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「感じて予想」しなくなる不安。元お天気お姉さんが心配する、AIとスパコンに頼りすぎる天気予報が見逃してしまうこと

世界に誇るレベルにある日本の気象技術。気象衛星ひまわりが観測したデータは東アジアやオセアニアなどの国々にも提供されるなど、大きな役割を果たしています。5日には気象庁がAIを活用した新システムを導入することが報じられ、さらなる精度向上が見込まれることとなりました。そんなニュースを取り上げているのは、気象予報士として『ニュースステーション』のお天気キャスターを務めていた健康社会学者の河合薫さん。河合さんはメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で今回、新システム導入による気象予測の進化への期待を綴るとともに、「ひとつだけ心配していること」を記しています。

※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題「空を見ないAIとスパコンの未来」

プロフィール河合薫かわいかおる
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

天気予報のAI活用に元お天気お姉さんがひとつだけ心配していること

天気予報がますます進化しそうです。気象庁は気象予報の精度を向上させるための新たなシステムを、3月から導入すると日経新聞が報じました(3月5日付朝刊)。新システムではAIを活用し、最高気温や最低気温、降水確率、降雪確率を5日後まで予想。2030年を目処に高い精度で発表することを目指すそうです。

これまでも1~2日後の予報精度は飛躍的に高くなっていました。しかしながら、3日後以降は精度のばらつきが大きく、特に夏の最高気温は誤差が大きいのが課題でした。

例えば、予想より快晴の時間が長くなるだけで一気に気温はあがりますし、風向や風速の微妙な“はずれ“も最高気温に大きく影響します。特に東北地方や関東地方の気温予測に風向きは重要な要因です。風向きが東よりになると、太平洋側から冷たく湿った風が入り込み雲が予想より多くなり気温が下がる。逆に西よりになると晴れて気温も上昇するのです。

宮沢賢治の詩「雨ニモマケズ」に書かれている「サムサノナツハオロオロアルキ」の原因となる北東の風「やませ」です。

一方で、温暖化の影響などで、夏の最高気温の上がりっぷりは異常になりました。命に危険を及ぼすこともしばしば。しかし、今回導入する新システムはAIの学習に適した、高性能な画像処理半導体(GPU)を搭載しているため、AIの性能が大幅に向上します。計算速度が従来の2倍になる新型のスーパーコンピューターの運用も始まりますし、23年に稼働を始めた別のスパコンとの組み合わせで気温だけでなく、豪雨の予測精度の向上も期待されているそうです。

日本の気象技術は世界的にも高いと言われています。日本列島は海に囲まれ、山が多いので天気を予報するのが極めて難しい。さらに、自然災害が多い。この日本列島の気象予測の難しさが、気象技術向上に貢献したといっても過言ではありません。

1964年に富士山頂に設置された富士山レーダーは世界を驚かせましたし、2014年、15年に打ち上げられた気象衛生ひまわり8・9号は、世界に先駆けて次世代の気象観測センサーを搭載。気象予測の精度向上に欠かせないデータ収集の先頭バターとして日本は走り続けてきました。

そんな中での新システム運用スタートですから、どこまで気象予測が進化するのか?どこまで世界を驚かせるのか?とても楽しみです。

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予測システムが優秀になればなるほど見逃されかねない「異常な天気」

ひとつだけ心配なのは「人」です。

私は地方気象台で鉛筆片手に天気図をプロットして予報していた“気象のプロ“から、“技”のいろはを学んできました。それだけにアナログが消えていくことに寂しい気持ちがぬぐえませんし、「気象のプロがいなくなってしまうのでは?」などと老婆心ながら心配してしまうのです。

そもそもどんなに優秀で精度の高いシステムが構築・運用されても、気象予測は100%にはなりません。いわゆる「バタフライ効果」です。

「ブラジルでのチョウの羽ばたきはテキサスでトルネードを引き起こす」――。

これは1972年に米国のマサチューセッツ工科大学の気象学者 ローレンツが、講演会で述べた有名な言葉ですが、気象現象にはわずかな初期値の違いが大きな違いに成長していくカオスの性質が存在します。どんなに優秀なスパコンが生まれようとも、どんなに多方面から初期値を正確に捉える手法や技術が進化しようとも天気予想から「はずれ」がなくなることは決してありません。

しかも、コンピューターは平均的な精度を上げるのは得意ですが、異常な天気を当てるのは苦手です。その“穴“を埋めてきたのが「人」の経験値と勘、暗黙知です。

お天気ねーさんだった頃、海女さんや農家の人たちを取材した際、「絶対に敵わない」と何度も思いました。

空の色、風、雲、気温、湿など、五感をフル稼働して「明日は雨になるなぁ」と予想したり。農事歴を重視したお米作りで美味しいお米を生産したり。

真似しようのない天気予報スキルを、お天気と共に生きる職業の人たちは習得していたのです。

お天気って、流れなんですよね。そう「流れている」わけです。地球をめぐる大気の流れが基本にある。科学では解明が難しい、リズムのようなものも存在します。それらはすべて、毎日、空を見上げ、風を感じ、生活と共に天気があってこそわかる代物です。

なので予測システムが優秀になればなるほど、外で空を見上げるのではなくパソコンの画面ばかり見る人が増え、「感じて予想する」機会がなくなり結果的に「異常な天気」が見逃されるようになってしまうのでは?心配です。

こんなご時世だからこそ、空を見上げ、自然に生かされてるという感情が天気予報にも重要になるように思えてなりません。

みなさまのご意見、お聞かせください。

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