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なぜ「きれいなトランプ大統領」が誕生するのか?「もしトラ」に新ルート、ライバル白旗の裏で進む新・新世界秩序構築

11月のアメリカ大統領選挙に向け、トランプ前大統領の勢いが止まりません。迷走するバイデン氏を退けて、怖いものなしの「2期目のトランプ」が過激な政策で世界を破壊してしまう「もしトラ」シナリオを世界中が警戒しはじめました。ただその一方、現地では「仮にトランプが大統領に返り咲いたとしても、意外と深刻な事態にはならないだろう」という楽観的な“新ルート”も有力視されるように。メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』著者で、米国在住作家の冷泉彰彦さんが最新情勢を解説します。

トランプが圧倒的優位。米大統領選2024 最新情勢

まず、アメリカの政局ですが、週ごとに混沌がひどくなるのを感じます。

まず共和党ですが、とにかくアイオワとニューハンプシャーの2連勝により、予備選の序盤で、ドナルド・トランプ候補の勝利が見えてきました。勿論、ヘイリー候補は当面選挙戦を継続し、「トランプ有罪判決で世論が一気に離反した場合」に備えています。ヘイリー陣営はまだ資金もあるようです。

ですが、ここまでの結果、そして全国レベルの世論調査等を見ても、どうやらトランプの優位は圧倒的なようで、これは予想外に早い展開となっています。

ここへ来て、ヘイリー推しであった大口の献金者もトランプ勝利への「賭け金」を積み始めました。また、NYタイムスなどの見解では、2016年や2020年の選挙と比較すると、トランプ支持が高学歴者にも浸透しているそうです。

その結果として、徐々にではありますが、興味深い現象が2つ起きています。

米共和党内は「寄らばトランプの陰」状態

まず、共和党内の動きですが、議会の共和党議員団はとにかく11月に大統領選と重なる巨大な同時選挙により、上院の3分の1、下院の全議席が改選になります。

そこで、特に下院の場合に共和党として次も当選したいと思う議員は、余程の都市型選挙区でない限りは一斉にトランプ支持に回っています。

これはもう、制度が生み出した必然というしかありません。まず、11月の選挙で保守票の多くがトランプに流れるとすれば、同時に投票する下院議員の改選選挙で、その議員が「共和党だが穏健派でアンチトランプ」だと、落選してしまう可能性があります。

それ以前の問題として、そんな「アンチトランプ議員」が共和党の候補になっては困るということで、トランプ陣営は夏場の予備選でその議員を次の選挙の候補の座から引きずり降ろしてしまうでしょう。

過去に2016、18、20、22と4回の下院議員選挙ではこのような動きが繰り返されてきています。それでも、多くの共和党議員はトランプを認めずに選挙に通ってきたわけですが、今回はここまでトランプ支持が浸透している中では、もう限界というわけです。

勝ち馬に乗るというよりも、トランプ票を怒らせると選挙に通らないという危機感があるのです。

冷静に考えれば、共和党も含めた多くの下院議員は、2021年の1月6日に他でもない下院の議場をトランプ派に襲撃されて、命の危険を感じた議員もいるはずです。

にもかかわらず、ここまで広範なトランプ支持があるというのは、とにかく選挙のメカニズムと、この早い時期におけるトランプ支持の広がりということがあると思います。

ライバルも応援団化し「おこぼれ」に虎視眈々

2つ目の現象というのは、トランプに挑戦していた大統領候補たちの動向です。

徹底的にトランプを批判していたクリス・クリスティ前ニュージャージー知事は例外ですが、その他の候補たちは素早く「トランプ応援団」に変身しています。

ヴィヴェク・ラムズワミ(インド系起業家)、ティム・スコット(アフリカ系上院議員)、更には大物であったロン・デサンティス(現職のフロリダ州知事)という顔ぶれがトランプと一緒に演説会に登場しているのです。

勿論、こうした元ライバルたちには野心があるのはミエミエです。トランプ票に知名度を売って2028年に自分が大統領候補として本格参戦する際には支持を得たいとか、あわよくば副大統領候補に指名されればというような「野心」です。

この3人について言えば、そもそも予備選で戦っている時から、トランプ(ずっとTV討論では「不在」でしたが)への批判から逃げ回っていたのですが、今から考えれば先を考えての判断だったわけです。

ということで、議会の共和党議員団の間でも、そしてこの間、大統領候補の予備選を戦ったライバルたちの間でも、トランプ支持は拡大中です。

では、これでトランプ支持が強大なものととなり、いよいよ「2期目の怖いものなしのトランプ」による過激な「破壊活動」が行われていく、だから、世界中が「もしトラ」シナリオに備えてゲームプランを変更しないといけないのかというと、意外とそうでもないという声があります。

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トランプのこってりすぎる政策が「薄味」に?

どういうことかというと、これからは「トランプという猛毒」を「薄めていく動き」が出てきているのです。

トランプ運動というのは、本来は極右の超孤立主義をコアとした運動でした。少なくとも、トランプ自身のこれまでの言動を整理すると、

「就任1日目は独裁者になって、南部国境を閉鎖して、国内での石油掘削を全開にする」

「NATOは脱退。腐敗したウクライナはプーチンに任せる。日米同盟も、米韓同盟もどちらもタダノリなのでバッサリ切る」

「全世界から米軍を引き上げて、その米軍は国内でのBLMや反トランプといった左派のデモ隊の弾圧に向かわせる。更にメキシコ領内での麻薬ギャング殺戮に投入する」

「中国と北朝鮮は依然としてボス交渉で対応する」

「製造業はどんどん国内に戻す。日鉄のUSスチール買収は認めない」

「2021年議会暴動で有罪になった人間は全員恩赦。今現在逮捕されたり獄中にいる人間は、連邦政府の捕虜なので奪還する」

「反対に、腐敗しているバイデン一族は牢屋にブチ込む」

ということで、とにかく日本にとっては困る話がゴロゴロあります。

算数ができない支持者が多いので、演説ではあまり触れませんが、トランプはアメリカ・ファーストなので、通貨政策としては「ドル安」を強く進める可能性があり、そうなれば日本は急激な円高で苦しむことになるかもしれません。

というような話があるわけですが、現在のアメリカ政局の方向性を見ていると、「そうでもない」という感触も出てきています。というのは、「2期目のトランプ」というのは、このまま進むと、共和党の党内穏健派なども取り込んだ相乗り政権になるかもしれないということです。

つまり、右も左も含めた議会共和党がどんどん支持に回り、メガドナーと言われる大口献金もトランプに「張る」動きを始めた、更にはライバル政治家も応援団に回ったということで、応援団が肥大化しているのです。

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「イメチェン」はトランプ陣営にも利益大

楽観的な予測になるかもしれませんが、こうした「大応援団」というのは、もしかしたらNATO解体とか、日米同盟破棄といった極論にストップを掛ける存在になるかもしれません。

今まだ撤退していないニッキー・ヘイリー候補のように真正面からトランプと対決するのではなく、オール共和党がトランプ与党になることで、トランプに乱暴な判断を止めさせるという構図になる可能性が出てきたということです。

そこで鍵を握るのは、トランプ候補がやがて指名することになる副大統領候補の名前です。恐らくトランプはこの問題については相当に悩んでいると思われます。

まず、前回のマイク・ペンスのように、肝心なところ、つまりトランプが2020年から21年にかけて、バイデンの当選を認めずにホワイトハウスに居座ろうとした際のような「トランプの勝負どころ」で「裏切る人材」では困ると考えているはずです。

副大統領のレベルではありませんが、トランプは、前政権の際に「連邦政府の高級官僚が言うことを聞かなかった」ことを根に持っているようです。

そこで、忠誠を誓うかの踏み絵を踏ませて、政治任用で指名できるレベルだけでなく、広範な中央官僚を「忠誠を誓った人物」にする計画を持っているとされています。

副大統領も、当然「ペンスのような普通の共和党政治家」では裏切ると思っているはずです。

その一方で、ここまで支持層が幅広くなってくると、流石にギンギンの右翼にするわけにはいかなくなるという問題もあります。また、中間層の離反ということを考えると、少なくとも本選を意識した際には、「まともな」候補でないと選挙戦には不利という計算もあるはずです。

更に、この次に当選した際には、その新政権には、長女のイヴァンカ夫妻は参加しないわけで、そうなると「現実世界」との連絡ができる人物がいなくなって政権が回りません。

そんなわけで、例えばですが、セラ・ハッカビー=サンダース氏(現アーカンソー知事、元ホワイトハウス報道官)、エリス・ステファニク氏(現職の下院議員、共和党議員団幹部)、マイク・ポンペイオ氏(元国務長官)など、純粋トランプ派ではない「イザという時は正気になる人」を指名する動機が出てきます。

仮にこうした「実務の分かる」副大統領候補が指名されれば、そこを突破口としてトランプ政権を「普通の共和党政権」レベルまで「毒消し」することは可能になってくるかもしれないわけです。

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迷走するバイデンの票がどんどん消えている

いずれにしても、「常識的」な候補であるヘイリー氏が大逆転という可能性は低い中で、「もしトラ」の恐怖を減らすということでは、大応援団がトランプを「褒め殺し」の上で、「骨抜きに」あるいは「毒消し」してゆくストーリーが動き出していると見るのが良さそうです。

そう考えると、むしろ、日々苦境に立ちつつあるのは、民主党のバイデン候補の方かもしれません。

直近の情勢としては、イラン系のテロ集団とは、事実上の交戦状態に陥ってしまいました。

イエメンのフーシ派については、日本の船舶も含めて散々やりたい放題でしたから、サウジだけでなく米軍も参加して管理するというのは、流れとして成立はします。

ですが、シリア領内、更にはイラク領内のイラン系の施設をどんどん空爆で潰すというのは、不測の事態が心配です。

3名の米兵が殺された報復として、バイデン氏は、対応が弱ければ「弱腰だ」として叩かれる中で、攻撃しない自由はなかったのかもしれません。

ですが、仮に戦闘をエスカレートさせてしまうと、民主党支持層の中から更なる批判を浴びる可能性があります。

更にインフレの問題があります。

石油価格を含めて確かにインフレの数字は沈静化しています。ですが、物価「上昇率」の抑制には成功していても、上がってしまった物価が下がるわけではありません。

依然としてランチのファーストフードは、ドリンク込みで20ドル(3千円)、スーパーの牛乳は半ガロン(1.9リットル)で4ドル(600円)という異常な値段になっています。

実は、最低賃金の上昇(15ドルから都市部では事実上20ドルへ)も反映している中では、下がる可能性は低いのですが、この点において、バイデン政権は、世論の不満が理解できていないようです。

自分は「インフレ抑制に成功」などと発言するだけで、票がどんどん吹っ飛ぶという感覚はこの方には弱い感じがします。

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「もしトラ」シナリオは新たな展開へ

軍事外交に戻りますと、イスラエル=ガザ問題も、南部国境の問題もバイデンからは「まともな説明」がありません。

「ガザはハマスのテロリストを懲罰して無害化するだけで、二国体制合意は守らせる」とか「南部に来ているのは難民候補であり、審査は厳格化するが人道措置を全廃はしない」という原則論すら、ハッキリ国民に説明しないのは、間違っています。

このままでは、ガザ問題ではダラダラと民主党左派の離反を招きますし、南部国境問題では共和党サイドのやりたい放題になっていきます。

その南部国境では、実は議会上院である緊急予算が可決しています。それは、

「ウクライナ支援、イスラエル支援、インド太平洋安保強化(台湾支援)、南部国境の厳格化(閉めないが難民申請厳格化)」

というセットでの予算です。この扱いは、下院に回っており、特に下院共和党の右派は猛反発しており、今週の政局の目玉となっています。この問題については、あまりに複雑なので次号以降にその後の進展も含めてお伝えしたいと思います――

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image by: lev radin / Shutterstock.com

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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