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「まるで漂流者みたい」日本の高齢者たちから自由を奪う、介護施設の“徹底監視”

世界有数の高齢化社会である我が国において、その役割の重要性がますます高まる介護施設。しかしながら施設における管理体制については議論の必要があるようです。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では健康社会学者の河合薫さんが、介護施設の3割が「見守りカメラ」を設置しているという調査結果と、施設に夫婦で入居中の友人から直接聞いたショッキングな実情を紹介。その上で、超高齢化社会との向き合い方について考える重要性を訴えています。

プロフィール河合薫かわいかおる
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

最後まで自分のことは自分でやりたい

人生の最終章は、「管理」を優先すべきか? 最後まで「自由」を尊重すべきなのか?

日本総合研究所は、介護施設の約3割が入所者の行動を遠隔で確認できる「見守りカメラ」を設置しているとする調査結果を公表しました。

5割以上の施設が「転落や転倒といった事故の検証や、検証に基づく事故の再発防止などに役立てられる」と回答。ある施設では、事故のたびに映像を確認し、原因や経緯を調べて対策を講じたところ、カメラ導入前より事故が約4割減ったそうです。

一方で、約3割が「プライバシーへの配慮が困難」と答え、導入に二の足を踏む施設側の苦悩も明らかになると共に、「想定より職員の負担が軽減されなかった」とする施設も21%に上ったそうです。

見守りカメラ設置については、「職員の虐待防止にも役立つ」「入所者の職員に対するハラスメントを防ぐことにもなる」という意見もありますので、おそらく今後は国がなんらかの指針を示することになるのでしょう。

確かに、介護施設側が懸念する最大のリスクは転倒です。以前、夫と二人で介護施設に入居中の知人が、ちょっとばかりショッキングな実情を話してくれたことがあります。

女性(当時87歳)の夫(90歳)は車椅子の生活を余儀なくされていたのですが、伝い歩きをすれば家の中は歩ける状態でした。ところが、施設では至るところに監視カメラが設置されていて、伝い歩きしてると「危ないですから歩くのをやめてください!」と警告アナウンスをされ、瞬く間に夫は全く歩けなくなってしまったそうです。

「『これで楽になりますね』って、施設のスタッフに言われました。とても一生懸命ケアしてくれる人だったんですけど、ついホンネが出ちゃったんでしょうね。ヨタヨタ歩かれて転倒でもしたら、責任を問われます。施設でいちばん恐いのは事故が起こって、訴訟問題や新聞沙汰になることなんですよ。

私は要支援2ですが、ハサミ、果物、ナイフ、針、ドライヤーなど刃物や電気製品の持ち込みはすべて禁止です。まるでロビンソンクルーソーみたいな生活で自由がない。人生最後なのに自由がないんです。これが果たして本人の幸せなんでしょうかね」

87歳の女性はこう嘆いていたのです。

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…管理か? それとも自由か? 施設にとって転倒による骨折や、誤嚥による誤嚥性肺炎は、命につながる問題なので、どうしたって神経質になる。女性が指摘するとおり、どんなに介護スタッフが「本人の自由」を尊重したところで、事故が起これば家族は騒ぎ立てます。

「見守りカメラ」は事故を未然に防ぐ手立ての一つになるかもしれません。しかし、管理より大切なのは、たとえ転んでも骨折や怪我につながらないようにする足腰のリハビリの徹底です。

実際、デンマークなどでは「リエイブルメント(Re-ablement、再び自分でできるようにする)」を根幹とする高齢者対策を徹底し、すべての地方自治体に高齢者へのリハビリ実施を義務付けています(重度で複雑な機能低下のある高齢者も含む)。

80歳以上の人たち全員を対象に「何も起きていなくても訪問する」という予防的な自宅訪問を実施しているのです。

その背景にあるのが「人は最後まで自分のことは自分でやりたい」という価値観の共有です。

「高齢者=ケアをされる人」ではなく、「人(高齢者を含む)=自分で決めたい」という人間の本性を尊重し、そのために必要なことは何か?何をすれば自分で決めらるのか?を、国民の一人一人が考えた結果としての高齢者対策が実現されているのです。

日本は超高齢社会とどう向き合っているのか? これからどう向き合おうとしているのか? 日本が人生の最終章で、大切にする価値観とは何か?

超高齢社会のトップランナーとしての「日本の介護」のあり方に、世界中の国々は注目しています。管理か? 自由か? 自由を担保するには、何が必要で、どこまでの自由なら許されるのか? という大きな視点で、見守りカメラについても議論を進めてほしいです。

みなさんのご意見、お聞かせください。

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image by : Shutterstock.com

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米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
「自信はあるが、外からはどう見られているのか?」「自分の価値を上げたい」「心も体もコントロールしたい」「自己分析したい」「ニューストッピクスに反応できるスキルが欲しい」「とにかくモテたい」という方の参考になればと考えています。

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【著者】 河合 薫 【月額】 ¥550/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 水曜日(祝祭日・年末年始を除く) 発行予定

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