会社で人と接する以上、コミュニケーション能力は多かれ少なかれ求められるのがビジネスパーソンというもの。今回の無料メルマガ『「黒い会社を白くする!」ゼッピン労務管理』の著者で特定社会保険労務士の小林一石さんが、 コミュ障状態の社員を解雇して会社が訴えられた事例を紹介。その裁判の判決とは?
「コミュ力不足で解雇」は認められるのか
私は基本的には人見知りです。
仕事でもプライベートでも人と会うことは多いですし、しかも初めての人と会う機会も結構あります。
ただ、人見知りなため大変なことも多いのです。
ずっと以前に、自分で申し込んだ交流会に会場まで行っておいて、なんとなく(人と会うのが苦手で)帰ってしまったこともあります。
最近だと、自分で企画した飲み会になんとなく「行きたくない」と感じたことまでありました(さすがにこの飲み会は行きましたが)。
そういう場に行くと誰とでも、気軽に、楽しそうに、うまくコミュニケーションをとっている人が必ず何人かいたりしますが、本当に羨ましくてたまりません。
このコミュニケーション力(いわゆる「コミュ力」)は交流会や飲み会に限らずですが会社でも当然ながら求められます。
では、逆にこのコミュ力があまりにも低い社員がいた場合、その社員を解雇にすることはできるのでしょうか。
それについて裁判があります。
ある金融会社で、中途採用で入社した社員が就業規則の解雇事由である「協調性を欠き、他の従業員の職務に支障をきたすとき」に該当するとして解雇されました。
これに納得がいかないとして解雇無効を主張してこの社員が会社を訴えたのです。
具体的には以下のような状況でした。
・(この社員は)他部署の社員を見下したような高圧的な態度を取ったり、上司ともトラブルを起こしていた
・他の社員との業務上のコミュニケーション等の関わり方に問題があることや、このままでは解雇になる可能性があることを
書面で伝えて、改善の機会を与えた
・その後も(この社員の)態度はさらに悪化し続け、部署内の人間関係を悪化させていったほか、勤務時間中にインターネットのサイトに業務と無関係の書き込みを繰り返していた
これはもう客観的にみると、いわゆる「コミュ障」状態ですね。
ではこの解雇は認められるのか?
認められました。
裁判所が認めた理由は以下の通りです。
・(この社員は)21年間にわたる銀行勤務の後に(この会社に)入社し、月額50万円近い給与をもらっていた。相応の経験を有する社会人として、自身で行動を規律する立場にあった
・他者とのコミュニケーションにて、感情を害するような言動を慎むことは改めて注意されなければ、分からない事柄ではない
・会社が実施していた面談は、何が問題であるのか、通常の理解力があれば容易に認識できる方法で注意や指導をしていたと認められる
いかがでしょうか?
言われてみれば極当たり前のことばかりですが、ポイントが実はもう一つありました。
それはこの会社で行っていた人事評価です。
この社員は人事評価では業績目標評価が107点で合格基準の100点を上回っていましたが、バリュー評価の平均が0.78点と合格基準の1.0を下回っていたのです。
この「業績目標評価」と「バリュー評価」とは何か?
ご存知の人も多いかも知れませんが、ざっくりお話すると、まず「業績目標評価」が、売上や契約数などの業績目標に対する評価です。
そして「バリュー評価」が会社が大切にしている行動規範や価値観に沿って行動できているかの評価です。
この社員は「バリュー評価」が非常に悪かったのです。
先ほどお伝えしたとおり最初の期が「0.78」、次の期のバリュー評価は「0.76」と下がり、その次の期にはさらに「0.73」まで下がりました。
各評価者のうち、他部署の社員からは
「人の意見を聞こうとしない」
「他人の意見を受け入れない」
「会社、他者に対する謙虚さはない」
とボロクソで、基準を満たす項目がひとつもありませんでした。
以上の事実が認定され、解雇が有効と認められる一つのポイントになったのです。
人事評価については私もご相談をいただくことが非常に多いですが、みなさんの会社ではどのように行っているでしょうか。
いざというときに解雇が認められるために人事評価をやったほうが良いとは言いませんが、定期的、客観的に評価をフィードバックすることは社員の成長にもつながります。
また、バリュー評価は会社と社員の価値観や方向性を合致させることで、組織力の強化や離職率の低下にもつながります。
今一度見直してみてはいかがでしょうか。
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