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健全な社会はどこへ?西武池袋本店のストライキをネガティブに報じる日本の異常

かつては我が国でも必要なタイミングで決行されていた、働く人々によるストライキ。しかし現在、そんな「労働者の当然の権利」をメディアまでもが否定的に報じる状況となってしまっています。このような現状に異を唱えるのは、社会健康学者の河合薫さん。河合さんは自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で今回、「おかしいことをおかしい」と声を上げる重要性を訴えるとともに、「衰退途上国」と揶揄される日本という国だけでなく、日本人そのもののマインドも低下しているとの悲観的な意見を記しています。

プロフィール河合薫かわいかおる
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

「私達は奴隷じゃない!」働く人が声上げる欧米と、ストを批判する日本

欧米で働く人たちの「待遇改善」を求めるストライキが急増しています。

ドイツでは1月8日、鉄道の運転士などが参加する独機関士労働組合(GDL)が労働時間を週38時間から35時間に短縮し、インフレ手当として3,000ユーロの支給を求める大規模なストライキを実施。1月30日には、ドイツ国内の23の大学病院に勤務する、数千人の医師らが賃金や労働時間を巡りストライキを行うと発表しました。

フランスでは、クリスマス休暇を控えた12月21日午後、英国と大陸欧州をつなぐ高速鉄道「ユーロスター」が突如運行を停止。従業員が賞与額が不満だとしてストライキを決行し、ロンドンやパリ、ブリュッセル発の30便が運休。

スペインではアマゾンの社員がアマゾンの繁忙日に当たるブラックフライデーとクリスマスシーズンにストを決行。さらに、英国イングランドで1月3日~9日まで「ジュニアドクター」と呼ばれる若手医師らが賃上げを求め、ストライキに突入しました。

アメリカでも2023年に労働組合のストライキが多発し、22年の約3倍の50万人超の労働者が参加したとされています。10月上旬にホテル従業員がロサンゼルス市内を「ボイコット!」と書いたプラカードを掲げ練り歩いた様子は日本でも報じられました。

これって、めちゃくちゃ健全だと思うわけです。働く人たちが「私たちは奴隷じゃない!人間なんだ!」とちゃんと訴え、それに「わかってる。考えてる」と雇用側が応える。ストライキは「同じ人」として和解するための手段であり、「がんばったら報われる」という当たり前に、雇用する側が立ち戻るきっかけでもあります。

かたや日本ではどうでしょうか。

昨年8月に西武池袋本店がストライキを実行した際、メディアは「国内百貨店では61年ぶり!」と騒ぎ立て、「今回のストライキはイメージ低下になりかねない」「今回のストライキは利用者離れにつながりかねない」などと批判しました。

ストライキが資本主義経済の「社会対話」の一つということを知らないのでしょうね。

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1999年のILO(国際労働機関)総会で「ディーセント・ワーク」という概念が提示されて以降世界では「Decent Work for All=すべての人にディーセント・ワークを」を合言葉に働く人たちの尊厳の向上を目指し、具体的な活動が進められてきました。

ディーセント・ワークとは「権利が保障され、十分な収入を生み出し、適切な社会的保護が与えられる生産的な仕事」を意味します。その仕事とは「労働基準および働く上での権利」「雇用」「社会的保護」「社会対話」の4つの柱で成立します。

社会対話は「政府、使用者、労働者の代表が、経済・社会政策に関わる共通の関心事項に関して行うあらゆる種類の交渉、協議、あるいは単なる情報交換」と定義され、社会対話の形態の1つが「春闘」のような労使の二者構成であり、ストライキは「団体交渉の基本的な権利」です。

実に残念ですが、世界の常識が日本の非常識と化している典型の一つに「ストライキ」もなってしまったのです。

かつては日本でもストライキは、働く人の権利としてごく普通に行われていました。

私がテレビやラジオのお仕事をメインでやっていた1990年代後半も、生放送のスタジオのカメラマンさんやサブ(副調整室)のディレクターさんたちの平均年齢がぐんと高くなる日がありました。

思い起こせばあの頃の日本には「このままでいいわけない。私たちは道具じゃない」と正面きって反論するのが当たり前だった。

それが今はなくなってしまい、すべてが「他人事」なのです。

おかげで2020年には経営の司令塔である経団連が、経営労働政策特別委員会報告に「業界横並びの集団的な賃金交渉は、実態に合わなくなっている」などと明記。働く人は沈黙し、声をあげる人を否定し、バッシングし「長いものにはまかれろ」感満載です。

…おかしいことをおかしい、と声を上げる勇気を「私」は忘れてはいけないのではないでしょうか。

だって、それは自分の頭で考えることだし、自分の人生に責任を持つことでもあります。

日本は「衰退途上国」などと不名誉な呼ばれ方をされますが、「私」たち日本人のマインドも衰退してる。そう思えてなりません。

みなさまのご意見、お聞かせください。

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image by : Akmalism / Shutterstock.com

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