連絡をしなかったことについて、会社が厳しい対応をするのは十分理解ができる

・しかし、一方で今回の事故は左後方の確認不足という比較的単純なミスによるものであった

・タクシーに接触した自転車も倒れた様子は見受けられず、接触後すぐに立ち去っていることから、今回の事故及び未報告は悪質性の高いものとまでは言えない

・警察においても、今回の事故を道交法違反と扱って点数加算をしていないことを踏まえると、警察からも重大なものとは把握されていないことがうかがわれる

・今回の接触(事故)のような一見する限り怪我がないように見える接触の相手方が無言で立ち去ってしまった場合に、警察に報告しなければならないことが頭に浮かばなかったとしても、一定程度無理からぬものがある

・よって雇い止めとすることは重過ぎるというべきである

いかがでしょうか?

冒頭のお話のように、タクシー会社という業種の特性上、交通事故について厳しい処分をするのは一定の合理性があります(これは裁判所も認めています)。

ただ、「それにしても厳し過ぎるでしょ」というのが今回の裁判です。

この「懲戒処分をどの程度にするか」は、よくご相談をいただくのですがそれを考慮する際のポイントの一つが「本人に対する加点と減点」です。

例えば、同じような程度の接触事故を2人の社員が起こしたとします。

その場合に、もし同じ程度の事故だったとしても必ずしも同じ程度の処分をするのではなく、その本人たちの今までの勤務成績や事故後の対応によって、処分の程度が変わってくるということです。

今までの勤務成績が良ければ加点(処分が軽くなる)、逆に悪ければ減点(処分が重くなる)の可能性があります。

今回の運転手本人には次のような加点のポイントがありました。

・タクシー運転手として三十数年間、人身事故を起こすことなく業務に従事し、何度も表彰されるなど、優秀なタクシー運転手であった

・(事故後に)本社面談を受けることなど会社の指示に素直に従い、注意、指導を受けた内容を記憶し、反省していることが認められる

これが加点ポイントとして裁判では考慮されました。

これが逆に

・今までも交通事故を多数起こしていた

・事故後も反抗的な態度で上司と面談し、反省している様子が無い

であれば、減点ポイントになりえます。

もちろん、過去の勤務成績が良ければなんでも軽い処分で許されるというわけではありません。ただ、それらを全く考慮しない懲戒処分は後に無効とされる可能性があります。

それらも充分に考慮して懲戒処分を決定していきたいですね。

image by: Shutterstock.com

特定社会保険労務士 小林一石この著者の記事一覧

【社員10人の会社を3年で100人にする成長型労務管理】 社員300名の中小企業での人事担当10年、現在は特定社会保険労務士として活動する筆者が労務管理のコツを「わかりやすさ」を重視してお伝えいたします。 その知識を「知っているだけ」で防げる労務トラブルはたくさんあります。逆に「知らなかった」だけで、容易に防げたはずの労務トラブルを発生させてしまうこともあります。 法律論だけでも建前論だけでもない、実務にそった内容のメルマガです。

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【著者】 特定社会保険労務士 小林一石 【発行周期】 ほぼ週刊

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