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聞こえるプーチンの高笑い。ロシアが描く物語から作り上げられるモスクワのテロ「ウクライナ黒幕説」

140名以上の死者を出し、現在も100名を超える市民が行方不明となっているモスクワ郊外のコンサート会場で起きたテロ事件。過激化組織「イスラム国」が犯行声明を出しましたが、事件の背景を巡ってはさまざまな情報が飛び交っているのが現状です。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、国際社会で囁かれているテロを巡る言説を紹介。さらにウクライナへの軍事侵攻で孤立状態にあったロシアに、ここに来て接近し始めたグローバルサウスを始めとする各国の思惑を解説しています。

※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:孤立を脱したプーチン大統領・孤立を深めるネタニエフ首相

孤立が描き出す”戦争”の行方

「モスクワの北西部クラスノゴルスクのクロックス・シティ・ホールでのテロ事件は、再選されたばかりのプーチン大統領の統制の衰えの証拠だ」

そのような論調で報じる(報じたい)内容を訪れる先々で耳にしますが、皆さんはどう思われますか?

「FSBがテロの兆候をつかみ切れていなかったに違いない」という声も聞きますが、それもどうでしょうか?

アメリカ政府、英国政府、そしてロシア政府からも入る情報によると、「CIAやMI6はロシア大統領選前にロシア政府に対してモスクワを含むロシア国内の大都市で大規模なテロの兆候があると報告し、ロシアのFSBも内々に警戒度を高めていた」そうですが、警戒網をくぐり抜けてタジキスタン出身の4人(ISとの関与あり)が観客と守衛さんに対して機関銃を乱射し、劇場に放火するという大惨事につながりました。

ロシアに否定的な見方をする識者グループは「これはFSBの能力が低下し、大統領選挙に気を取られていたが故の失態だ。各国から寄せられた情報を受け入れず、みすみすプーチン大統領の顔に泥を塗った」とFSBに対する非難を行っています。

反対に、若干主張の飛躍を感じざるを得ない内容ではありますが、「これは事前に知っていて起こさせたものであり、プーチン大統領とその周辺は卑劣なテロ行為への怒りで他国の目をごまかし、ウクライナの関与の疑いにしつこく言及することで、対外的にはウクライナの卑劣さをクローズアップし、国内に対しては、ウクライナ侵攻を本格化させ、ウクライナを打倒するというunpopularな方針を明確化して実施する口実を作った」という分析というか、見解も入ってきています。

FSBの能力低下という評価と、大ボスのプーチン大統領にネガティブな情報を伝えられない人材ばかりが集まるグループ心理が、外部から提供される情報の真偽の判断と、迅速な行動の実現を妨げているという批判は、よく耳にしますが、それでもFSBの持つ情報力・情報操作力・工作力は決して侮ることはできません。

後者を推す人たちが持ち出すのは「9/11の同時多発テロ事件は、別にCIAとFBIが無能だったのではなく、あれは政治的なplotだ」といういかにも陰謀論と受け取れる主張もありますが、今回、いろいろな人たちからウクライナの関与の可能性が繰り返し持ち出され、ロシアの描くストーリーが「ウクライナ黒幕説」を作り上げていくシナリオは、とても気になります。

これに対してウクライナ政府のポドリャク大統領府顧問も、アメリカ政府も「ウクライナの関与はない」と明言するものの、関与をそれなりに怪しんでいる勢力が次第に増えている気がする状況には懸念しています。

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プーチン大統領の孤立解消を「後押し」するアメリカ

対ウクライナ戦争(特別軍事作戦)が長期化し、欧米からの支援にもかかわらず、ウクライナに対してロシアが有利な状況に置かれ始めたことと、「ロシアを除外するか、自らが除外されるか」という二分論で対ロ包囲網への参加と、制裁の遵守を迫る欧米諸国とその仲間たちに対する嫌気を明言する国々が増えてきたこと、そしてその欧米がウクライナに対する支援疲れを明らかにし、ウクライナを見捨てる動きを強める状況に危機感を感じて、ロシアとの関係修復と強化に入る国々が増えてきています。

その結果、ロシアが発するウクライナ黒幕説が、次第に拡張されて、いつの間にか信憑性を増し、各国のウクライナ離れを引き起こしているという分析も出てくる始末です。

いろいろな批判や憶測が飛ばされる中、中・北朝鮮、イラン、キューバ、ベネズエラをはじめ、グローバルサウスの主であるインドやブラジル、南アをはじめとするアフリカ諸国や中東諸国も挙ってプーチン大統領の再選を祝い、2030年まで続くプーチン大統領の統治に対する支持を表明しています。

こうすることでロシア優位な状況でロシア・ウクライナ戦争が終焉した暁には、復興事業を始めとする様々な分野での利益の拡大を見返りとして得ようという魂胆が見え隠れします。

まさに実利主義のグローバルサウスの国々の決定方針に沿う動きが起きているものと思われます。

そしてそのロシアへの接近とプーチン大統領の孤立の解消を後押ししているのが、皮肉にもイスラエルによる頑ななまでのガザ侵攻とハマス壊滅へのこだわりと、明らかなダブルスタンダードを自らに適用してイスラエルを守っても、ネタニエフ首相を説得しきれないアメリカの限界だと言えるかもしれません。

そのネタニエフ首相は、友達が返ってきたプーチン大統領のケースとは異なり、次第に孤立を深めています――(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2024年3月29日号より一部抜粋。続きをお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録の上、3月分のバックナンバーをお求め下さい)

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image by: Gevorg Ghazaryan / Shutterstock.com

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世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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