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老後の沙汰もカネ次第。現代の「姥捨山」に放り込まれる貧困老人たちの恐ろしい実態

加速化する高齢化社会にあって、大きな役割を果たす老人介護施設。しかしその倒産件数がうなぎのぼりに上昇している現実をご存知でしょうか。今回のメルマガ『神樹兵輔の衰退ニッポンの暗黒地図──政治・経済・社会・マネー・投資の闇をえぐる!』では投資コンサルタント&マネーアナリストの神樹さんが、昨年には過去最高の143施設を超えるなど、右肩上がりで老人介護施設の倒産が増え続けている現状を紹介。さらに「老後の沙汰もカネ次第」としか言いようのないこの国の惨状を解説しています。

次々と倒産する老人介護施設。日本の高齢者を襲う住処もカネも失う「老後地獄」

日本人の現在の健康寿命は、男性が約73歳(72.68歳)、女性が約75歳(75.38歳)です。

健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定義されています。

そして、この年齢に到達すると、同年代のほぼ半数の人が、何らかの健康上の問題を抱えることを意味しています(残りの半分はまだ健康)。

つまり、男性の平均寿命81.47歳、女性の平均寿命87.57歳まで、男性は8.79年、女性は12.19年の間があり、人によってその差はいろいろですが、健康ではない状態で生活していく可能性が高くなる──と概ね考えられるのです。

ちなみに、平均寿命とは、同年代のほぼ半数が死亡する年齢ととらえていただいてよいでしょう。

つまり、死ぬ間際までとても健康だった──という人は非常に少ないのです。

ピンピンコロリ――と死ぬのが誰しもの理想ですが、なかなかそういうわけにはいかないのです。

小規模な老人介護事業者ほどカンタンに倒産する!

老人介護施設にはいろいろあります。

大きく分けると、公的施設と民間施設になります。

それぞれを分類すると、概ね8類型となります。

民間施設では、「介護付き有料老人ホーム」「住宅型有料老人ホーム」「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」「グループホーム」です。

そして、民間と公的の両方にあるのが「ケアハウス」になります。

なお、公的施設では、「特別養護老人ホーム(特養)」「介護老人保健施設」「介護医療院(介護療養型医療施設)」などがあります。

ところで、こうした老人介護施設の倒産が年々多くなっています。もちろん、潰れるのは民間施 のほうです。

東京商工リサーチによれば、2012年までの倒産施設数は、年間50施設に満たなかったものの、2013年からは、年間50施設を超え、2016年からは100施設を超え、2022年には143施設と過去最高の倒産件数になっています。

しかも、この件数は右肩上がりなので、今後が懸念されます。

倒産で最も多いのは、訪問介護事業で49%、通所・短期入所介護事業で35%、有料老人ホームで8.4%、その他で8.4%となっています。

倒産の理由は、販売不振が58%、他社倒産の余波が21%、放漫経営が7%、赤字累積が6%、過大な設備投資が5%などとなっています。

コロナ禍による一時的な利用者減少、人手不足や物価高騰などもあって、小規模事業者に倒産件数が多くなっていますが、大手のチェーンにもその影響は及んでおり、赤字経営に陥るところも増えているのです。

老人介護サービスは、あらかじめ介護保険制度でサービス単価が決められているため、自由に値上げすることもままなりません。

ゆえに経営が慢性的に苦しいところは、つねに赤字が累積し、ちょっとした環境の変化でも倒産しやすいのです。

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サラリーマンだった夫婦は年金が足りず、老後になっても民間の有料老人ホームには「費用の問題」で入所できない!

ところで、無職の65歳以上高齢者夫婦世帯の平均年金受給額は、約19.6万円です。世帯で20万円弱なのです。

そして、夫婦2人の貯蓄が1,000万円未満という世帯が半数を占めています。

この19.6万円の内訳は、夫の基礎年金約5.6万円と厚生年金約9万円の合計額で約14.6万円、これに専業主婦だった妻の基礎年金約5万円が加わったものになっています。

いっぽう、これとは異なり、共働きだった夫婦の場合では、平均年金受給額は、約27万円になります。妻の厚生年金分が上乗せされるからです。

これらのデータは、いずれも現役時代に平均的給与を受け取っていた場合における65歳以上高齢者夫婦世帯の平均受給額です。

こうした年金受給レベルのケースで考えると、夫婦の一方が要介護になっても、そうそう有料老人ホームに入所するわけにはいかないでしょう。

現在、費用が安い公的な介護保険施設の「特別養護老人ホーム」は、全国に約9,700施設ありますが、入居は数年待ちです。

費用は一番高いユニット型個室でも月額6万円前後で非常にリーズナブルですし、入所一時金(入居一時金)もありません。

こうした安い公的施設が当てにならないと、頼れるのは民間施設しかありません。

そして、リーズナブルな民間施設でも、都市部では月額20~25万円程度の費用がかかりますから、在宅での介護サービスを選ぶしかなくなります(地方なら15~20万円前後もある)。

しかし、これでは家族の日々の生活にも、さまざまな精神的、肉体的負担がかかることでしょう。

80代で有料老人ホームに入って「ほぼ死ぬまで」の期間はたったの3年2カ月!

ただし、実際には、介護付有料老人ホームに入所する人の年齢は、男女ともに80歳代前半以上の人が大半となっています。

60代や70代で入所するのは、よほどのお金持ちしかいないのです。

つまり、よほど要介護度が高くならないと、介護付有料老人ホームに入所することはなく、「在宅介護」が行われ、自宅において家族の負担が強いられるケースが一般的なのです。

しかも、介護付有料老人ホームの入所平均日数は、1,164日(約3年2カ月)で、退所理由は死亡が半分、次いで家庭復帰が14%、入院が約10%などとなっています。

死亡が、入所中なのか入院中なのか、在宅中なのかは、はっきりしませんが、現状は介護施設での看取りが少ない──ということを鑑みると、重篤な症状となってはじめて、病院や自宅で亡くなるケースが多いようです。

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身寄りもなく貯蓄もない独居高齢者は、生活保護受給で「無届け介護施設」を頼るしかない!

それでは、年金も乏しく、身寄りもなく、貯蓄もない独居老人は、要介護の身の上になったら、どうなるのでしょうか。

最後の頼みの綱である「生活保護」で、不足する資金を賄っていくよりありません。

東京23区の場合、単身の高齢者は、最高で月額13万580円が最低生活費(生活費と住居費)ですから、介護が必要になった場合には、この範囲内の施設を探すしかありません。

当然ですが、公的施設の特別養護老人ホームには、要介護3以上なら入れるものの、前述の通り、つねに入所待ちで簡単には入れません。

特別養護老人ホームなら、最高でも月額6万円前後と費用が安いので、生活保護費の範囲内でも十分入所が可能です。

しかし、特別養護老人ホームには、簡単に入れないわけですから、そうなると介護を他人に委ねる形式では、貧困ビジネスの「無届介護施設」に入るしか方法がありません。

こういった施設なら、1人10万円以内でも入所が可能ですが、安い施設は、防火設備もなく、中には大部屋に布団を敷いて雑魚寝させる──といった信じられないほど不潔で劣悪な環境の施設もあるのです。

しかも、スタッフが少ないので、ロクな介護も期待できません。

要するに、これらは、タダのカネ儲けのための民間施設にすぎないからなのです。

厚労省によれば、2016年当時は無届介護施設が全国に1,207施設もあったのですが、近年は減少したものの、2022年6月時点でも626件(老人介護施設全体の3.8%)もあるといいます。

なぜ無届けで老人介護施設を運営するのかといえば、楽して儲かるからなのです。

「無届介護施設」が「必要悪」という日本の現実!

自治体に届け出て、新たに老人介護施設を開設するとなると、入居者の居住スペースや防火管理体制(スプリンクラー設置など)、介護スタッフ数などを厳しく規制されます。

しかし無届けなら、施設にカネをかけずとも、手っ取り早くベッドを並べるだけで商売が始められてしまうからなのです。

なんといっても、格安の「無届介護施設」の社会的ニーズはとても高いからです。

お金のない高齢者、生活保護受給の高齢者にとっては、願ったりかなったりの施設だからなのです。

なにしろ、費用は、公的な「特養」並みに近づけて、月額10万円以下の7万円、8万円に設定していても、手抜き設備と人件費圧縮でカンタンに儲かります。食事は安い弁当でもすませられます。

ゆえに、建設会社や土木工事会社、警備会社などの異業種が、建物の1階に訪問介護事業所を設け、その事業所の上階にベッドを並べて老人を入居させ、訪問介護の形態で「無届介護施設」を運営するケースが多いのです。

あるいは、ちょっと設備を加えて、小綺麗な施設に見せかければ、自治体への「届け出施設」と同様に「入所一時金」だって、預かることが可能になります。

入所一時金を低額の100万円や200万円に設定し、徴収しておけば、80歳以上の高齢者は、平均入所日数が1,164日(約3年2カ月)で死亡するか病院送りになりますから、「5年償却の入所一時金」であっても、入所時の初期償却で30%程度を丸取りしておけば、退所でもほとんど返却する必要もなくなるからです(厳密には入所90日以内はクーリングオフが適用できるので、初期償却も認められない)。

こんなところでも、行政当局は、身寄りのない、要介護の独居老人に対しては、生活保護を付けて、こういう施設への斡旋をガンガン行っているのです。

「無届介護施設」であっても、「必要悪」として、行政も半分だけ目をつぶらざるを得ない状況だからです(2018年4月からはこうした施設にも行政指導だけでなく事業停止命令も出せるようになったが、黙認も多い)。

安楽な老後も、カネ次第なのです。

つまり、行政も扱いに困って、「臭いものにはフタの厄介払い」方式で、こうした貧困ビジネスが繁盛することの「手助け」に回っているのが現状なのです。

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早期退所や倒産でも「入所一時金」が戻らないケースもある!

ところで、民間でもリーズナブルな老人介護施設では、入所一時金をゼロ円にしているところが多くなっています。

この業界は、数千万円にものぼる超高額の入所一時金を預かるところと、100~200万円程度に抑えるところ、まったくゼロ円にするところと、3パターンに分かれています。

入所一時金とは、家賃の前払いの意味合いでの預り金のことです。

老人介護施設では、償却期間を5年程度にしているところが多く、「住宅型」や「ヘルシー型」施設の場合は、15年前後の償却期間をとるところが多いでしょう。

昔は、1,000万円の入所一時金を預かって入所させた高齢者がたった1カ月で亡くなり、遺族から入所一時金を全額返せ、いや3分の1しか返せない──といったトラブルが非常に多かったのです。

しかし、老人福祉法の2006年と2017年の改正に基づく段階的規制によって、現在では、すべての老人介護施設の入所一時金の保全措置を講ずることが義務化されています。

ゆえに、施設の規約においても、きっちり初期償却の方法や計算(初期償却のない施設もある)や償却方法(定額償却と低率償却)や期間を明示しなければならなくなっています。

また、入所一時金の他に「礼金」「権利金」「保証金」など、いかなる名目でもカネを得てはいけないことになっています。

しかしながら、こうした老人介護施設では、入所一時金の保全措置を講じていないところも少なくないのです。

2018年までの厚労省の調べでは、老人介護施設のなんと50件に1件の施設が保全措置を講じていなかったのです。

厚労省も舐められたものです。

これについても、その後の法改正で、最大500万円までの未償却分の保証が義務化されましたが、数千万円の入所一時金を払い、まだまだ多額の未償却分が残ったケースについては、ほったらかしなので、それについての保障は目も当てられません(こういう問題のレアケースはもともと金持ち老人だからスルーされている)。

カネがなければ「地獄の老後」という日本の未来!

そうはいっても、高齢者が死亡や入院などで、早期に退所することになった状況で、事業者がお金を返せないというケースも実際あるのです。倒産寸前では、カネがあちこちに消えます。

いざ、裁判所に破産措置が講じられたら、一般企業の破綻と同じで、かろうじて残った財産から、債権額に応じた按分弁済しか認められなくなるのは必定でしょう。

おまけに、倒産などの場合は、施設の建物を撤去する契約が地主と結ばれていた場合などでは、当然入居の高齢者は追い出されてしまいます。

老い先短いのに、住むところもない、カネも戻ってこない──という地獄の状況に直面するケースも実際あるのです。

むしろ、こういう事態は、これから増えていくでしょう。

こうした事態に直面しないためにも、老人介護事業者の実績や自治体の評価なども併せて慎重にチェックして、有料老人ホームを選ぶしかないのです。

まさしく自力救済するしか道はないのです。

いずれにしろ「老後の沙汰もカネ次第」という、切ない世の中に他ならないわけです。

年金を減額するしかない未来の日本の前途は暗澹としています。これが少子高齢化の帰結です。

少子高齢化を放置してきた世襲・反日・売国政党の自民党政権を支持し続けてきた日本国民の自業自得といえるでしょう。

今回はここまでといたします。

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投資コンサルタント&マネーアナリスト。富裕層向けに「海外投資懇話会」を主宰し、金融・為替・不動産投資情報を提供。著書に『眠れなくなるほど面白い 図解 経済の話』 『面白いほどよくわかる最新経済のしくみ』(日本文芸社)、『経済のカラクリ』 (祥伝社)、『見るだけでわかるピケティ超図解――21世紀の資本完全マスター』 (フォレスト出版)、『知らないとソンする! 価格と儲けのカラクリ』(高橋書店)など著書多数。

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【著者】 神樹兵輔 【月額】 ¥660/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週月曜日

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