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恒大の次は碧桂園ショック?中国不動産の“出血”が想定より多量になったワケ

恒大集団の破産申請や若年層の失業率の悪化など、中国の苦境を伝えるニュースに、なぜか喜色を滲ませる日本人。「中国も日本の『失われた30年』を歩み始めた」などの声に、「それは早計」と冷静な分析を展開するのは、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授です。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、中国政府による不動産業界へのテコ入れの背景と想定以上の“出血”となった理由や、“大卒”若年層の失業率と人手不足のミスマッチを指摘。IT化に遅れた日本のバブル後との違いについては、EVを筆頭に最先端分野での躍進があると伝えています。

不動産業界の不振と若年層の失業。加えて対米輸出で首位陥落の中国の現状は、日本の「失われた30年」の入り口なのか

日本では再び「中国経済大崩壊」の声がかまびすしい。もともと日本人はこの話題が大好物だが、今月発表された中国の経済統計が振るわず、20%を超えるとされる若者の失業率の発表を、当局が「一時的に停止」したことで「ヤバい」という空気が広がった。これに不動産大手の経営不振のニュースが追い打ちをかけたという流れである。

巨額の債務を抱えてデフォルト(債務不履行)に陥っていた中国不動産開発大手の恒大集団(エバーグランデ・グループ)が、アメリカの連邦破産法15条の適用を申請したのに続き、売上高基準で中国最大の不動産開発企業である碧桂園(カントリーガーデン)も外貨建て社債の利払いを実行できず、国内債券の取引を停止した。

伸び悩む輸出では、ついにアメリカ向けで「15年ぶりに首位から陥落」したというニュースも駆けめぐった。確かに悪い話ばかりで発足したての中国の新政権には、まさに踏んだり蹴ったりの状況だ。

アメリカのウォリー・アデエモ米財務副長官は8月16日、「中国の経済問題は米国と世界経済にとって逆風」としたうえで、それは「自らの政策選択が招いた結果」と批判。逆にアメリカの経済成長を「われわれが行った『政策選択』によるもの」と誇ってみせた。

ただ本メルマガの読者ならば既知のことだが、それぞれの問題について細かく見て判断しなければ、実態との乖離は避けられない。例えば若年層の失業率の高さだ。これは、単純に仕事がないという話ではなく、大卒が増えすぎたことが主な原因だ。つまり教育投資に見合う仕事が見つからないというミスマッチの悩みである。だから深刻ではないとはいわないが、「大卒インフレ」の裏では人手不足も起きている点を忘れてはならない。

同じように不動産業界も、現在多くの企業が債務問題を抱えて苦しむ一方、その根底に政策の変更が作用したことは見逃してはならない。2020年、価格高騰が止まらない不動産市場を懸念した中国政府が、3つレッドラインを設けて融資のハードルを上げ、資金の逼迫を引き起こしたのである。

政策として意図的に冷や水を浴びせかけた背景には、富裕層以外に手が届かなくなった不動産市場のいびつな盛り上がりがあった。政府は、これを放置してバブルを膨らませる「危機の先送り」よりも、早めの対策を打つ必要に迫られていた。そして同時に不動産がけん引する経済発展の体質からも脱却できれば、言うことはなかったはずだ。だが現状を見る限り、当初描いた絵のようには事は進んでいないようだ。不動産業界の流す血は思いのほか「多量」だ。その一因には「コロナ余波」があるとされる。

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いまの中国経済を、かつての日本と比べるのは早計

中国経済はいま、一時の勢いを失い、全体的にどんよりとした空気に包まれている。それは中国人が少なくとも以前ほど自らの未来を信じられていないからで、財布の紐も硬い。コロナから体調が戻りきらないなかでの米中対立や長期的な展望を曇らせる未来の人口減少や高齢化という悩みもある。ネットではいま「中国も日本の『失われた30年』と同じ道を歩み始めた」との議論も盛んだ。

だが、かつての日本と比べるのは早計だ。バブル崩壊の後にIT化の波に乗り遅れた日本とは違い、強い産業が多く育ち、技術革新も凄まじい勢いで進んでいる。象徴的なのは電気自動車(EV)だ。今年から日本を抜いて最大の自動車輸出国になった。今後世界の自動車市場がEVへと向かうなかで、車載電池から資源まで圧倒的な強みを持つ中国が、その地位を固めてゆくことは間違いない。

ITではアリババ、テンセント、バイドゥなど巨人がそろい、ファーウェイ、OPPOに代表される通信分野での存在感はいまさら言うまでもない。そして太陽光発電や風力発電など新エネルギー分野では、発電量だけでなく設備の製造輸出でもシェアを拡大し続けている。加えてドローン、造船、海運、宇宙産業、ロボット、量子コンピュータから農業まで、躍進の話題には事欠かない。

問題があるとすれば、こうした分野の多くを国有セクターが担っている点だ。停滞気味の製造業や不動産業などオールドエコノミーの領域には民間企業が多く、典型的な国進民退の傾向を示している。そうであれば当然、富の偏在が起き、「共同富裕」をどう実現するのかが次の課題となる。この問題は若年層の失業率の問題と密接にリンクし、いうまでもなく学生は国有企業に殺到している。

最後に対米輸出での「首位陥落」問題だ。2023年1~6月、アメリカの中国からの輸入(モノ)は2029億ドルと前年同期比で約25%も減少。輸入額全体に占める割合も13.3%と中国に代わりトップとなったメキシコ(15.5%)との差が顕著となった。中国はカナダにも抜かれ3位となった。

だが、これを中国の対外貿易の弱さや米中対立から説明することは正しくない──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年8月20日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by:michaelshawn/Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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