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報復型の「無差別攻撃事件」が頻発する中国。日本のマスコミによる「経済の低迷が原因」報道が“眉唾”な理由

日本の隣国・中国で最近、自動車を暴走させたり刃物で殺傷したりする「無差別殺人事件」が多発していると報じられています。このような凄惨な事件が起きてしまう根本原因は、一体何なのでしょうか? 今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂教授が、日本のマスコミで報じられている「中国の経済低迷が原因」とする説を一刀両断。過去の事例をあげながら、リアルな中国の現状をリポートしています。

無差別攻撃事件が多発の中国。日本で蔓延する「経済崩壊論」はどこまで信用できるのか?

中国ではいま、社会に対する報復型の暴力事件が頻発している。

中国語で「報復社会」と分類される犯罪で、たいていのケースは生活の行き詰まりが発端だ。無差別に人を攻撃するケースがほとんどで被害も多数に及ぶことから社会に深刻なダメージをもたらしている。

報復社会では当初、深センの小学校に通う生徒が犠牲になったことで日本メディアが過熱。「原因は、反日」とミスリードしたことで外交問題にも発展した。

その見立てはどこに消えてしまったのか。

反日説を煽った専門家は、いまでもテレビに出て「原因は『五失人員』」と解説しているから驚かされる。

五失人員とは報道によれば「投資の失敗、生活における失意、人間関係の調和の喪失、心理的なバランスの喪失、精神失調」の五つの「失」を指す。

そうであるならば、すべて個人的な問題であって社会問題ではない。ましてや政府の失政を問う話ではなかろうと突っ込みたくなるが、本稿の目的はそこではない。

この報復社会的犯罪の報道にからんで必ずセットで言及される「いま、中国経済が低迷しているので……」という見立てについてだ。「低迷」ならまだよい方で、なかには「失速」とまで表現される。

だが、本当に中国の現地を見てそんなことを言っているのだろうか。

私は11月の上旬、北京に1週間ほど滞在したが、大きな混乱が起きている雰囲気は感じなかった。

確かに、超高級レストランはガラガラで閑古鳥が鳴いていたが、少しリーズナブルな店はどこもにぎわっていた。

また空席が目立つ店でも、入り口には「外売」(テイクアウト)用の紙袋が積まれ、ひっきりなしにバイク便が出入りしていたので、実態はよくわからない。

現状を見る限り中国経済の現在地は、どんよりとした曇天の中にあって晴れる見込みがなかなか立たないといった状態なのだろう。ただ、決して土砂降りではない。

足を引っ張っているのは不動産市況の回復の遅れと、それに連動した個人消費の不振、そして米中貿易の前途に立ちはだかる暗雲だ。

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不動産価格はピーク時から3割程度下がったとされ、資産の目減りによるマインドの消沈に加え、有望な投資対象を失ったショックが重なって資金が塩漬けになり、経済に悪影響を及ぼしている。

これは一瞬にして商業地の価格が8割下落してしまった日本のバブル崩壊とは違う。当時の日本人の多くは借金だけを抱え苦しんだが、中国の場合には、使う金が消えてしまったわけではない。

問題は自信喪失とよく指摘されるが、言い換えれば、将来への自信を回復すれば使う金はあるということだ。

中国経済のこのような現在地がどうやったら「5失」とつながるのか、具体的に知りたいものだが、矛盾はそれだけではない。

そもそも報復社会という言葉が社会に定着したのは、胡錦涛時代のことである。

当時の中国経済は低迷していただろうか?

むしろ絶好調ではなかったのか。報復社会は経済が上り坂でも多発するのだが、それは当然のことで、自暴自棄になる前提として「自分だけが不幸」という被害者意識がセットになっているからだ。

全体の経済が上り坂であればあるほど、余計に自分の不幸な境遇が際立ってしまうということでもある。

つまり報復社会の広がりと中国経済の低迷はそもそも連動するものではないし、それ以前に、中国経済が低迷しているという認識にも注意書きが必用だ。

中国経済が苦しんでいることに異論はないが、それは一方で当たり前の話でもあるからだ。

一つは中国経済がいま体質転換の過程にあり、ある程度の痛みが伴うことは当初から予測されていた。それが不動産依存からの脱却という大手術なのだ。

もう一つはコロナ後の財政規律の回復のため、大規模な景気対策を避けている点だ。

中国経済が「悪い」という場合、ひっかかるのが「何と比べて」という視点だ。

中国のコロナ前の絶好調の時期と比べれば見劣りするのは当たり前で、それが続くと考える方が不自然だ。

さらに別の国と比べたとき、たとえば欧米先進国と比べたときにはどうかといえば、とくに欧州との比較では中国経済の現状ははるかに楽観できる。

日本と比べても同じだ。

11月20日、フランスのテレビ「F2」のニュース番組は、「人員削減計画:この波は何に起因するのか?」と題して、各地で相次ぐリストラのニュースを長時間報じた。
 
番組の中では突然、「良いニュースもあります」と、プジョーの自転車工場跡地に中国のソーラーパネルメーカーが進出するというニュースを、まるで救世主のように伝えた──(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2024年11月24日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by: SPhotograph / shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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