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“デジタル疲れ”が背景か?米国のZ世代に「おバカ携帯」が大人気のワケ

世界に名だたるIT企業が軒を連ねるデジタル先進国アメリカ。そんな国のZ世代の間で今、「おバカ携帯」の人気がうなぎ登りであることをご存知でしょうか。今回のメルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~』では、『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』等の著作で知られる辻野さんが、「おバカ携帯」が開発されたきっかけと、その性能を紹介。さらにこのようなガジェットが人気を集めている背景を考察しています。

米Z世代に人気のDumb Phone(おバカ携帯)

いつの時代、どんな分野にも逆張りニーズや懐古ニーズといったものがありますが、今、米国のいわゆる「Z世代」の若者たちにDumb Phone(おバカ携帯)と呼ばれる通話、メール、アラーム、スケジュール管理程度の簡単な機能しかないシンプルな携帯電話が静かなブームになっているようです。

このブームを受けて、スマホ販売のLight社が、人気ラッパーのケンドリック・ラマーとコラボしてデザインした「Light Phone II, Kendrick Lamar limited edition」を昨年11月に250台限定で売り出したところ、即日完売したそうです。機能は、通話、アラーム、音楽、メモ機能のみで、サイズはクレジットカード程度で軽く、アドレス帳には9人しか登録できません。もともと「Light Phone II」は、米クラウドファンディングIndiegogoを利用して350万ドルを集め、2019年9月に発売されました。

Light社は、2人のデザイナー、ジョー・ホリアーとカイウェイ・タンの出会いを起源として設立されました。初期モデルの「Light Phone」は、2015年6月にクラウドファンディングKickstarterで資金を集めて作りましたが、販売が目的というよりも、「スマホがないと人はどれくらい不安になるか」を調査する実験を目的にしたそうです。しかし、想定以上の40万ドルが集まり、価格150ドルで15,000台が売れたそうです。2人はそこで受注を停止しましたが、ウェイティングリストには50,000人が登録し、中古市場では3倍の値段が付いたそうです。

人気の背景には、デジタル疲れした若者たちのデジタルデトックスへのニーズやプライバシーへの懸念の広がりなどがあるようです。Z世代やそれよりも1世代上のミレニアル世代は、いわゆるデジタルネイティブ、ネットネイティブなどとも呼ばれていて、デジタル機器やSNSを使いこなしている世代ですが、一方でSNS上でのいじめの問題なども深刻です。先日も、SNSが青少年に与える影響に関する米議会の公聴会で、メタCEOのマーク・ザッカーバーグが、議員に促されて、SNS上のいじめを苦に自殺した子供の親たちに謝罪する場面が報道されていました。

プライバシーへの懸念とは、言うまでもなく、GAFAMなどさまざまなサービスを提供する巨大IT企業による個人情報の収集や利用に対する懸念のことです。この世代は、個人情報の問題についても敏感ですし、実態に詳しい人ほど、GAFAMのサービスから距離を置き、SNSを一切使わないような人たちも少なからず存在します。

カイウェイ・タンは、「Light Phoneの価値はデバイスにあるのではなく、インターネットからもソーシャルメディアからも離れ、あらゆる操作をやめるという体験にあります。これで自由になれます。これこそが人生です。そこから何をするかが重要なのです」と語っています。

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さらにもう一つ、Dumb Phone人気の理由を補足すると、ノスタルジーです。日本でも、若者の間でかつてのアナログレコードやレンズ付きフィルム「写ルンです」が再人気になったり、昭和レトロブームのような現象が起きたりしますが、自分たちが知らない時代へのノスタルジーも背景にあるようです。

日本では、バルミューダが、デザインにこだわったスマホを発売したものの惨敗して赤字に陥り撤退しました。機能や価格が中途半端なスマホにしか見えなかったからでしょう。Dumb Phoneはあくまでもニッチ製品ではあるものの、Light Phone IIのような究極まで割り切ったシンプルなフィーチャーフォンを日本市場に投入したら果たしてどうなるでしょうか。日本仕向けの予定については不明ですが、高齢者中心のガラケー市場に若者を呼び込んで新しいポジションを築くことができるかには少し興味があります。

※本記事は有料メルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~』2024年2月16日号の一部抜粋です。このつづきに興味をお持ちの方はこの機会にぜひご登録ください。

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image by: Shutterstock.com

辻野晃一郎この著者の記事一覧

辻野 晃一郎(つじの・こういちろう):福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。

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【著者】 辻野晃一郎 【月額】 ¥880/月(税込) 【発行周期】 毎週 金曜日 発行

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