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残念で寂しい。石橋湛山の言葉を引いた石破首相「所信表明」演説はなぜ物足りなかったのか?

去る11月29日、衆参両院本会議で第216回国会における所信表明演説を行った石破首相。その冒頭と結語に石橋湛山の言葉を引用したことが各メディアで伝えられましたが、識者はこの演説をどう受け止めたのでしょうか。今回のメルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』では生きづらさを抱える人たちの支援に取り組むジャーナリストの引地達也さんが、前回の所信表明に引き続き「残念」と感じた箇所を指摘するとともに、社会保障が後ずさりしているようにも見えるとして、その理由を解説しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:すべての国民を幸せにするための石橋の言葉、石破の言葉

すべての国民を幸せに。石橋湛山の言葉を引いた石破首相の所信表明演説に何を感じたか

石破茂首相は11月29日、衆参両院の本会議で所信表明演説を行った。

所得税の納付が必要になる「年収103万円の壁」の引き上げや政治資金規正法に関する改革等、喫緊の課題への対応や安全保障への取り組み等、盛り込む内容は多く、多岐なる政策を一定の時間に収めるのは難しい。

独裁的な体制の国家であれば、長時間の演説は聞けぞと権威を振りかざすこともできるが、権威主義的態度は国民からの嫌悪を招くから、そうもいかない。

その「制約された」演説の中で、福祉や障がいに関する社会保障の言及が少なかったのは前回に引き続き残念である。

演説の冒頭で1957年2月の石橋湛山内閣の施政方針演説である「国政の大本について常時率直に意見を交わす慣行をつくる」との言葉を引用し、議論への積極的姿勢を見せているのは、新しいものの、議論の材料となる中身は、これも限定的なような印象があるから寂しい。

10月の衆院選で自民、公明両党の与党は過半数割れし、野党の協力を得なければ国会では法案が成立しない状況。

だからこその「真摯に、そして謙虚に国民の安心と安全を守るべく取り組む」との言葉である。

今回の重要政策課題を「外交・安全保障」「日本全体の活力」「治安・防災」とし「全ての国民の幸せを実現する」と訴えた。

日本全体の活力を取り戻すために、宮崎県小林市、鹿児島県伊仙町の事例を紹介し、「これらを決して1つのまちの物語にとどめてはなりません」と言う。

日本全体の活力につなげるために「デジタル技術の活用や、地方の課題を起点とする規制・制度改革を大胆に進めていきます」とのこと。

オンラインで障がい者をつなぐ活動とつながる改革を望んでしまう一方で、労働者や事業所不足で悲鳴を上げる地方の高齢者介護にもつながるもう一声がほしかった。

その演説で私が注目している「社会保障」は、「皆様に安心していただける社会保障制度を構築」するとし、「本格的な人口減少の中であっても、現役世代の負担を軽減し、意欲のある高齢者を始め女性、障害者などの就労を促進し、誰もが年齢にかかわらず能力や個性を生かして支え合う、全世代型の社会保障を構築していきます」とした。

またもや障害者雇用の促進である。

演説中に出てくる唯一の障害者が就労に結び付けているのが、この日本で置かれている障害者の立ち位置なのだろうか。

全世代型の社会保障という言葉で、どんな人も、という思いを具現化するための多様な活動や支援を促してほしいと思う。

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石破首相が結語で再度示した石橋湛山の施政方針

しかしながら、「国民の安心・安全と持続的な成長に向けた総合経済政策」として示した内容は、マイノリティの存在は見えない。

この政策の目的として、第一は「日本経済・地方経済の成長」と明言した。

経済対策の一環として「今後2030年度までにAI・半導体分野に10兆円以上の公的支援を行い、10年間で50兆円を超える官民投資を引き出します。経済安全保障の強化や、リスキリング(学び直し)を含む人への投資も促してまいります」と前政権から「リスキリング」を引き継ぐが、これは経済効率寄りで「誰にとっても」のリスキリングからはまた遠のいた気がする。

さらに第二として「成長型経済への移行にあたり誰一人取り残されないようにすることが重要です」との「誰一人取り残されないように」とするために成長型経済が前提なのか、と考えると、社会保障が後ずさりしているようにも見える。

結語には、冒頭で触れた石橋湛山の施政方針を再度示した。

「常に国家の永遠の運命に思いをいたし、地方的利害や国民の一部の思惑に偏することなく、国民全体の福祉をのみ念じて国政の方向を定め、論議を尽くしていくように努めたい」。

ここは石橋湛山ではなく、石破茂の言葉でもよかったような気がする。

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image by: 首相官邸

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障がいがある方でも学べる環境を提供する「みんなの大学校」学長として、ケアとメディアの融合を考える「ケアメディア」の理論と実践を目指す研究者としての視点で、ジャーナリスティックに社会の現象を考察します。

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