日付が入っていない書類を書いて突き返された経験、ありませんか?今回の無料メルマガ『「黒い会社を白くする!」ゼッピン労務管理』の著者で特定社会保険労務士の小林一石さんが、日付の入っていない退職届を出した社員が会社を訴えた裁判事例を紹介しています。
日付の入っていない退職届は無効か、有効か
人事の仕事は日付がややこしいです。
例えば、保険の取得日は雇用保険も社会保険も通常は入社日です。
ところが喪失日は雇用保険は退職日、社会保険も退職日、ではなく社会保険はその翌日です。
また、労使協定も通常は有効になるのは協定を結んだ日ですが36協定は労基署へ提出した日です。
さらに、私も社労士デビュー当時にほんの数回やってしまったことがありますが、日付を入れ忘れたりなんかすると当然ながら受け付けてももらえません(これは当然と言えば当然ですが)。
では、これが退職届だったらどうでしょうか。
それについて裁判があります。
ある素材メーカーの会社で、退職届を提出した社員が、その退職は無効であるとして会社を訴えました。
実はこの退職届には「退職の日付」が記載されていませんでした。
そこでこの社員は「退職希望日が明確で無い場合は、退職する意思を示す意思表示と法的に解釈することはできない」と主張したのです。
冒頭のような経験をしている(日付を入れ忘れて役所に受け付けてもらえなかった)私としてはわかるような気もします。
では、この裁判はどうなったか。
会社が勝ちました。
その理由は以下の通りです。
・(この社員が)退職の意思を撤回するかのような言動があったとしても、その時点では、すでに会社は退職を承諾し、しかもその承諾の意思表示が(この社員に)到達していた
・よってこの労働契約は既に合意解約によって終了したと認めることができる
一言で言うと「すでに(退職を)承諾しちゃったから撤回は無理」ということですね。
ここで実務的に注意すべきポイントが2点あります。
1点目は「退職に対する承諾」についてです。
退職を撤回できるかどうかではたくさんの裁判例がありますが、承諾前であれば「撤回できる」とされる場合が多いです。
また、その前にそもそも承諾が必要かという論点もあります。
よく言われるのが、退職届と退職願の違いです。
・退職届→承諾は不要退職届とは退職の意思を伝えるものなので提出時点で退職が成立するため不要
・退職願→承諾は必要退職願とは退職を会社に願い出るものなので会社の承諾が必要
ただ、実務的には、題名が退職届となっていても文章の内容が退職願のようになっているものもありますし、その逆もありますので一概にどちらとも言えないでしょう。
また、会社のフォーマットが退職届の内容になっていたら、すべて承諾は不要になってしまい、場合によっては社員にとって不利にもなることもあります。
よって、どのような内容であっても万が一の場合を考えると必ず承諾を出しておいたほうが良いでしょう。
2点目が「承諾を出すスピード」です。
今回の裁判例では撤回するより承諾が早かったことが会社に有利に判断されました。
これは非常に重要なポイントです。このようなケースではとにかくスピードが求められます。
この裁判例でも直属の上司が出張中だったためさらにその上の統括する上長からサインをもらうなどしています。
ここでもし「上司が出張から帰ってきたらサインをもらおう」なんて考えていたら間に合わなかった可能性もあります。
これも実務的には非常に大切なポイントですね。
退職届の提出日の翌日に退職を撤回、なんてことは普通に起こり得るからです。
そうなってから「昨日、承諾を出しておけば…」と言っても、すでに遅いのです。
退職は「承諾」と「スピード」を意識しておきたいですね。
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