42年間も封印された“幻のシティポップ”。滝沢洋一2ndアルバム『BOY』悲願の初リリースと名曲「かぎりなき夏」をめぐる奇跡の物語

エピローグ　シティポップ発祥の地

昨今、『「シティポップの基本」がこの100枚でわかる!』 (星海社新書）の著者・栗本斉さんや音楽雑誌によって、シティポップの新たな「定義づけ」がなされています。

それは「シティポップの嚆矢は、シュガー・ベイブ」というものです。

それまで音楽評論の世界では、シティポップの嚆矢は「はっぴいえんど（細野晴臣、大瀧詠一、松本隆、鈴木茂）」が定説でした。

ところが、昨今の世界的シティポップブームを受けて、改めてシティポップの「再定義」がおこなわれています。

その新しい定義が、山下達郎さんや大貫妙子さん、村松邦男さんらが70年代初期に結成したバンド「シュガー・ベイブ」のアルバム『SONGS』（1975／エレック）がシティポップの嚆矢だ、というものです。

シュガー・ベイブ『SONGS』

そんな折、2024年7月10日に、シュガー・ベイブ結成前の山下達郎さんが19才の時に友人たちと作った限定100枚の自主制作アルバム『ADD SOME MUSIC TO YOUR DAY』（1972／Surfing Rabbit Studio）が、1985年の復刻から39年ぶりにアナログ盤として再々発されました。

山下達郎らによる自主制作盤『ADD SOME MUSIC TO YOUR DAY』（2024年再発）

このアルバムは、山下達郎さんが生まれて初めてレコーディングをした作品というだけでなく、伊藤銀次さんを通じて大瀧詠一さんに達郎さんが「発掘」されるキッカケとなった盤であることはあまりにも有名です。

その自主制作盤の裏ジャケットには、達郎さんと中学時代から同級生のバンド仲間であり、このレコードを吹き込むための場所を提供した並木進さんの自宅住所が「Surfin’ Rabbit Studio」という名前で記載されていました。今回の復刻版レコードでは住所が伏せられていますが、制作当時の1972年の盤にはそのまま書かれています。

同盤の裏ジャケット。録音「場所」に板橋区赤塚の文字が見える

私は、オークションに出品されたオリジナル盤に書かれている当時の旧並木邸の住所を見て驚きました。

それは、私が毎朝走っているジョギングコースの通り沿いにある住宅街周辺が、まさにその場所だったからです。あの、滝沢版「メモランダム」を初めて聴きながら坂を駆け上がって走った朝のジョギングコースです。

私の自宅から走って4分もかからない場所が、達郎さんの音楽活動の原点であり、シュガー・ベイブというバンド名が決まった場所であり、達郎さんや大貫妙子さんらがオリジナル曲を練習していた場所だったのです。

滝沢さんの音楽に偶然出会った私は、期せずして「シティポップ発祥の地」に住んでいたのです。

このことをヴァンさんに伝えると、こんな返信がありました。

「あなたがシティポップ発祥の地の近くに住んでいたなんて不思議だね。私たちの出会いとコラボレーションには、多くの偶然が重なっている。これは幸先が良さそうだ」

米国 シカゴと東京 成増。シティポップで繋がった縁は、いま初めて一直線に繋がりました。（了）

Special thanks : （順不同）
滝沢家・鈴木家の皆様
粟野敏和
伊藤広規
新川博
牧野元昭
荒木くり子（伊藤広規office）
庵豊
金澤寿和
松永良平
濱田髙志
小澤芳一（TOKYO CITY POP）
福井誠一（ソニー・ミュージック レーベルズ）
森田聰美（Sony Music Publishing）
ALFA MUSIC
金谷あつし
石崎信郎
ヴァン・ポーガム
瀧川正靖
山上ジュン
小林清二
株式会社まぐまぐ

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【Amazon.co.jp限定】『レオニズの彼方に』 (完全生産限定盤) (アナログ盤) (メガジャケ付) [Analog]解説：都鳥流星　ソニー・ミュージックレーベルズ