アゼルバイジャンの首都バクーで開催された国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)。先進国が途上国に拠出する「気候資金」の目標額をめぐり議論が紛糾し、2日間の延長の後の閉幕となりました。今回の『きっこのメルマガ』では人気ブロガーのきっこさんが、「気候資金」に関する各国の主張や思惑を詳しく紹介。その上で、日本以外の先進国が温暖化対策に本気で取り組む気を見せない現状を悲観視しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:COPの中の嵐
「温暖化などデマだ!」と連呼し「パリ協定からの再離脱」を公言するトランプを選択してしまった米国への失望
「アゼルバイジャン共和国」と聞いて、あたしが思い浮かんだのは、産油国として最近まで羽振りが良く、首都バクーのウォーターフロントには近未来的なビルが立ち並び「第二のドバイ」などともてはやされていたことです。そして、アゼルバイジャンの石油生産量は2010年をピークに減産フェーズに入り、現在は枯渇へ向かっているという残念な現状も過去の報道で知っていましたが、あなたはアゼルバイジャンがどこにあるどんな国なのか、パッと思い浮かびますか?
アゼルバイジャンは、西アジアと東ヨーロッパが交わるコーカサス地方にある国です。東西南北で言うと分かりずらいので上下左右で言いますが、右のカスピ海と左の黒海に挟まれたコーカサス山脈が連なる地域に、ジョージアと並んでいるのがアゼルバイジャンです。広大なロシアの一番左の一番下の部分、千葉県の房総半島を巨大化したみたいな形の部分の下にあるのがアゼルバイジャンで、左上のほうにはウクライナがあります。
アゼルバイジャンの左はトルコ、その下はシリア、その下がレバノンやヨルダンやイスラエルです。そして、シリアの右にイラクがあり、イラクの右にイランがあり、そのイランの左上がアゼルバイジャンです。つまり、頭の上ではロシアとウクライナが戦争をしていて、足元ではイスラエルがガザでの大量虐殺を続けながらイランとも戦争を始めようとしている、そんな場所にある国なので、これらの戦争を「対岸の火事」だと思っている人が多い日本人から見ると、何とも物騒な場所にある国だと感じるかもしれませんね。
ちなみに、アゼルバイジャンは1991年8月30日にソ連から独立した共和国で、北海道より少しだけ広い国土に、北海道のちょうど2倍の約1,000万人の国民が暮らしています。大統領はイルハム・アリエフ氏、首相はアリ・アサドフ氏、恥ずかしながらあたしは、この辺のことは何ひとつ知らず、今、この原稿を書くために調べて初めて知りました。
…というわけで、アゼルバイジャンの基礎知識も終わったとこで、さっそく今回の本題に入りますが、アゼルバイジャンの首都バクーで11月11日の「ポッキーの日」から11月22日の「きっこ生誕祭」までの予定で開催されていた「COP29(国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議)」は、予定を2日延長した24日、途上国の温暖化対策に先進国が拠出する「気候資金」の目標額を2035年までに現在の3倍超の「年間3,000億ドル(約46兆円)以上」に引き上げることで合意し、閉幕しました。
「COP」とは「Conference of the Parties」、「締約国会議」という意味なので、いろいろな条約に関する国連会議で用いられる略称です。しかし、世界200カ国近くが参加する最も規模の大きなものが「気候変動」に関する会議なので、内容にまで触れずとも「COP29」と言うだけで「29回目の国連の気候変動に関する締約国会議」という解釈になります。
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途上国が先進国に要求した「気候資金」の年額
で、そんな今回の「COP29」では、先進国が途上国の温暖化対策を支援するための気候資金をいくら出すのか、というテーマが最大の議論となりました。何をもって先進国とするかは複数の定義があるので一概には言えませんが、ザックリ言えば世界は約50の先進国と約150の途上国によって構成されています。そして、日本を含むG7を筆頭とした先進国側が、途上国側に対して「気候資金」を支払って来ました。
現在、先進国側から途上国側へ支払われている気候資金は「年間1,000億ドル(約15.5兆円)」です。しかし、この金額が支払われる期限が来年2025年までなので、今回は「2026年以降の気候資金をいくらにするか」ということが議論されたのです。そのため、途上国側を「労働組合」、先進国側を「大企業」に見立てれば、今回の「COP29」は、まさに「春闘」だったわけです。そして今回、日程が2日ほど延長されたのは、「労働組合」である途上国側の要求に対して、「大企業」である先進国側の回答がまったく折り合わなかったからです。
現在の「年間1,000億ドル」という気候資金に対して、途上国側は「これではまったく足りない」という統一意見であり、今回は現在の13倍の「年間1兆3,000億ドル(約201兆円)」を要求しました。しかし、先進国側にも、それぞれのお国事情やお財布事情があるため、足並みは揃いません。
そもそもの話、現在の「年間1,000億ドル」という気候資金の金額は、2009年にデンマークで開催されたCOP15で「2020年までの目標」として掲げられたものでした。しかし、これだけの金額は一朝一夕には集まらず、2020年までに目標は達成できませんでした。そして、何とか「年間1,000億ドル」という目標が達成できたのは、2年遅れの2023年、つまり昨年だったのです。これには多くの途上国から批判の声が噴出しました。
で、ここまでの流れを踏まえた上で、今回の合意内容へと戻りますが、今回、日程が2日ほど延長されたのは、新たな目標金額がなかなか折り合わなかったからです。現在の「年間1,000億ドル」を13倍の「年間1兆3,000億ドル」に引き上げろという途上国側と、2.5倍の「年間2,500億ドル」が精いっぱいだという先進国側とでは、金額が乖離し過ぎていたのです。
そして、最終的には先進国側が次の目標額を現在の3倍超の「年間,3000億ドル以上」へと引き上げることで、何とか形だけは「合意」という体裁を整えたのですが、これにしたって現時点では「絵に描いた餅」に過ぎません。初めに書いたように、あくまでもこれは「2035年までの目標」だからです。
現在の「年間1,000億ドル」という目標ですら、達成までに2年遅れて14年も掛かったのです。わずか10年でそれを3倍以上にするなんて、本当に可能なのでしょうか?そして、この合意案が奇跡的に達成できたとしても、それは途上国側が必要な温暖化対策の経費として要求している金額の4分の1にしか過ぎないのです。さらに言えば、国連のグテーレス事務総長は、今回のCOP29の開催に当たり、次のように述べていました。
「途上国はクリーンエネルギーへの移行やすでに直面している厳しい気象に対処するために緊急の支援を必要としており、COP29では数兆ドルの新たな資金目標に合意する必要がある」
途上国は現在の13倍の「年間1兆3,000億ドル」を要求しましたが、途上国全体の現状を総括的に検証したデータを見たグテーレス事務総長は「数兆ドルが必要」と述べていたのです。しかし、結果は「3,000億ドル以上」でした。一応「世界全体で途上国への官民合わせた拠出額が2035年までに年間1兆3,000億ドル(約201兆円)に達するよう目指す」という文言を成果文書に掲載することで折り合いを付けましたが、この文言には何の効力もなく「絵に描いた餅」ですらありません。これでは、言葉は悪いですが「焼け石に水」です。
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中印はいつまで途上国側に居座っているつもりなのか
2日間の延長の末、この合意案の内容が発表されると、会場は拍手に包まれました。しかし、インド代表として参加していたチャンドニー・ライナ氏は「この文書に書かれた金額はあまりにも少なく、私は目の錯覚かと思った。こんなハシタ金では私たちが直面している重大な課題に対処することはできない」と不満を爆発させたのです。
そして、小島嶼国(しょうとうしょこく)連合(AOSIS)のセドリック・シュスター議長は「私たちの島々は海に沈みつつある。そんな私たちの国々の人々や子どもたちのもとへ、こんなにも不十分な合意文書を持って帰れと言うのか」と怒りと悲しみを滲ませた目で述べました。
…というわけで、遅ればせながら、ここで昨年度のCO2排出量のワーストランキングの上位5カ国を見てみましょう。数字の単位は「100万トン」です。
1位 中国 11,218.37
2位 米国 4,639.71
3位 インド 2,814.32
4位 ロシア 1,614.73
5位 日本 1,012.78
これを見て、あたしが感じたことを率直に言わせてもらうと「インドはいつまで途上国側に居座ってるつもりですか?」という一点です。確かにインドの貧困率は高いですが、その一方で、もの凄い大富豪もたくさんいます。温暖化による海面上昇で海へ沈み行くツバルなどの小島嶼国のように、ほとんどCO2を排出していないのに大国のシワ寄せで被害を受けている途上国への支援は当然ですが、インドのように自分の国で大量のCO2を排出していながら、先進国からカネをむしり取ろうという手口は納得できません。自国の大富豪たちの資産に高率の税を課すなどして、自国のことは自国でやってほしいと思います。
また、世界最大のCO2排出国であり、世界2位の経済大国でありながら、未だに「途上国」として優遇されている中国は、今回も先進国側が主導した成果文書の草案を批判し、気候資金の「年間1兆3,000億ドル」への引き上げを要求する途上国側の立場を強調しました。一方、そんな中国に対して、先進各国からは不満の声が噴出しています。日本を始めとした先進各国からは「中国はCO2排出量を増やしながら経済成長して来たのだから気候資金も応分を負担すべき」との声が強まりました。
これに対して中国は、途上国間での「南南協力」などの枠組みで、2016年以降にトータルで約240億ドルの気候資金を拠出したと表明しました。つまり、中国もやることはやっている、という言いぶんですが、アフリカの国々を食い荒らしている現状からも推測できるように、中国の途上国への資金援助はすべて見返りありきのビジネスなのです。この自称「気候資金」も実体は不明なのです。
こうした現状を見れば、2017年に当時のドナルド・トランプ大統領が「中国やインドやロシアは何も貢献していないのに、アメリカだけが何十億ドルも払わされる不公平な協定だ!」とブチ切れて「パリ協定」から離脱したのも一理あると思わざるをえません。
そんなアメリカは、2021年にジョー・バイデンが大統領に選ばれたことで「パリ協定」に復帰し、途上国への気候資金もオバマ政権時の約4倍の「年間110億ドル」の搬出を掲げました。そして、毎年増額し続け、昨年2023年には「年間95億ドル」と、日本に次ぐ先進国2位の貢献をしたのです。しかし、これが国内で格差と分断が広がり続ける今のアメリカでは批判され、「アメリカ・ファースト」を叫ぶトランプを勝利させる一因となってしまったのです。
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話題の中心となった「トランプを選択した米国」への失望
…そんなわけで、今回のCOP29では様々なテーブルで話題の中心になったのが、「温暖化などデマだ!」と連呼し「パリ協定からの再離脱」を公言するドナルド・トランプを選択してしまったアメリカへの失望でした。
COP29に参加していた英ケンブリッジ大学の気候変動をめぐる国際交渉の専門家、ジョアンナ・デポレッジ教授は「途上国への支援を行なっているアメリカ以外の先進国は、トランプ氏が大統領に就任したらアメリカが1セントも支払わなくなること、そして、その不足分を自分たちで埋め合わせしなければならなくなることを認識して危惧しています」と述べました。
結局のところ、CO2排出量が多い世界ワースト5カ国の中で、毎回のように不名誉な「化石賞」を受賞しながらも、どの先進国よりも多額の気候資金を支払い続けている日本以外は、4カ国とも極端な「自国ファースト」であり、本気で温暖化を止めようなどとは考えていないのです。ま、「COP」も外交の場なので、多くの国が「自国ファースト」になるのは仕方ない一面もありますが、みんなで協力しなければ対応できない地球規模の問題までこのアリサマでは、ハッキリ言ってお先真っ暗です。
こうした残念過ぎる「COP」という形だけの国連会議について、スコットランドのリベラル系オンラインマガジン「ベラ・カレドニア」のマイク・スモール編集長は、11月24日付で「COP – Corporate Oil Propaganda – Copaganda?」という、とても興味深い記事を発表しました。この「COPとは、石油企業によるプロパガンダ、名づけてコパガンダじゃね?」というタイトルに興味を持った人は、ぜひ、以下のリンクから自動翻訳などを駆使して記事をお読みください。
● COP – Corporate Oil Propaganda – Copaganda?
(『きっこのメルマガ』2024年11月27日号より一部抜粋・文中敬称略)
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