かつて「戒厳令下の生活」を韓国ソウルで体験した朝鮮情勢専門家が明かす、新聞の「大きな漢字」

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世界中に驚きをもって伝えられた韓国ユン大統領による「非常戒厳」宣布のニュース。今回のメルマガ『宮塚利雄の朝鮮半島ゼミ「中朝国境から朝鮮半島を管見する!」』では、韓国・北朝鮮情勢に詳しい宮塚コリア研究所の代表である宮塚利雄さんが、今回の騒動について、過去に住んでいたソウルでの「戒厳令」の体験を明かしています。

韓国の非常戒厳令宣布騒動に思う

4日朝早くに知人から「韓国で非常戒厳令が宣布されたが、6時間後に解除されたようだ」という連絡があった。私は「非常戒厳令」という言葉に、まさか今の時代に非常戒厳令が宣布されるはずがないだろうと思っていたので驚き、思わず「ケイオムリョン(戒厳令)」という韓国語がよぎった。

1973年に韓国の大学院に留学し、韓国での生活にも慣れてきた1979年10月26日に、朴正熙大統領が部下に暗殺されるという事件が起きて世間を震撼させた。この事件後に非常戒厳が宣布されたので実に45年ぶりの戒厳令の宣布である。戒厳令下のソウルでの生活は、朴正熙大統領の強烈な「反共政策」が国家の隅々まで行き届いていたので、新聞紙の一面トップに「戒厳令発令される」というような見出しだったか、今と違い当時は新聞に漢字が使われており、「戒厳令」と大書された文字を今も思い出す。

今回の6時間にわたる「戒厳令騒動」についてテレビやラジオ、新聞などのマスコミは特集を組んで、朝鮮半島問題の専門家を動員して騒動の経緯を報じている。それにしてもなぜ尹錫悦大統領は非常事態宣言を宣布したのだろうか。戒厳令と言えば日本人にはあまりなじみがないように思われるかもしれないが、1936年に東京に戒厳令が敷かれた「2・26事件」については歴史の教科書で学んだので覚えている人も多いはずだ。

戒厳令とは何か。岩波の「広辞苑」には「戒厳を宣告する命令」とつれない説明だが、「戒厳」については「戦時・事変に際し、立法・行政・司法の事務の全部または一部を軍の機関に委ねること」とある。

要するに戒厳令とは「戦時や非常事態に宣布され、行政や司法権などを軍の統制下に移し、秩序の回復を図ること」で、日本でも明治憲法下にこの制度があったが、韓国では憲法第77条に「大統領が宣布する」と定めている。戒厳には「非常戒厳」と「警備戒厳」の二種類があり、尹錫悦大統領は軍の統制がより広範囲に及ぶ非常事態を宣布したのである。テレビのニュース番組では3日午後11時48分から4日午前1時18分までの間に、戒厳兵230人がヘリコプターで国会の敷地内に進入したのに加え、約50人は国会の周囲に設置された兵を乗り越えて進入し、4日午前0時34分には戒厳兵が国会議事堂の事務室の窓ガラスを割って中に入る様子を伝えていた。

金敏基国会事務総長が「軍兵力を動員して国会議事堂を踏みにじった」と記者会見で非難したというのも当然のことだ。国会内では議員補佐官らが、暗視装置などの装備を付け、銃を構えた戒厳兵が本会議場に進入しないよう、本会議場につながるドアの前に椅子などを置いてバリケードを作り消火器を噴射して対抗したというから尋常の沙汰ではなかったようだ。

ただ、国会が在籍議員の過半数の賛成で戒厳令の解除を要求すれば、大統領は解除しなければならないと定められており、今回の騒動では4日1時に国会本会議で出席議員190人全員の賛成で解除要求議案が可決されると本会議場では拍手が起こり、戒厳兵らは午前2時過ぎに国会から撤収した。なお、日本国憲法には「戒厳令の規定」はない。

韓国では1948年の建国以来計16回の戒厳令が宣布され、そのうち12回は非常戒厳だった。この戒厳令は民主化を求める市民を軍が弾圧した「光州事件」以後は宣布されることがなかった。私は光州事件が勃発した日は、某銀行から依頼されて水原にあるその銀行の研修所で、数人の日本に派遣される行員を相手に日本語の講習を行っていたが、行員が「先生、すみません。今日は日本語の授業を受ける用意はありません。今、地方で大変なことが起きており、そちらの動向が気になり、日本語の講習どころではありません」と言って来たことがあった。

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image by: Hashflu, CC BY-SA 4.0, ウィキメディア・コモンズ経由で

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元山梨学院大学教授の宮塚利雄が、甲府に立ち上げた宮塚コリア研究所から送るメールマガジンです。北朝鮮情勢を中心にアジア全般を含めた情勢分析を独特の切り口で披露します。また朝鮮半島と日本の関わりや話題についてもゼミ、そして雑感もふくめ展開していきます。テレビなどのメディアでは決して話せないマル秘情報もお届けします。長年の研究対象である焼肉やパチンコだけではなく、ディープな在日朝鮮・韓国社会についての見識や朝鮮総連と民団のイロハなどについても語ります。

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