全国的に流行が見られ、12月1日の厚労相の発表では、47都道府県の半数の地域で定点当たり患者報告数が30人を超える「警報」レベルとなっているインフルエンザ。インフルエンザといえば高熱がつきものですが、解熱剤の服用に当たっては細心の注意が必要なようです。今回のメルマガ『糖尿病・ダイエットに!ドクター江部の糖質オフ!健康ライフ』では現役医師の江部康二先生が、インフルエンザ罹患時に使用していい解熱剤を紹介するとともに、それ以外の解熱剤を使用した際に起こりうる症状について解説しています。
インフルエンザと解熱剤その1:アセトアミノフェンは安全
2023年は夏から、インフルエンザは流行っていて、今も、流行が続いています。
インフルエンザに罹患した患者さんで高熱がでれば、私も解熱剤を処方することがあります。
インフルエンザと解熱剤に関して、皆さんに是非知っておいて欲しいことがあります。
それは「インフルエンザ罹患のとき、使ってもいい解熱剤はアセトアミノフェンだけ」ということです。
商品名はカロナール、コカール、アンヒバ、アセトアミノフェンなどです。
それ以外の、ロキソニン、ボルタレン、ポンタール、インダシン、アスピリン等の一般的なNSAIDS(非ステロイド系抗炎症薬)は、脳症のリスクがあるので全て使用してはいけません。
脳炎と脳症の違い
病理学的には、脳炎(encepahlitis)とは、ウィルスが直接脳に侵入、脳細胞に感染して増殖し炎症を起こすもので、脳神経細胞がウィルスによって直接破壊されます。
実は、インフルエンザウィルス自体による脳細胞の直接障害はあり得ないので「インフルエンザ脳炎」という病気はありません。
脳症(encephalopathy)は、脳の中にウィルスが存在しないのに脳が腫脹します。
インフルエンザウィルス感染により、まれに脳症が生じますが、原因は不明とされています。
何らかの原因により高サイトカイン血症などが引き起こされて、脳に浮腫などの障害をひき起こします。
すなわち、病理学的には「インフルエンザ脳炎」は存在せず、「インフルエンザ脳症」が存在するということになります。
インフルエンザウィルスは血中に入れない
現時点では、インフルエンザウィルスはA型もB型も新型も血中に入れないとされています。
従って、インフルエンザウィルスが脳に直接感染することはないのです。
インフルエンザウィルスは、上気道・下気道・肺と消化管以外には感染できません。
マスコミでインフルエンザ脳炎とかインフルエンザ脳症と言っているのは、正確には「インフルエンザ関連脳症」という病名が一番適切です。
麻疹ウィルスやヘルペスウィルスは血中に入れる
麻疹ウィルスは血中に入れるので、脳にも感染して、まれではありますが、麻疹脳炎を生じ得ます。
ウイルス感染性脳炎としては単純ヘルペス脳炎が最も多いです。
日本脳炎ウィルスや狂犬病ウィルスも、脳炎を起こします。
インフルエンザ脳症とサイトカインストーム
インフルエンザ脳症の鍵となる現象は、サイトカインストームと呼ばれる免疫系の異常反応です。
免疫細胞の活性化や機能抑制には、サイトカインと総称される生理活性蛋白質が重要な役割を担っています。
サイトカインは免疫系のバランスの乱れなどによってその制御がうまくいかなくなると、サイトカインストーム(※)と呼ばれるサイトカインの過剰な産生状態を引き起こし、ひどい場合には致死的な状態に陥ります。
全身の細胞から通常量をはるかに超えるサイトカインが放出され、体内を嵐のように駆け巡ります。
この過剰なサイトカインストームにより、インフルエンザ関連脳症が生じると考えられています。
サイトカインストームが起こる原因は、今のところ不明です。
しかし解熱剤がサイトカインストームに悪影響を与えている可能性が示唆されています。
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解熱剤
平成21年の厚生労働省のインフルエンザ脳症ガイドラインには、ジクロフェナクナトリウム(商品名ボルタレン)、メフェナム酸(商品名ポンタール)の内服は、インフルエンザ脳症の予後不良因子の一つに挙げられています。
これらの解熱剤が、インフルエンザ脳症の死亡率を上昇させている可能性が示唆されています。
また、これらの解熱剤が、サイトカインストームを生じたきっかけになっている可能性も否定できません。
結局、安全性が確立している解熱剤は、アセトアミノフェンだけです。
アセトアミノフェンの商品名は、カロナール、コカール、アンヒバ座薬などです。
インフルエンザにかかったときは、アセトアミノフェン以外の他の解熱剤(ロキソニン、ボルタレン、ポンタール、インダシン、ブレシン、セレコックス、アスピリン等)は使用してはいけません。
要するに安全なのは、アセトアミノフェンだけです。
なお、風邪などのウィルス感染でも同様の危険性は有り得ますので、私は、子どもは勿論のこと、大人にも解熱剤は、基本的にアセトアミノフェンしか処方しません。
※ サイトカインストーム:「独立行政法人 科学技術振興機構のサイト」から抜粋
5.免疫系におけるサイトカインの役割
病原体に対する免疫系の攻撃としては、主に好中球やマクロファージなどの自然免疫系の貪食細胞による貪食作用、キラーT細胞による細胞傷害性物質の放出による宿主細胞の破壊、B細胞が産生する抗体による病原体の不活化などがあります。
このような免疫細胞の活性化や機能抑制には、サイトカインと総称される生理活性蛋白質が重要な役割を担っています。サイトカインには白血球が分泌し、免疫系の調節に機能するインターロイキン類、白血球の遊走を誘導するケモカイン類、ウイルスや細胞の増殖を抑制するインターフェロン類など、様々な種類があり、今も発見が続いています。
サイトカインは免疫系のバランスの乱れなどによってその制御がうまくいかなくなると、サイトカインストームと呼ばれるサイトカインの過剰な産生状態を引き起こし、ひどい場合には致死的な状態に陥ります。サイトカインは本来の病原体から身を守る役割のほかに、様々な疾患に関与していることが明らかになってきています。
平野チームは、自ら発見したサイトカインの一種であるIL-6が自己免疫疾患の発症制御において、中心的な役割を担っていることを独自に開発した疾患モデルマウスを用いて明らかにしています。
また、免疫細胞の中枢神経系への侵入口を発見したことから、神経系自己免疫疾患の発症仮説を提唱しています。
岩倉チームは、炎症性サイトカインであるIL-17ファミリー分子の機能的役割を解析する中で、これらファミリー分子が感染防御と炎症抑制において、役割分担されていることを見出しています。
[次回につづく]
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