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まるで日本の情弱老人。右翼系ユーチューバーの陰謀論を真に受け「非常戒厳」を宣言した韓国ユン大統領の認識力

昨年12月3日の尹錫悦大統領による非常戒厳令の宣布以来、大きな混乱が続く韓国。1月15日には尹氏が同国の現職大統領として初めて拘束されるなど、混迷ぶりに拍車が掛かるばかりの事態となっています。今回のメルマガ『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』では著者の伊東森さんが、大統領逮捕に揺れる韓国社会の現状を紹介。その上で、同国が直面している「深刻な分断」の原因について分析・解説しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:韓国・尹大統領逮捕 大統領警護庁、心理戦で無力化される 大統領、右翼ユーチューバーにはまる

右翼ユーチューバーにハマった?ユン大統領の逮捕劇で明らかになった深刻な韓国社会の分断

ここ1カ月、韓国の政治情勢は深刻な危機に直面している。15日、尹錫悦大統領が内乱容疑で拘束されるという、韓国憲政史上初の事態が発生。そしてこの出来事は、単なる一政治家の身柄拘束にとどまらず、韓国社会における深刻な分断と民主主義の危機を浮き彫りにした。

尹大統領は2024年12月3日に非常戒厳令を宣布したが、これが内乱の首謀行為とみなされ、高官犯罪捜査庁(高捜庁)と警察の合同捜査の対象に(*1)。しかし、尹大統領側は捜査の違法性を主張し、大統領警護庁を動員して拘束令状の執行を阻止するなど、強硬な姿勢を示した(*2)。

事態は、韓国の法の支配や政治制度の根幹を揺るがす深刻な問題へと発展。尹大統領の支持者と反対派の対立はさらに激化し、社会の分断が加速(*3)。

支持者側は「中国と北朝鮮が不正選挙に介入した」「野党代表はスパイだ」などの陰謀論を展開し、右派のメディアを通じて拡散。一方で、反対派は尹大統領を「内乱首謀者」として非難し、拘束を支持する姿勢を強めている(*4)

ただし、この対立は、韓国社会の健全な民主主義の発展を妨げ、国家の安定を脅かす重大な要因となっている。

尹錫悦大統領とは?

前職:検事総長

経歴:朴槿恵政権の疑惑を徹底捜査
   文在寅政権の検察改革に抵抗

特徴:政治経験のない初の大統領(民主化以降)

対日姿勢:関係改善に意欲を示し、反日世論を政治利用しないと表明

対北朝鮮:北朝鮮の核問題では、日米韓の連携を重視

出典:【図解】韓国大統領・尹錫悦氏のプロフィール

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捜査機関の「心理戦」で無力化された大統領警護庁

今回、大統領の逮捕という前例のない事態に直面し、大統領警護庁と捜査機関の間で激しい対立が発生。この状況は、韓国の法制度における重大な欠陥を浮き彫りにすると同時に、政府機関同士の衝突という未曾有の事態を引き起こす。

大統領警護庁は法律上、大統領を守る義務を負う。通常の状況下では不可欠な役割であるが、大統領が内乱罪で告発された今回のような事態では、その任務が捜査機関の職務と直接的に衝突。警護庁は約200人の職員による「人の壁」を形成し、軍の兵士まで動員して大統領を守ろうとしたが、これは法の執行を妨害する行為とも解釈され得るものだ。

一方、捜査機関は高官犯罪捜査庁(高捜庁)と警察の合同捜査本部を設置し、大統領の身柄確保を試みた。この対立は、大統領の逮捕を想定していなかった韓国の法制度の限界を露呈(*5)。

状況を打開するため、捜査機関は「心理戦」を展開。捜査機関は、逮捕状執行の妨害が公務員資格の喪失や年金の受給制限につながる可能性があると警告し、警護庁内部の結束を弱体化。この戦略により、最終的に大統領の身柄確保が可能となった(*6)。

※ 警察と大統領警護庁の動員力

▽人員

  • 警察 機動隊や捜査員、特殊部隊など 約2,800人
  • 大統領警護庁 警護庁要員や陸軍首都防衛司令部の兵士など 約1,800人

▽装備

  • 警察 ドローン、装甲車、自動小銃など
  • 大統領警護庁 多目的小型戦術車、拳銃、機関短銃など

出典:韓国大統領側、公邸を「要塞化」 悩む捜査当局、装甲車使用も検討

陰謀論にどハマりか。ユン大統領の主たる情報源

今回の騒動では、尹錫悦大統領の行動と発言が広く注目を集めている。特に、野党を「北朝鮮呼ばわり」する発言や、一部の陰謀論に傾倒していると指摘される状況が議論の的となっている。背景としては、大統領が主な情報源としてYouTubeを視聴している可能性が取り沙汰されている。

しかし尹大統領が特定の保守系YouTuberの主張に影響を受けているとの指摘は、単なる個人的な嗜好を超え、政策決定プロセスに歪みをもたらしている可能性を示唆。たとえば、大統領が「選挙管理委員会をはじめとする憲法機関と政府機関に対して、北朝鮮によるハッキング攻撃があった」を主張し、非常戒厳令の根拠として挙げた(*7)事例は、保守系YouTuberが広める「不正選挙」陰謀論と類似性がある。このこが、大統領の情報源が偏っているとの懸念を深める要因に。

さらに、大統領が野党を「従北勢力」と表現し、「中国や北朝鮮に国を奪われないために」と訴える支持者がいること(*8)も、韓国国内の世論の分断を浮き彫りにしている。このような言説がYouTubeを通じて広まり、大統領の認識形成に影響を与えている可能性は否定できない。

一方で、保守系YouTuberの影響力が増大する中、大統領公邸が彼らの「集結地」となっている現状(*9)は、政治的対立をより顕在化させている。

尹大統領が2024年12月12日に出した国民向けの談話

「選挙管理委員会をはじめとする憲法機関や政府機関に、北によるハッキング攻撃があったことを情報機関が発見し、情報流出と電算システムの安全性を点検しようとしたが、選挙管理委員会は憲法機関であることを掲げ、かたくなに拒否した」

「システム機器の一部だけを点検したが、状況は深刻だった。国家情報院の職員がハッカーとしてハッキングを試みると、いくらでもデータ操作が可能で、安全対策も事実上ないのと同じだった。民主主義の核心である選挙を管理する電算システムがこんなにでたらめなのに、どうして国民が選挙結果を信頼できるのか?」

出典:ネットの主張を大統領が… 韓国 非常戒厳の背景に何が?

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拮抗する与野党の支持率。韓国の深刻な分断を招いた要因

尹大統領の逮捕という前例のない事態のなか、しかし注目すべきは、この危機的状況下で与野党の支持率が拮抗し、むしろ与党の支持率が上昇傾向にあるという予想外の展開である。この現象は、韓国社会の複雑な力学と、政治的分断の深さを如実に物語っている。

韓国ギャラップの調査によると、尹大統領の弾劾に賛成する意見が57%である一方、反対意見も36%に達している(*10)。さらに、リアルメーターの調査では、大統領の逮捕に対して54.4%が賛成する一方で、44.5%が反対している(*11)。これらの数字は、韓国社会が深刻な分断状態にあることを如実に示している。

特に、年代別や性別によって意見が大きく分かれていることは、この分断が単なる政治的対立を超えて、社会の根本的な価値観の相違に根ざしていることを示唆しているだろう。

分断の背景には、韓国の複雑な政治史と社会構造がある。韓国社会は長年、保守派と進歩派の対立に悩まされてきた。対立は単なる政策の違いを超え、歴史観や国家観の根本的な相違に基づく。

例えば、日本統治時代の評価や北朝鮮との関係、経済政策など、様々な面で両者の見解は真っ向から対立(*12)。また対立構造は、政治の場だけでなく、メディアや教育の場にも及んでおり、社会全体を二分する結果となっている。

さらに、SNSの普及により「エコーチェンバー」現象も起き、結果、相手の意見を聞く機会が減少し、分断がさらに深まるという悪循環に陥っている。

【関連】韓国公安が日本人に対して「手帳を持ち歩くな」と警告した理由
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【関連】やりすぎた韓国ユン大統領。「非常戒厳」宣布で追い詰められた隣国の“珍しき親日政治家”の命運

引用・参考文献

(*1)「韓国・尹大統領の身柄拘束 取調室で事情聴取も“供述を拒否”徹底抗戦の構え」日テレNEWS 2025年1月15日

(*2)日テレNEWS 2025年1月15日

(*3)鴨下ひろみ「尹錫悦氏親衛隊『白骨団』の不気味さ…『韓国大統領拘束』で加速する陰謀論と若者層の分断 フジテレビ客員解説委員」FNNプライムオンライ 2025年1月16日

(*4)「【解説】尹大統領の拘束、韓国国民はどう反応したのか 深まる分断」BBC NEWS JAPAN 2025年1月16日

(*5)「韓国大統領を正式に逮捕、裁判所が新たな令状発布-非常戒厳巡り」Bloomberg 2025年1月19日

(*6)Bloomberg 2025年1月19日

(*7)「アングル:韓国大統領と人気右派ユーチューバー、『シンクロ』は偶然か」REUTERS 2024年12月17日

(*8)FNNプライムオンライ 2025年1月16日

(*9)「韓国の大統領公邸がYouTuberたちの『聖地』に… 戒厳令の後は右派と左派がディスり合ってカオス状態」東京新聞 2025年1月15日

(*10)「韓国、党支持率が与党39%・野党第1党36%に…政権喪失の危機感で保守結集か」HANKYOREH 2025年1月18日

(*11)「4割超が尹大統領逮捕に反対 分断あらわに 韓国世論調査」毎日新聞 2025年1月9日

(*12)澤田克己「研究レポート 政治的分極化進む韓国社会」公益財団法人 日本国際問題研究所 2024年3月26日

(『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』2025年1月19日号より一部抜粋・文中一部敬称略)

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伊東 森(いとう・しん): ジャーナリスト。物書き歴11年。精神疾患歴23年。「新しい社会をデザインする」をテーマに情報発信。 1984年1月28日生まれ。幼少期を福岡県三潴郡大木町で過ごす。小学校時代から、福岡県大川市に居住。高校時代から、福岡市へ転居。 高校時代から、うつ病を発症。うつ病のなか、高校、予備校を経て東洋大学社会学部社会学科へ2006年に入学。2010年卒業。その後、病気療養をしつつ、様々なWEB記事を執筆。大学時代の専攻は、メディア学、スポーツ社会学。2021年より、ジャーナリストとして本格的に活動。

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