ITの進化により、世の中の様々なことに変化が起きていますが、企業が行う「マーケティング」も、従来のような方法では通用しなくなるそうです。メルマガ『理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】』の著者の理央さんが、これからの顧客インサイトの探り方、探り当てた顧客インサイトの活用術を紹介しています。
インサイトを探るターゲティング戦略~音楽・コミック・ゲームに学ぶ、ターゲット設定とセグメンテーションの、新しいアプローチ
伝統的なマーケティングでは、年齢や性別、職業といった、デモグラフィック情報や、住んでいる、または働いている場所や地域といった、ジオグラフィック情報を基に、顧客をセグメント(=切り分けて分類)し、それを合体させて、たとえば、「20歳代、都心に働くOL」といった具合に、塊としてターゲットを設定してきました。
そして、このターゲットに合わせて、製品やサービスを開発し提供してきました。
日経クロストレンドの6月26日に記事によると、ここのところ音楽やゲームの嗜好などの、エンタテイメント分野に特に、この年齢の壁が消失する「消齢化」の現象が起きています。
60代が若者向けの音楽を楽しむ、若者がクラシック音楽に興味を示す、といった上記の「目に見える」分け方だけでは、通用しなくなってきているのです。
なぜ「消齢化」が起きるのか?
この背景にある理由をいくつか挙げてみます。
1.技術の進化
デジタル技術が進化したことにより、企業は従来以上に詳細な顧客データを収集、分析することが可能になりました。
その結果、年齢や性別だけでなく、行動パターン、嗜好、価値観など、より深いレベルでのセグメンテーションが、可能になったのです。
2.個々の顧客へのパーソナライゼーションの需要
顧客は個々のニーズや関心に応じた、製品やサービスを求めており、一律のマーケティング戦略が通用しなりました。
個々の需要に対応していくための、パーソナライズされた体験を提供するには、顧客の深層心理や行動を理解することが必須です。
そのためには年齢や性別を超えた、より顧客心理を深堀するセグメンテーションが、必要となるためです。
3.消費者行動の変化
ITの進化にともなって、幅広い層の人たちが、いつでもどこででも情報に触れられるようになりました。音楽やゲームも同じことです。
これにともなって、年齢や性別が消費行動を左右することも減ってきました。このような消費行動の変化は、年齢や性別に基づくセグメンテーションの、有効性を減じる一因となっています。
以上のような理由から、企業はより細かいセグメンテーションや、パーソナライゼーションに向けてシフトしており、その結果、年齢や性別といった、伝統的なセグメンテーションの方法が消えつつあるのです。
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顧客インサイトの探り方:3つのステップ
顧客の心理や行動が、マーケティング活動に大きな影響を与えるため、ここのところ重要視されています。
しかし、年齢や地域と違い、インサイトと呼ばれる顧客の心理や行動は、目に見えないため、探り出しにくいことも事実です。
今号ではまず、どのようなことをして、この顧客インサイトを探り出すか、を考えていきます。
まずは、消費者の生活習慣の理解が挙げられます。年齢や性別だけでなく、消費者の趣味、価値観、ライフスタイルを理解したいところです。
自社が発信しているSNSの投稿やレビューサイトの意見、オンラインイベントやフォーラムの会話から、顧客や未顧客のふだんからの行動や傾向を探り、その生活スタイルを理解することが重要です。
マーケットリサーチも有効です。まずは年齢や性別、職業のセグメントでターゲット層を決め、その層にオンライン調査や、フォーカスグループでの深層インタビューなどを実施し、ターゲット層のニーズや欲求を、観察してみるのです。
特に、ターゲット層が欲しそうな、商品やサービスの使用経験について、それらが生活にどのような影響を与えるかを、どう使われているか、を探求します。
数字などのデータ分析も有効です。既存顧客の購買データや、Webサイトのユーザー行動データを分析することで、まずは既存顧客・ユーザーの行動パターンや嗜好を把握します。
ここから、ターゲット層がどのような、そしてどのように商品を購入し、どのようなコンテンツに反応するか、を洞察することができます。
もう1つ、エンパシーマップの利用を紹介します。
エンパシーマップとは、顧客の感情や思考、行動、疑問点などを、「見える化」する手法のことです。
このエンパシーマッピングは、ユーザーエクスペリエンス(UX)デザインや、ビジネス戦略を専門とするデザイン会社の、XPLANEの創設者である、Dave Grayによって考案されました。
開発されて以降、ユーザーまたは顧客の、思考や感情、行動、痛み、欲求を理解し、視覚化するための一般的なツールとして、UXデザイナーや製品開発チーム、マーケターだけでなく、ビジネスリーダーやエンタープライズ組織にも、広く利用されています。
エンパシーマッピングは、特定のユーザー群または顧客セグメントの視点から製品やサービスを見ることを可能にし、より効果的なビジネス戦略を策定するための深い洞察を提供します。
以下のようなステップでやってみるといいでしょう。
1.セグメントの選択
まず、エンパシーマッピングの対象となる、顧客セグメントやユーザーグループを選びます。いわゆるペルソナです。
2.エンパシーマップの作成
このペルソナのイラストや写真を中央に置き、その周囲に、「思考」「感じていること」「聞いていること」「見ていること」の、4つのセクションを置きます。
「ふだん行っていること」や、「面倒・苦痛に思っていること」「ニーズ」などのセクションを追加することもあります。
3.情報の収集
その顧客セグメントやユーザーグループが、何を思えてしているか、何を感じているか、何を見ているか、何を聞いているかについて、既存の調査データやインタビューの結果などから、情報を収集します。
4.情報の記入
収集した情報をそれぞれのセクションに記入します。ここではできる限り具体的に、事例や言葉のフレーズを入れ込みます。
5.洞察の発見
マップが完成したら、それを見てどのような洞察が得られるかを考えます。このときに、顧客が感じる苦痛や面倒さ、欲求や得る利益、感情、行動のパターンなど、心理的なことを基準にするといいでしょう。
カスタマージャーニーが、顧客のニーズ発見から購買までの、心の動きをマッピングするものだとしたら、このエンパシーマッピングは、その前段階で、顧客がどんなニーズをもっているか、どんなことを取り除きたいか、ふだん、何を大事に思っているのかを、探り出すツールと言えます。
マーケティングチームが、ユーザーの立場に立って思えることを助け、製品開発やサービス改善のための、新たな視点を提供する有効なツールです。
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顧客インサイトをビジネスにどう活かすか
これらの方法で探り出した顧客インサイトを、企業がどのように使っているかを考えてみましょう。
Amazon Primeのような、動画配信のコンテンツサイトでは、豊富なユーザーデータを活用して、個々の視聴者の好みを理解し、そのインサイトをもとに、パーソナライズされたコンテンツ推奨、いわゆるレコメンデーションを提供しています。
さらに、これらのインサイトは、新しいオリジナルコンテンツの制作にも役立てられており、視聴者の関心に合った作品開発にも反映しています。
これにより、ユーザー体験を大幅に向上させ、顧客ロイヤルティを強化しています。
音楽ストリーミングサービスのSpotifyでも、顧客データを活用してユーザー個々の音楽の嗜好を把握し、それに基づいた個別のプレイリストを作成しています。
リスニングデータを活用して、新しい音楽を発見しやすくする、「Discover Weekly」などの機能を提供しており、ユーザーから高い評価を得ています。
これらの企業は、データを通じて顧客インサイトを得ることで、個々の顧客のニーズに応える、パーソナライズされた体験を提供し、競争優位性を獲得しています。
これらの事例から、顧客インサイトの重要性と、それを効果的に利用することで、企業が得られる価値を理解できると思います。
今回は、BtoCの事例を多く出しましたが、顧客のニーズを把握して、自社の製品開発や、サービスの追加に、反映していくプロセスは共通しています。
ぜひ、1つでもやってみてください。
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