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学級崩壊ならぬ「職員室崩壊」の現実。管理職のために仕事をする教師の悲鳴

教師不足対策の一環として、来年度からの教員採用試験を約1ヶ月ほど前倒しする方針を示した文科省。しかしながらこのような小手先の対応では、現場が直面している難局を乗り切ることは不可能なようです。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では健康社会学者の河合薫さんが、10年以上前から人材不足に陥ることがわかり切っていたにもかかわらず、今の今まで何一つ有効な手を打たなかった日本の教育行政を強く批判。さらに教師が子供たちのために仕事ができない現状を紹介するとともに、政府に対して「異次元の学校対策」の実施を強く求めています。

プロフィール河合薫かわいかおる
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

管理職のための仕事?教師たちの悲鳴

学校の教員不足が止まりません。

朝日新聞の調査では判明しただけで、1,494人が不足(4月時点)。兵庫県教委と兵庫教職員組合の調査では(神戸市を除く5月1日時点)小学校73人、中学校61人、高校で18人、特別支援学校で12人と、いずれも前の年より不足人数が増え、合わせて164人が不足しているいう状況が明らかになったそうです。

政府は、給与体系を改善して賃金の引き上げを実現するほか、学級担任などを念頭にした新たな手当の創設などを、「骨太の方針」に明記することで調整していますが、現場の声に耳を傾ければ傾けるほど、「カネを上げたところで問題は解決しないのでは?」との疑問が尽きません。

教員の「職場環境の悪さ」は、10年以上前から指摘され続けてきました。長時間労働・休日出勤は当たり前、めったやたらに提出書類が多く(文科省や教育委員会の書類)、問題が起こるたびに雑用が増え、さまざまな数値目標なるものが課せられてきました。「親のクレームの数をいくつまで減らす」「問題行動をとる生徒を何人まで減らす」「遅刻する子供を減らす」といった具合です。

「産休・育休、病休などで学校を離れても、その穴を埋める代役の教員が確保できない」「少子化で子どもの数が減少しているのに伴い、正規雇用の教職員の数を減らされている」という声もありましたし、「何か問題が起こると、先生の責任になる」「学校も教育委員会も守ってくれない」「そんな状況で、誰が先生になろうと思うでしょうか?」という嘆きも度々耳にしました。

日本教職員組合が実施した調査では(2022年)、教員の週当たりの「平均時間外労働時間」は23時間53分。月に換算すると実質95時間で過労死ラインを大幅に超えています。

しかも、採用数が多かった年の教員が定年退職を迎えたため、現場は若い先生と非常勤の先生だらけでてんやわんやだといいます。担任が決まらず教頭先生が担当したり、教員経験はないけど教員免許をもっている「ペーパーティーチャー」を集める自治体も増えているとか。

繰り返しますが、10年以上前から「教員の非正規増加は教員不足につながる」「ブラックすぎて学生のなり手がいない」と指摘され続けてきたのに。なぜ、こんなにも改善されないのか。一言でいえば「変える気がなかった」。「どうせ子供の数減るわけだし。あとは現場でひとつよろしく!」っていうことなのでしょう。

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「先生はもう先生じゃないのよ。ただのサラリーマン。だって子供たちのための仕事より、管理職のための仕事ばかりなんだから。職員室では、どの先生もパソコンに向かって、息を潜めている」

数年前、こう話してくれた先生がいました。いわく「学校で、学級崩壊ならぬ、職員室崩壊が起こっている」と。

「昔は本当に楽しかった。教師みんなが一丸となって子供たちに向き合っていた。みんなで1人ひとりの生徒のことを話し合い、考える時間もあった。例えば、何か問題を起こす子供がいるとするでしょ?1つの原因だけで問題を起こすってことはなくて、いくつかの要因が絡み合っている場合がほとんどなの。だから先生たちみんなで子供の情報を共有して、みんなの“問題”として取り組まなきゃならない。

でも、今は何か問題が起きるとそれに関係のある1人の先生だけがやり玉に挙げられる。特に管理職は何かあると自分の責任問題になるから、その先生だけに問題があったのかのような追及をしたりする。今の先生に求められているのは、間違いを起こさないこと。間違いを起こさない無難な教師が一番いいんです」

これが学校の問題を現場に押し付けてきた末路です。

ILO(国際労働機関)は、労働に関する報告書の中で、教師は個性的な人格を持つ40人近くの子供たちを統制しなくてはならないため、非常にストレスフルであり、その状況は“戦場並み”であると指摘。さらに、1人の教師のストレスは周りの教師にマイナスの影響を及ぼすことに加え、教育の質に対する深刻な打撃を意味すると警告しています。

異次元の少子化対策もいいけど、今を生きる子供のために「異次元の学校対策」を真剣に議論し、実行し、改善してほしいです。

みなさんのご意見お聞かせください。

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image by: akiyoko / Shutterstock.com

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米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
「自信はあるが、外からはどう見られているのか?」「自分の価値を上げたい」「心も体もコントロールしたい」「自己分析したい」「ニューストッピクスに反応できるスキルが欲しい」「とにかくモテたい」という方の参考になればと考えています。

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