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汚職撲滅という「反腐敗」を利用。習近平が“徹底的な破壊”を呼びかける「壁」とは

習近平政権が強力に推し進める反腐敗運動。現在は金融業界への汚職取締が強化されていますが、彼らの真の狙いは別のところにあるようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、著者で多くの中国関連書籍を執筆している拓殖大学教授の富坂聰さんが、習政権が反腐敗を利用し徹底的な破壊に取り組んでいる「壁」の存在を紹介。中国で進む「表と裏からの大手術」を解説しています。

うっすらと見えてきた経済債権の道筋。「反腐敗」利用で習近平が目指すその先

汚職撲滅は習近平政権が掲げた「一丁目一番地」の政策だが、この看板はいまだ健在だ。

シンガポールのテレビCNAは10月17日の『アジアン・ニュース』のなかで「中国は金融業界への汚職取り締まりを強化しています」として、当局が元中国銀行会長の劉連舸を収賄と違法な融資の容疑で逮捕したことを伝えた。

実際、こうした動きは挙げればきりがない。11月4日、『中国新聞ネット』は「3人の『内鬼』、検査される」と、規律検査委員会の組織内部に腐敗が広がっていたことを報じた。この前日には、「王桂芝 長期にわたり『二面派(表と裏の顔を使い分ける)』を続けてきた」というタイトルで、やはり「内鬼」問題に焦点を当てた。

共通しているのは、いずれも国有企業、とくに銀行などとの間を行ったり来たりした経歴のある人物という点だ。

4日には元中国工商銀行副行長の張紅力が規律検査の対象になったことも報じられた。まさに、CNAが指摘したように、中国は「金融業界への汚職取り締まりを強化している」のである。

当局がいま金融業界をターゲットに取り締まりを強化しているのは、単純な「反腐敗」キャンペーンのためではない。背景には金融行政に対する党中央の不満がある。これは「中央の意図が正しく反映できる体制ではない」、もっとわかりやすく言えば途中で大穴が開いていて、水(資金)が末端に届く前にほとんどなくなってしまうことを問題視していると考えられているのだ。

10月30日から二日間の日程で開催された中央金融工作会議(以下、会議)は、その習指導部の不満が如実に表れた会議だった。内容を伝えたメディアは、「(金融業界への)党の指導を強化し、地方債務リスクを抑制する取り組みを加速させる」と一斉に報じた。

ただ、会議の目的は言うまでもなく「国内の金融発展と次のステージへの改革の方向性を示す」ことだった。問題の摘出よりも、「先進的な金融国家を構築するため」の方策が話し合われた。

経済大国を築くためには「金融大国を築かなければならない」という党の危機感を背景に、「今後の国の競争力を支え、経済社会の発展に質の高いサービスを提供するために『テクノロジー金融』、『グリーン金融』、『包摂金融(インクルーシブ・ファイナンス)』、『シルバー金融』、『デジタル金融』の五つを重視する方向が示されたのだ。

金融監督管理の強化や金融体制の整備、金融サービスの最適化に加え金融リスクの解決という四つのポイントも指摘された。

四つのポイントにおける注目点は、「債務リスク」だ。リスクが「地域間、市場間、国境を越えて拡大することを防止」する必要性が強調され、そのためには「地方の債務リスクを防止する長期的なメカニズムの構築」を図らなければならないと指摘された。

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習政権が反腐敗を利用し破壊を呼びかける「抵抗の壁」

上海の衛星テレビ・東方衛視の番組『東方新聞』は、11月1日の放送で、債務リスクにフォーカス。前回の第5回会議(2017年に開催)と比較し、「(前回は)地方の債務について、『地方政府の債務増加を厳しく抑え、責任を徹底追及する』とだけ記していたのだが、今回の会議では、『債務増加の抑制に加え、債務の解消』という一言が加えられた」と報じた。

地方債務がこれ以上増えないようにするという段階から、債務を整理してゆくことがきちんと打ち出されたのだが、これは要するに「債務が解消されるのと同時に新規債務が増加すること防ぐこと」の意味だという。

番組に登場した専門家は、「(地方債務の整理とは)何のための債務だったのか。その融資は本来の目的を達成できたのか。精査した結果が悪ければ、その資金は元々どのようにもたらされたのかを調べなければならない。金融システムの抜け穴の問題も重要だ。メカニズムの構築では、そういった問題の発生源をきちんと突き止め、金融制度、金融監督を全面的に強化すべき」(張立群国務院発展研究中心研究院)だと指摘した。

あたかも規律検査の話題のように聞こえるのは、整理ではなく整頓を意味しているからだ。

同じように会議を取上げた中国中央テレビ(CCTV)『朝間天下』(10月2日)は、五つの方針のうち包摂金融(インクルーシブ・ファイナンス)に注目。番組のなかで「包摂金融を推進し、とくに農家や個人事業者への取り組みを強化」と語った農業銀行責任者の言葉を紹介。同時に中国の零細企業に対する融資残高が5年連続で25%を上回って伸びていると強調した。

中国がこうした報道をするのは、現実には中小零細企業への融資に高いハードルがあり、滞っている場合が多い。党は「その壁を壊せ」と呼び掛けているのだ。

農村、中小零細企業の育成につながる「普恵金融」については、10月12日にも国務院がわざわざ「普恵金融の質の高い発展の推進に関する実施意見」を出している。背景に「政策不出中南海」(政策が地方に向かうたびに捻じ曲がる)問題があることをうかがわせるのだ。

実は冒頭の話題はここにつながる。会議で打ち出された方針を貫くためには、金融界に蔓延る「抵抗の壁」を破壊しなければならない。習政権が利用するのが反腐敗なのだ。

前述したCNAが伝えたように、中国は「2021年末から金融業界への取り締まりを強化」し、その勢いは「今年に入って少なくとも108人の銀行関係者が取り調べを受けた」というほど強烈だ。

かつて習近平は国有企業改革、軍事改革の前に規律検査委員会を総動員して徹底的に汚職を取り締まり、組織の抵抗力を奪った。

つまり習政権はいま、何としても党中央が望む方向に資金を流したいのである。

経済の荒治療の一方では推進力の確保も進められている。

習政権はいま経済のけん引役として再び上海・長江デルタの力を頼りにし始めたようだ。長江デルタ発展である。これは広東・香港・マカオグレートベイエリア粤港澳大湾区)計画、京津冀(北京、天津、河北省)地域の共同発展と並んで中国経済の中長期の発展を支える巨大プロジェクトの一つだ。

10月12日、江西省南昌市で長江経済ベルトの質の高い発展のさらなる推進に関する座談会も招集された。

座談会には習近平を筆頭に党中央政治局常務委員から李強首相、序列5位の蔡奇、副総理の丁薛祥が参加。また経済担当を劉鶴から引き継いだ何立峰政治局委員とその部下の鄭柵潔発展改革委員会主任、さらに次世代のエース級とされる重慶市の袁家軍書記、江西省の尹弘書記、上海市の陳吉寧書記という豪華なメンバーが顔をそろえた。

表と裏からの大手術が始まっている──(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年11月5日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by: 360b / Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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