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米中対立で中国が戦略転換。見せつける「無視できない現実」とは

アメリカはイエレン財務長官に続いてケリー大統領特使を中国に派遣。さらにレモンド商務長官の訪中も調整されているとの報道に、両国関係の「雪解け」がささやかれています。しかし、長年続くアメリカの「言行不一致」を警戒する中国は、対話の裏側で封印してきた「反撃カード」の準備を整えていたようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』で、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂教授は、中国が希少金属の輸出規制を打ち出した背景を解説。中国の半導体産業だけにダメージを与えるのは難しいという現実を踏まえて、米中が取る今後の動きに注目しています。

米中関係のわずかな雪解けがささやかれる中で、習近平政権が具体化し始めた有人月探査プロジェクトと地球観測の重要性

ジャネット・イエレン米財務長官が訪中を終えて間もなく、今度はジョン・ケリー米大統領特使(気候変動問題担当)が中国訪問の準備をしているとブルームバーグが伝えた。

するとメディアは一斉に「米中間に対話のムード」、「協力再開」と報じ始めた。ケリーの次にはジーナ・レモンド米商務長官の訪中も取り沙汰され、中国商務部は「歓迎」のコメントで応じた。対話増進の流れは確かに米中間に生まれつつあるようだ。

だが米中関係の今後は、本メルマガでもずっと書いてきたように、すんなり「雪解け」へ向かうとは考えにくい。実際、イエレン訪中後、アメリカ国内ではイエレンに対する批判が噴出。国論が割れている現実を浮かび上がらせた。そもそも「反中」さえ叫べば手軽で無難に人気を獲得できるのだから、そんな旨味を政治家(これはメディアも専門家も同じ)が簡単に手放すはずはない。

もし彼らの目を覚まそうとすれば「無視できない現実」を見せつけること以外にない。そして中国はいま、話し合いによる進展に期待を寄せるよりも、むしろ対立をもてあそぶデメリットをアメリカ側にイメージさせる戦略へと傾き始めたようだ。

典型例が希少金属・ガリウムとゲルマニウムの輸出規制だ。かつての中国はトランプ大統領が対中制裁関税を発動すれば報復関税で応じてきたが、中国の半導体産業を狙い撃ちしたバイデン政権の輸出制限では防戦一方で、即座に対抗策を打ち出す姿勢は封印してきた。これを転換したのは、米半導体大手マイクロン・テクノロジーの製品を中国国内の重要インフラ事業者が調達することを禁止した5月21日からだ。アメリカのお株を奪う「安全保障上の懸念」を理由だった。

6月28日には中国全国人民代表大会常務委員会が「対外関係法」を可決。次いでガリウムとゲルマニウムの輸出規制が打ち出されるという流れだ。興味深いのは、これらの動きがアントニー・ブリンケン米国務長官やイエレン財務長官の訪中という、バイデン政権下でもとりわけ目を引く米中接近の動きの裏側で起きてきたという点だ。

習近平政権が「無視できない現実」を見せつけなければ米中関係は変わらないと考えていることが、ここからも読み取れる。では中国が考える「無視できない現実」とは具体的に何を指すのか。端的に言えばサプライチェーンを政治的に分断すれば、必ず混乱と損失がともない、どの国もその損失を免れないという現実だ。

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1983年、エコノミストのセオドア・レビットがハーバード・ビジネス・レビュー誌で「グローバル化」という表現を使用して以降、世界は急速につながり、貿易額も飛躍的に伸びた。そして中国がWTOに加盟し、その流れが加速されると同時に中国が世界のサプライチェーンのなかで果たす役割は飛躍的に拡大した。

市場原理と需給によって生まれた中国依存と複雑に入り組んだ相互依存関係のなかにあって、アメリカが中国の半導体産業だけにダメージを与えようとしても難しい。唯一、それを可能にするとすれば中国が本気で報復しないことだ。そのためには中国が報復を決意するギリギリまで攻撃しながら、一方では懐柔を試みる「調整」が必要だった。

この視点で見たとき米中の首脳会談や高官の訪中によって米中関係を安定させようとする行為は、中国に反撃カードを切らせないための懐柔策でしかない。実際、中国は会談で何を約束しても、それが実行されないことにヤキモキし「言動不一致」とアメリカを批判し続けた。

その意味で中国は「言葉でなく行動」でアメリカの意図を見極めようとし、訪問は歓迎しつつも、きっちりと報復の準備を整え始めたということだ。

さて、こうした事情を踏まえてケリー訪中を少し考えてみたいのだが、ケリーは気候変動問題担当の大統領特使である。米中対立が話題になるとメディアは必ず両国が協力できる分野として「気候変動問題」を取り上げる。これは一つには地球規模の問題だからという意味もあるが、一方では技術があるとされる。

気象の問題を俎上にのせれば、広大な国土と気象条件を備えた中国が蓄積できるデータは膨大で貴重だ。さらに経済力を背景に中国が世界各地で調査を行い積み上げてきたデータは有益で、正確な分析を試みようとすれば中国の協力は不可欠なのだ。

さらに航空宇宙分野での中国の存在感は圧倒的だ──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年7月16日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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