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「上司の注意や指示に従わない社員」を“懲戒解雇”した結果

会社という組織には、能力や性格の異なるさまざまな人材が集まります。それが良い方向に働けば良いのですが、そう簡単にはいきません。中には、会社が定めたルールを守らない問題児社員がいるケースも……。今回の無料メルマガ『「黒い会社を白くする!」ゼッピン労務管理』の著者で特定社会保険労務士の小林一石さんが、上司の注意や指示に従わず懲戒解雇された社員と会社との、実際にあった裁判について紹介しています。

「暴言をはいて書類を破く」「上司の注意や指示に従わない」社員を懲戒解雇できるのか

先日、あるポッドキャスト番組を聴いていたときのことです。

その番組では2人の社長が社員について語っていました。

そこで「注意をされてそれを素直にきけない社員は伸びない(成長しない)よね」という話題になっていました。

素直さのかけらも無い新入社員だった私にはとても耳の痛い話ではありましたが、部署の責任者も経験した今となっては共感するところもあります。

みなさんの中にも同じように考える人もいるのではないでしょうか

確かにいますよね、注意をしても「言い訳する」「不貞腐れる」「他の人のせいにする」という社員。

私もその対応に非常に苦労した経験があります。

ただ、その社員にとっても言い分がある場合があります。

それについて裁判があります。

ある製薬会社で社員が能力不足や勤務態度が悪いことを理由として懲戒解雇されました。

それに納得がいかなかったその社員が会社を訴え、裁判になりました。

会社はその社員の態度の悪さを具体的に次のように主張しました。

・社内で有休取得のルールが決められているにも関わらず、そのルールに違反して有休を申請し、かつその申請した日に休んだ

・有休取得のルール違反について会社が警告書を渡したところ、暴言を吐いた上で、受け取った警告書をその場で破り捨てた

・上司が業務の引き継ぎを指示したにも関わらず、具体的な引き継ぎをすることに消極的な態度を示した

もしみなさんの部下がこのような行動をとったらどのように感じるでしょうか。

結構、大変なことになりそうですね。

では、この裁判はどうなったか。

会社が負けました。

まず「能力不足」については「そのような事実は無かった」と裁判所は判断しました(詳細は省略いたしますね)。

ではそれ以外の「勤務態度の悪さ」についてはどうか。

裁判所は以下のように判断をしました。

・警告書を破って捨てたり、引き継ぎに対して消極的な反応を示したことは、会社の指示命令に従わなければならない旨を定めた就業規則に抵触する言動であるといえる

ただし、です。

実はこの会社の就業規則では有給休暇の申請は「5営業日前までに行うこと」と記載がされていました。

そこで5営業日前までに申請していないため、会社は認めないと主張したわけです。

これに対して裁判所は

労働基準法は労働者が請求する時季に有給休暇を与えなければならない旨を定めている。したがって、会社の主張はその前提となる就業規則の定めがそもそも無効であるから、認めることはできない

と判断をしました。

その他の勤務態度についても以下のように判断しました。

警告書を破り捨てた点についてその態度に不相当な点は認められるものの、その警告書の内容が、有休を認めないという法律上許されない業務上の指示命令であるから、これをもって勤務態度が著しく不良であるとは言えない

引き継ぎに消極的な態度を示している点についても適切な態度とはいい難いが、法律に反して有休を認めないという書類を含め、多数の(理不尽な)注意書や警告書等を交付した後であったことを考えると会社による注意指導等の内容が不相当なものであったというほかなく、この後にこのような態度をとったとしても(この社員の)勤務態度が著しく不良であるとはいえない

つまり、「この社員の態度が悪かったことは事実ではあるが、ただ、そもそも会社の指示が悪かったのだから、そういう態度もしょうがないよね」ということです。

いかがでしょうか?

実は似たようなケースでご相談をいただくことが結構あります。例えばこんな感じです。

「遅刻したら1回につき¥5,000を天引きするルールにしているのですが、本人が拒否しています。懲戒処分にしても問題ないでしょうか?」

はい、もちろん問題ありです。

法律上、天引きできるとしたらその遅刻した時間分の給与か(1時間の遅刻であれば1時間分)もしくは、懲戒として減給の制裁(平均賃金の半日分)しかありません。

さらに、もし減給の制裁をするのであればその遅刻がそこまでの懲戒に値するかも検討する必要があります。

「¥5,000の天引き」がそもそも法律的に正しく無い場合は、それを拒否しているからと言って懲戒処分にすることはできません

また、今回の裁判例にもあった有休の申請についても「5営業日前まで」「1ヶ月前まで」「シフトが出る前まで」としている会社は多いと思います。これ自体は問題ありません。

ただ、もしそれらよりも後に申請があった場合に「認めない」とすることが認められるかは(なんか日本語がややこしくて恐縮です)状況にもよりますが、それが認められるケースは非常に稀でしょう。

まずは「その指示は(そもそも)正しいのか」を、考えることが必要かも知れませんね。

image by: Shutterstock.com

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【社員10人の会社を3年で100人にする成長型労務管理】 社員300名の中小企業での人事担当10年、現在は特定社会保険労務士として活動する筆者が労務管理のコツを「わかりやすさ」を重視してお伝えいたします。 その知識を「知っているだけ」で防げる労務トラブルはたくさんあります。逆に「知らなかった」だけで、容易に防げたはずの労務トラブルを発生させてしまうこともあります。 法律論だけでも建前論だけでもない、実務にそった内容のメルマガです。

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【著者】 特定社会保険労務士 小林一石 【発行周期】 ほぼ週刊

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