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元お天気お姉さんが解説。なぜ台風は「強く、遅く」なったのか?

沖縄や九州に長く影響を及ぼした台風6号に続き、時速10kmから15kmほどで移動を続けた台風7号が日本を襲い、お盆の列島は大混乱となりました。どちらの台風も速度が遅く、勢力をあまり落とさず異例のコースを辿りましたが、こうした傾向は今後も続きそうです。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では、気象予報士で『ニュースステーション』のお天気キャスターを務めていた河合薫さんが、迷走する台風が増えている理由を説明。地球温暖化の進行で、台風の威力がますます強くなることを覚悟して、「早めの避難」などの対策が必要になると伝えています。

台風は強くて、遅くて、長くなる?

台風7号が予想よりも遅く、西側にずれてゆっくりと日本列島を北上しましたが、みなさんご無事だったでしょうか?本メルマガでは温暖化や環境問題にも度々言及していますが、今回は「台風と温暖化」についてあれこれお話しします。

ご承知のとおり私は元お天気ねーさんです。そんな私が台風の異変を最初に感じたのは、2002年以降だったと記憶しています。番組に出演する間際まで台風の位置や周辺の雨雲、風速などをチェックするのですが、関東沖に接近した台風の雨雲の美しさに驚愕したのです。

「美しい」などという表現は適切ではないかもしれません。でも、やはり美しかった。なにせ気象図鑑などで見た「レインバンド」がくっきりはっきりとレーダーにうつっていたのです。

レインバンドとは、台風の中心に向かって伸びる積乱雲の列の呼び名で、スパイラルバンドと呼ばれることもある「渦を巻くような雲列」のこと。みなさんも日本列島から離れた海上で気象衛生が捉えた画像で、「台風の目」がくっきりと見えるのをテレビなどで見たことはあると思います。

台風の目がはっきりしているのは、遠心力によって中心に風が吹き込めなくなっている状態です。この時、台風の目の周りをぐるぐると取り巻くようにできるのが、レインバンドです。

台風を発達させるのは海上の水蒸気です。台風は水温が27度近くないと発生しません。一方で、水温は日本列島に近づくにつれ低下します。それは台風のガソリン=水蒸気が減ることを意味します。台風の元気がなくなれば、中心付近の風も弱まり目がはっきりしなくなる。目の周りのレインバンドも崩れた形になる、が「それまでの普通」でした。

ところが、その時のレーダー画面には、全く雲のない「台風の目」の周りを、きれいな隊列をなした雲が何重にもわたってうつっていました。当時は勢力の強い台風が接近すると「戦後最大級の~」という言葉が使われていましたが、その時も「戦後最大級の台風が関東に上陸する予想」になっていました。

レインバンドが明瞭ということは、台風の中心気圧も低いし風も強い。豪雨に加えて突風など風の被害も出る。実際、その時はかなりの突風が都内でも吹き荒れ、外から中継するのも怖かったです。

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日本に接近する台風の強度が高まってることは、気象研究所の分析でも明らかにされています。1980年~1999年と2000年~2019年に日本列島に接近した台風を比較した結果、中心気圧が980ヘクトパスカル以下で接近する台風は2.5倍に。さらに、太平洋岸に接近する台風は1.52倍に増えていました。

日本列島の太平洋岸の水温が上昇していることと、日本の夏の天気の主役の太平洋高気圧の張り出しが強まっていることが、大きな理由です。

台風は猛烈なエネルギーを持っているのに、自分だけで動くのはめちゃくちゃ苦手です。スピードを出すには太平洋高気圧の縁を回るか、偏西風に乗るかの二択のみ。どちらも近くになければ、ふらふらと迷走するしかないのです。

一方で、日本に上陸したあとは通常でしたら偏西風に乗るため、猛烈にスピードアップするのが「それまでの普通」でした。が、2000年代に入ってから温暖化の影響で、偏西風は北上。日本列島に上陸しても偏西風に届きません。最近の台風の動きが鈍いのは、このためです。2019年10月に東日本に大きな被害をもたらした台風19号の平均速度も、平年値より約4割遅くなっていました。

また、気象研究所などの研究グループが、多数の数値シミュレーションを用いて、地球温暖化に伴う台風の移動速度の将来変化を予測したところ、今世紀末には、日本の位置する中緯度を通過する台風の移動速度が、約10%遅くなることがわかったとする論文が、国際的科学誌「Nature Communications」に掲載されています。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書等でも、地球温暖化の進行とともに、台風の最大風速や降水量が強まる可能性が高いことが示されています。つまり、どこからどう考えても、台風は危険になる。「見たことがない!」レベルが相次ぐようになり、雨の量も、風の強さも、私たちの想定を超える危険なものになってしまうのです。

台風の季節は10月まで続きます。今後、台風の接近・上陸が予想される時は、「迷わず、早めの避難」を徹底してください。みなさんの台風の経験談などありましたら。お聞かせください。

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image by:STWangPhoto/Shutterstock.com

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米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
「自信はあるが、外からはどう見られているのか?」「自分の価値を上げたい」「心も体もコントロールしたい」「自己分析したい」「ニューストッピクスに反応できるスキルが欲しい」「とにかくモテたい」という方の参考になればと考えています。

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